「越前がに」GI法違反を問う 【寄稿】疑問が残る違反とされた表示と課題
元食品表示Gメン 中村 啓一
農林水産省は9月24日、地理的表示(GI)「越前がに」を巡る不正表示があったとして、福井県越前町にGI法に基づく措置命令を出した。この問題が報じられた後、食品表示制度に詳しいメディア関係者や表示担当者から、GI法と食品表示法が定める原産地表示との関係について疑問の声が上がっているという。今回の措置をどう捉えるべきなのか。かつてGI法で定める「農林水産大臣が意見を聞く学識経験者」を務めた中村啓一氏(=写真)に、違反とされた表示と食品表示法との関係、今後の課題について寄稿してもらった。(編集部)
農林水産省は、地理的表示である「越前がに」について、福井県越前町による不正な表示を確認したとして、9月24日、同町に対し、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(以下「GI法」)の規定に基づき、地理的表示の除去・抹消、再発防止策の実施等について措置を命じた。
筆者は、2015年10月から2022年1月までGI法で定める「農林水産大臣が意見を聞く学識経験者」を務めていたが、今回の措置内容について、食品表示を担当する関係者等から疑問や問い合わせが寄せられている。
違反とされた表示
農林水産省は、福井県越前町が、ふるさと納税ポータルサイトにおける表示責任者として、少なくとも2020年9月から26年4月までの間、「越前がに」と表示できない福井県産ずわいがに(水がに)を原材料に過半を超えて混入した商品について、同サイト上で「越前がに」と表示して掲載し続けていたことを確認したとし、GI法違反となる地理的表示の不正使用に該当するとした。
同町は「水がにも越前がにと思い込んでいた」と弁明しているとの報道があるが、それが事実なら地域ブランドを保護すべき行政として無責任であり怠慢といわざるを得ない。
さらに、「水がに(脱皮後の甲羅の柔らかい状態のかに)」又はその加工品について「越前産水がに」、「越前水がに」及び「越前産ずわいがに」、「紅ずわいがに」又はその加工品について「越前産紅ずわいがに」及び「越前紅ずわいがに」、「黄金がに(本ズワイガニと紅ズワイガニの自然交配種)」又はその加工品について「越前産黄金がに」と、それぞれ旧国名の「越前」で表記したことが、GI法が禁じる「地理的表示に類似する表示又はこれと誤認させるおそれのある表示」として不正使用に該当するとした。
これについて、「ふるさと返礼品『越前がに』に『水ガニ』混ぜ不正表示」、「越前がにが使われていると誤認を招く表示」と報道されたことから誤解を招いたようだ。
地理的表示「越前がに」を原料とした加工品
地理的表示である「越前がに」を原料とした加工品に、地理的表示に該当しない同種の原料を使用することは認められている。
GI法は、「特定農林水産物等に係る地理的表示又はこれに類似する表示若しくはこれと誤認させるおそれのある表示を使用してはならない(第3条2項)としており、加工食品については「特定農林水産物等を主な原料若しくは材料として製造され、若しくは加工された農林水産物等又はその包装等に当該特定農林水産物等に係る地理的表示又は類似等表示を使用する場合」はこの限りでない(同)としている。
「主な原料」については、地理的表示(GI)の使用に関するガイドライン(農林水産省)で、(地理的表示登録産品)を商品名又はキャッチコピーに用いる場合は、原材料として使用される同種の農林水産物等の過半の量を占めていることとされている。
今回は、「越前がに」に該当しない「水がに」が過半を超えて使用されていたことからGI法違反とされた。商品名等へのGI使用に関する原材料の割合という点では、「水がに」の使用が5割未満であれば、「越前がに」が同種原料の過半を占めるという要件を満たすことになる。
この場合、食品表示法の規定に注意が必要だ。食品表示法はポータルサイトには適用されないが、消費者に届く容器・包装への表示には適用される。食品表示法で定める食品表示基準は、任意で使用した原材料が特色のある旨を表示(強調表示)する場合、同一の種類の原材料が100%に満たない場合は使用割合を表示することが義務付けられている(食品表示基準7条)。
旧国名の使用はどこまで違反か
農水省は、「水がに」、「紅ずわいがに」、「黄金がに」に旧国名である「越前」を冠して表示したことが、「地理的表示に類似する表示又はこれと誤認させるおそれのある表示」とした。
この判断に疑問の声が寄せられている。加工品の主要原材料の産地表示に旧国名を表示することは食品表示法で認められている。同法は加工品の主要原料に生鮮食品を使用した場合に国名の表示を義務付けているが、原材料が国産の水産物の場合、「国産や日本産などに代えて水域名、水揚げ港名、水揚げ港又は主たる養殖池が属する都道府県名その他一般に知られている地名の表示ができる」としており、「一般に知られている地名」として土佐、越後などの旧国名を例に挙げている(食品表示基準Q&A原原17、20)。
以上から、商品に旧国名の「越前」を表記すること自体は問題ないが、それが「地理的表示に類似する表示又はこれと誤認させるおそれのある表示」に当たるか疑問がある。
地理的表示「越前がに」の出荷規格は、「雄がには甲幅9センチメートル以上。ただし、水がに(脱皮後の甲羅の柔らかい状態のかに)ではないものに限る。 雌がには産卵を行い腹部に卵を抱えた成熟がに。ただし、発眼前の赤色の卵を抱えた『あかこ』ではないものに限る」としており、「水がに」は対象外であることが明記されている。
また、「越前がに」は「福井県内の港に水揚げされたずわいがに」としており、「紅ずわいがに」、「黄金がに」は「ずわいがに」とは異なる品種であり、「越前がに」に該当しないことは明らかだ。
これらの商品に「越前がに」と表示できないことに疑問の余地はない。問題は、「越前がに」ではなく、産地を示す旧国名として「越前」を冠した表示までGI法上の類似等表示として禁止できるかという点である。食品表示法では旧国名による産地表示が認められており、両制度の関係をどう整理するか議論のあるところだ。
食品表示法との整合性
地理的表示(GI)の使用に関するガイドライン(令和8年3月農林水産省)では、「事実の一部や特定の側面を、より一般的に表記できるにもかかわらず、その方法によらない表記」を類似等表示として使用禁止としており、例として「登録産品『飛騨牛』とは異なる牛肉について、その産地の表示として、『国産』や『岐阜県産』等の表記が可能であるにも関わらず、旧国名である『飛騨』という地名を用いて表記」を示している。
一方、登録産品の「徳島すだち」を例に、生鮮品のすだちに対して、「産地表示として『徳島県産』又は『徳島県』と表示していることが明らかなため、登録産品『徳島すだち』と誤認は生じないと考えられる」としている。
とすると、同じ牛肉でも登録産品の「宮崎牛」に対しては「宮崎県産牛肉」の表示は許されることになる。
食品表示基準は、加工食品について一般に知られている地名の表示ができるとしている。地理的表示の信頼を確保し産地ブランドを保護するために、類似する表示又はこれと誤認させるおそれのある表示を排除することは必要だ。しかし、表示制度は複雑であり行政には関係規則との整合を図るなど、消費者・事業者に分かりやすい対応を求めたい。
<プロフィール>
中村 啓一(食の信頼向上をめざす会事務局長)
1968年農林水産省入省。その後、近畿農政局 企画調整部 消費生活課長、消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長、総合食料局 食糧部 消費流通課長などを経て2011年に退官。著書:『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著(ぎょうせい)2008年、『食品偽装との闘い』(文芸社)2012年など。

