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日本学術会議「サプリ提言」への意見 【寄稿】唐木英明・東京大学名誉教授、機能性食品の改革に本当に必要なこと

 日本学術会議の「サプリ提言」に対する、唐木英明・東京大学名誉教授による論考の第2弾をお届けする。前回の論考(3月12日付)から視座の広がりを見せているのが今回の特徴だ。日本の「健康食品(機能性食品)」の在り方は今のままでいいのか──そうした問題意識を背景に置きながら提言を論じている。本論考の掲載に向けて撮影した動画もあわせてご覧いただきたい。【編集部】

 日本は世界に先駆けて「食品の三次機能(生体調節機能)」という概念を確立し、健康食品の科学的根拠を確立した。しかしその社会実装の過程で、制度の複雑化と安全管理の脆弱性が顕在化して、健康被害が発生した。日本学術会議が2026年2月に発表した提言「我が国の機能性食品制度に関わる課題とその対応」(以下「提言」)は、健康食品の安全性に関する課題を総括し、対策を述べたものである。その内容を一言でいうと、健康食品の機能は消費者庁で審査し、安全性は食品安全委員会で審査することとし、対策の実施のために「サプリメント法」を制定するというものである。この「提言」について私見を述べる。

1. 安全性向上のための改善策

 「提言」の中心的課題は「安全」であり、これを守る仕組みを事業者の「自己責任」から「公的審査と義務的監視」に転換することを提案している。具体的には、機能性表示食品の「届出制」を廃止し、「個別許可制」に移行する。さらに、サプリメント(以下「サプリ」)形状の機能性表示食品の安全性はすべて「食品安全委員会」による審査を義務付ける。サプリ形状の「いわゆる健康食品」については、その形状や摂取方法が医薬品に近いものとして、消費者庁で安全性の評価を行い、懸念のある商品には改善の指導を行う。

2024年の法令改正でサプリ形状の機能性表示食品にはGMP(適正製造規範)が義務付けられたが、「提言」はこれをサプリ法で定める「すべてのサプリ」に適用すべきとしている。また、事業者による自主点検だけでなく、消費者庁による立入検査や、事業者間での「相互認証・相互評価制度」の構築も求めている。

 健康被害が発生した場合の保健所への報告義務化は、機能性表示食品とトクホに限らず、すべての健康食品事業者に広げるべきとしている。さらに、製品の販売後に長期的な健康影響を追跡する「市販後調査」を事業者に求めることで、臨床試験等では見つからなかった稀な副作用や、長期連用によるリスクを早期に発見できる仕組みを構築する。

 健康食品制度において「長い食経験(食歴)」は安全性を判断する重要な柱となってきたが、「提言」では、食品とサプリでは、体内での挙動や安全性が全く異なると指摘し、「長く食べられてきたから安全」という論理では、長期間の微量摂取による慢性毒性や蓄積性の健康影響を否定しきれないとしている。

2. 食品・サプリ・医薬品3区分の実施

 米国、EU、ASEAN等では、サプリは食品とも医薬品とも異なる独自の定義で分類されている。「提言」は、日本においても「通常の食事を補うことを目的とし、食品の一次機能または三次機能を有する成分を含むサプリ形状の製品」と定義し、食品や医薬品と法的に区別して扱うことを提案している。この再分類により、現在「食品」として流通している健康食品を、より厳格な製造・品質管理基準を求める「サプリ」に移行する。しかし、移行するのはすべての健康食品ではなく、サプリ形状の健康食品だけである。

 現在の市場には「特定保健用食品」、「機能性表示食品」、「栄養機能食品」、そして法的な定義のない「その他の健康食品」の4種類が混在している。「提言」は、これらを「形状」と「科学的根拠の性質」に基づいて再編している。その中核をなすのは、錠剤、カプセル、粉末などの「サプリ形状」の製品を、通常の食品とは異なる法的区分「サプリ」として独立させる「形状による区分」である。サプリ形状製品は、通常の食品と異なり、味や匂いといった二次機能(嗜好性)が排除されており、特定成分を容易に高濃度かつ多量に摂取できる特性を持つ。そのため、不純物の混入や過剰摂取のリスクが高く、同一の法規で扱うことには科学的合理性がないという理由である。ただし、トクホは製品そのものの機能性がヒト試験で証明され、安全性は食品安全委員会が審査し、公定マークによって他と明確に区別できるため、サプリ法の適用外として現行制度が維持される。サプリ形状以外の健康食品は食品の区分のままである。「提言」による再編案を整理すると、以下のようになる。

3. 「提言」の必要性と有効性と実現可能性

 「提言」の「安全を守る」という姿勢は評価されるが、具体的な対策については多くの問題がある。

 第1に、紅麹サプリ問題は、製造工程にアオカビが混入したという人為的ミスであり、安全文化の欠如である。加えて、サプリ形状のため有毒成分が濃縮されたことも原因になった。その対策として、国はサプリ形状の健康食品にGMPを義務化している。「提言」は、これに加えて、食品安全委員会などの公的な安全性審査が必要としているが、これは対策にはならない。その理由は、食品安全委員会の審査は成分の安全性審査であって、予期せぬ有毒成分の混入防止対策ではなく、ましてや安全文化の確立ではないからである。

 第2に、安全文化の確立は個々の企業の問題であり、届け出制という機能性表示食品の制度の問題ではない。従って、届け出制を個別許可制にするという制度の変更が、安全性を高めることにはならない。実際に、非常に厳しい規制が行われている医薬品においても、経口抗真菌薬に睡眠導入剤が混入するという人為ミスにより被害が発生した例がある。費用対効果の考え方から言えば、小さな効果に過大な費用をかけることになる。

 第3に、現在の4種類の健康食品の違いでさえ、消費者には理解が困難という現状は「提言」にも記載されている。にもかかわらず、これをさらに増やして、7種類の健康食品を作ること、さらに、サプリ形状のトクホは食品に分類し、サプリ形状の機能性表示食品はサプリに分類するという措置は、消費者はもちろん専門家にとっても簡単には理解できない。科学的正確性を求めた結果、非現実的な分類になったと言わざるを得ない。欧米では、食品、サプリ、医薬品の3区分を採用しているが、これに倣って、消費者が理解できる単純明快な分類に改めるべきである。

 第4に、トクホは国の審査が行われていることを理由に「特別扱い」をしているが、その一方で、トクホの重大な問題について取り上げていない。それは、機能性表示食品の届け出資料はすべて公開され、だれでも検証できるのだが、トクホの審査資料は公開されず、検証が困難な点である。トクホ制度を是認するだけでなく、その問題点である透明性の問題にも言及すべきである。

 第5に、サプリ法という新法を作るには、国会での議論を含め多大な政治的エネルギーが必要となる。これを可能にする鍵は、その必要性について、国民、行政、議員に説明して納得を得ることである。世界各国と比較したとき、日本の独自性は、ビタミン・ミネラルといった栄養素の補給だけでなく、学術的に定義された「食品の三次機能」を正式にサプリの機能として認めている点にある。諸外国では、これらの機能は「Health Claims(健康表示)」として厳格に制限されるか、あるいは伝統的医薬品として扱われることが多い。「提言」では、日本が培ってきた機能性食品科学の成果を最大限に活かして、健康食品が、国民の健康維持にいかに重要な役割を担っているのか、その社会的意義についての説明し、「サプリ法」に結実させることが期待された。しかし、残念ながら、「提言」には「サプリ形状の健康食品はリスクがあるから法律で規制すべき」という説明しかない。これでは納得を得ることは困難であり、新しい法律には結びつかないのではないだろうか。

 第6に、個別許可制への移行は、消費者庁の審査負担を爆発的に増大させる。機能性表示食品の届出数は数千件に達しており、これらを個別審査するためには、審査官の大幅な増員と専門委員会の常設が不可欠であり、これに伴う行政コストの増大をどのように賄うかが課題となる。

 第7に、産業界、特に中小企業からは、規制強化による市場の収縮や、開発コストの増大を懸念する声が出ている。「提言」は、「国がGMP管理や商品開発を支援する制度」を整えるべきだと述べているが、ここでも「それだけの費用をかけて、どの程度の効果が得られるのか」という費用対効果の観点が欠如していると言わざるを得ない。

 第8に、「提言」は、小学校から高等学校までの学校教育において、機能性食品やサプリの正しい知識、行政制度、過剰摂取のリスクについて段階的に指導する機会を設け、大学教育においても、医療・食品科学分野だけでなく幅広い分野でリスク管理教育を導入することを求めている。健康食品のリスクだけを教育し、最も重要なセルフメディケーションへの利用と社会的意義に触れていない点は、バランスの欠けた教育と言わざるを得ない。

4. 「提言」の背景にある「健康食品無用論」

 この「提言」だけでなく、国の対策も、日本弁護士会の「サプリ法」議論も、すべてに共通するのが「規制の強化」である。そして、その背後に見え隠れするのが「健康食品無用論」、すなわち、「健康食品は効果がない・もしあれば薬になっている・だからそんなものはなくてもいい・多くの消費者はこれを信じているので、安全性だけは厳しく規制しよう」というものである。その典型が厚労省の「健康食品の正しい利用法」と題するパンフレットの最初の「飛びつく前に、よく考えよう!」というフレーズである。

 厚労省のパンフレットの根拠が、食品安全委員会が2016年に公表した「健康食品についての19のメッセージ」である。これは、健康食品の「起こりうる被害」を羅列したものであり、実際のそれがどの程度起こるのかについての「リスク評価」は行っていない。その結果、「健康食品は危険だから摂取しないほうがいい」というイメージを作り上げている。この問題の根は深く、筆者自身がかつては食品安全委員会のメッセージを支持し、厚労省のパンフレットに違和感を持つことはなかった。多くの識者がそのように考える理由は、健康食品に義務化されている「プラセボ対照試験」では、健康食品の効果を判定することが困難な場合が多く、だから、一見、効果がないように見えるからである。

 医薬品の試験においては、被験者は病人であり、そのバイオマーカーが異常側に大きく振れているため、薬物による改善の幅が大きくなりやすい。一方、健康食品の対象者は、健康な成人であるため、改善の余地そのものが極めて限定的である。従って、真に有効な成分であっても、プラセボとの統計的な差が出にくい状況にある。さらに、健康食品が主に対象とする「疲労感」「ストレス」「睡眠の質」などの主観的指標は、プラセボ効果の影響を受けやすい。この「低シグナル・高ノイズ」の条件下で行われる試験では、有効な成分であっても「有意差なし」という結果に終わりやすくなる。

 実は医薬品でも同様の問題がある。医薬品規制調和国際会議(ICH)のガイドラインE10「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」では、臨床試験の質を担保する概念として、効果を統計的に検出できる試験の能力を重視している。これによれば、健常者を対象とした試験において有意差が出なかった場合、それは必ずしも「成分に効果がないことの証明」ではない。検出感度を欠く試験を実施して有意差が出ないことは、単なる「試験の失敗」を意味するに過ぎないからだ。

だから医薬品においてはこのような検出感度を欠く試験を義務化してはいないのだが、なぜか、トクホや機能性表示食品ではこれを義務化している。そして、その試験結果が「効果がない」として処理されているのだ。結果を得ることが困難な健常者を対照にした臨床試験を強制し、その結果として得られた「有意差なし」という結論を持って健康食品を無効化するという構図は、人為的に作り出された虚偽である。科学の専門家集団である日本学術会議が、このような科学の問題の解決策を提言することを期待していたのだが、この問題についての言及が一切なかったことは極めて残念である。

5. 結論

 これまでの健康被害の事例を見ると、①健康食品への医薬品の意図的混入、②製造工程における失敗による有害成分の混入、そして、③食経験の少ない新規成分の使用である。①は犯罪行為であり、食品安全の規制強化で防ぐことは困難である。②はGMPの義務化と安全文化の重視により対応できる。③は指定成分等含有食品制度による対策が取られている。これらの問題を起こした製品のほとんどが、サプリ形状の「いわゆる健康食品」である。従って、サプリを「食品」という曖昧なカテゴリーから分離し、濃縮された「化学物質の集合体」としてのリスクに見合った法規制を適用することを求める「提言」の制度改革には、一定の根拠がある。しかし、サプリ形状のすべての健康食品の安全性を食品安全委員会が審査するどの規制強化は、実現困難であるだけでなく、健康食品業界に「角を矯めて牛を殺す」というたとえ通りの結果をもたらしかねないことが深く懸念される。

<プロフィール>
唐木英明(からき・ひであき):1941年生。農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長、倉敷芸術科学大学学長などを歴任。現在、「食の信頼向上をめざす会」の代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。

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