ステマ広告を巡る行政対応が本格化 医薬品・健康食品・美容業界を中心に措置命令続く
昨年から今年にかけて、消費者庁および東京都などの行政機関は、いわゆる「ステルスマーケティング」(ステマ)に対する法的措置を相次いで実施している。2023年10月より景品表示法(景表法)第5条第3号に基づくステマ規制が施行されたことで、広告と認識されにくい形式で商品やサービスを宣伝する表示について、厳格な取り締まりが進んでいる。
SNSやメディアを含む広範な表示が対象に
ステマ規制では、表示の発信者が事業者であるにもかかわらず、その事実が明確でない場合、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難な表示」とみなされ、景表法第5条第3号(誤認されるおそれのある表示)に基づき規制される。
対象となるのは、SNSやインフルエンサー投稿などのインターネット媒体に限らず、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった従来型メディアにも拡大される。
背景に「ステマ草刈り場」批判
消費者庁は23年9月~12月にかけて、有識者による「ステルスマーケティング検討会」を開催。会議では「日本は海外に比べてステマ規制が緩く、外資企業の“草刈り場”になっている」との厳しい指摘が相次ぎ、ステマ規制につながった。
広告であることが明示されないまま情報が流れることで、消費者が広告内容を事実として受け取りやすくなり、正しい商品選択が妨げられる懸念があるとされた。
広告は広告と分かるように
消費者保護の視点からは、「広告は、誰が、何の目的で発信しているのかを明確にすることが不可欠」との声が高まっており、ステマ規制の導入はその第一歩といえる。ステマに対する明確なルール整備により、広告表示の透明性がどこまで高まるか注目されている。
グーグルマップで“口コミステマ”
施行後の24年6月、消費者庁は(医)祐真会(東京都大田区)に対し、Googleマップ上の口コミ評価において、報酬を支払って肯定的な評価を投稿させていたとして、ステマ規制に基づき初の行政処分を行った。
続く同8月、24時間営業のコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」を運営するRIZAP㈱(東京都新宿区)が標的となった。
インフルエンサーに有償でInstagramへの投稿を依頼し、「気になっていた『chocoZAP』ついに入会しちゃった」、「なんと完全個室のセルフ脱毛が使い放題 !!←これにかなり惹かれた感ある」、「しかも服装自由・シューズの履き替え不要で来たままの服装でメチャクチャ気軽に通える!」などと表示された投稿に、ライザップの関与が認められるとし、消費者庁はこれらがステマ広告「5条3号告示」違反に当たると認定、措置命令を下した。
サプリメント広告でステマ適用相次ぐ
24年11月、大正製薬㈱(東京都豊島区)は、自社のサプリメント製品に関する広告表示について、消費者に広告であることを明示せずに宣伝を行っていたとして措置命令を受けた。
これは、健康食品・サプリメントにおいて、ステマ規制が初めて適用された事例であり、今後の業界対応に大きな影響を与えることが予想された。この時、同社は「真摯に受け止める」とコメントしている。
そして今年(25年)3月、またしてもサプリメントの広告宣伝でステマを行っていたとして、ロート製薬㈱(大阪市生野区)が措置命令を受けた。
消費者庁がステマ告示に該当する不当な表示として違反認定したもののうち、サプリメントについては昨年11月の大正製薬㈱に対する措置命令に次ぐ2例目となった。
東京都も対応強化、自治体初となるステマ適用
自治体として初めてとなるステマ告示違反も出た。東京都は独自に景表法違反に対する対応を強化しており、これまでにも複数の健康関連企業に対して措置命令を出している。化粧品や健康食品に関する虚偽・誇大広告、根拠のない効能表示、さらにアフィリエイトを通じた不当表示に関しても、厳しく追及している。
今年3月28日、東京都は『酵素づくしのべっぴん炭クレンズ』を販売する通信販売会社㈱ダイエットプレミアム(東京都渋谷区)に対して、自治体初となるステマ告示違反の適用を行った。
同社は仲介事業者を経由し、複数のインフルエンサーに対して対価を提供することを条件に、同品についてInstagramに投稿を依頼したことによって当該インフルエンサーらが投稿した表示を同社が依頼した投稿であることを明らかにせずに抜粋して、自社販売ウェブサイトで表示していた。
ステマとマーケティングの境界に社会的関心
近年、消費者庁の審議会でも指摘されているように、ステマと合法的なマーケティング活動との線引きは非常にあいまいになりつつある。特にインフルエンサーの投稿やアフィリエイト型広告は、消費者が「広告である」と認識しづらい形式をとることが多く、行政としてもその表示形式や周知手法について基準の明確化が課題となっている。
消費者への呼びかけも強化
消費者庁および東京都は、不当表示やステマ広告に関する相談・通報を呼びかけている。実際の効果や根拠をうのみにせず、商品やサービスの選択にあたっては、表示内容をよく確認するよう消費者に求めている。
今後、ステマ広告に関する取り締まりは、さらに広範囲に及ぶとみられる。広告主側も、広告表示の内容だけでなく、アフィリエイト先やインフルエンサーによる拡散内容についても、十分な管理体制を構築する必要がある。
ステマ適用には慎重な対応を
消費者庁によるステマ規制の運用について、「グレーなケースにまで重い行政処分を適用すべきではない」という識者からの指摘もある。
明確な処分基準の策定と周知が必要であり、疑義のある表示にはまず非公表の行政指導で対応すべきとし、限られた調査資源は、悪質で典型的なステマの摘発に集中すべきと警鐘を鳴らしている。「処分の妥当性に疑問があるケースが続くと、信頼を損ねかねない」との懸念も示されている。
【田代 宏】
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