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科学的根拠の質、高める好機に(後) 日本健康・栄養食品協会、菊地・機能性食品部長に聞く

 広告表示のみならず届出表示(ヘルスクレーム)の科学的根拠の合理性まで問われた先の機能性表示食品をめぐる措置命令を健康食品業界団体はどう受け止めているのか。問題の再発を防ぐために今後、業界へどう働きかけていくのか。(公財)日本健康・栄養食品協会の菊地範昭・機能性食品部長(=写真)が取材に答えた。前後編のうち後編。前編はこちら

──合理性のある科学的根拠を届け出るためにも、今回の問題の所在をはっきりさせておく必要がありそうです。科学的根拠のどこに問題があったのか、菊地部長の考えは。

菊地 最初に強調したいのは、SRは定期的に見直す必要があるということです。そこが今回の教訓だと思います。届出後に新たに論文が発表されると、有効と無効のバランスが変わってしまうこともありますから。だからこそSR全体の約3割を占める「1報レビュー」はリスクが大きいのです。一方で、記者レクの動画を改めて見てください。エビデンスの不備に関する表示対策課の指摘内容は3成分でバラバラです。指摘のポイントが全く違いますし、それらの指摘を他の成分のエビデンスにそのまま当てはめることも適切ではないと思います。したがって、普遍的にここに問題があったと言うことは出来ないですし、共通のチェックポイントのようなものもない。個別に考え、対応していくしかないのです。

──個々の機能性関与成分、個々のヘルスクレームとその科学的根拠、それぞれ個別に見ていかないと、不備があるのだとしてもどこにあるのか分からないということ?

菊地 そうです。その意味でも、審査されない機能性表示食品はトクホ(特定保健用食品)と全く異なるものですし、自ら考え、判断していかなければならないという点で、事業者にとってより厳しいものなのです。

 そういった意味で、今回の問題は氷山の一角であろうと考えています。私たちは機能性表示食品の届出支援事業の一環として届出資料の事前点検を行っています。表向きには、形式的な点検だけということにしていますが、実は中身も見させてもらっています。その中で、「これは厳しい」というものもあるので、改めた方が良いとアドバイスするのですが、実際に改められることは少ないです。原料メーカーさんなどから提供されたものを直すことは難しいのでしょうね。しかし、届出者に責任がある制度なのですから、うのみにするべきではありません。実際、機能性表示食品のSRの質を検証した最近の論文(編集部中:上岡洋晴ら、機能性表示食品制度におけるシステマティック・レビューの再検証─PRISMA2020導入を目前にして─薬理と治療 vol.51 no.1 2023)によると、それより以前に同じ研究グループが同じ検証を行った時と比べて評価が下がっているのです。SRの質を見る目がよりシビアになった面もあるとは思いますが、しっかりとしたSRを行える事業者はまだまだ少ないことが考えられますし、科学的根拠に関して課題を抱えている届出もかなり存在する可能性もあります。

 そうした現実にしっかり向き合う必要があると思うのです。ですから、今回の措置命令をネガティブに捉えるのではなく、エビデンスのレベルを全体的に高めていくための絶好の機会とポジティブに考えるべきだと思っています。せっかくこの制度が短期間のうちにここまで成長できたのですから勿体ないです。

──エビデンスのレベルを全体的に高めていくために業界団体として何をしますか。

菊地 私たちは届出資料の事前点検のほかに個別相談にも対応しています。個々の届出資料の事前点検、広告を含むケース・バイ・ケースの相談に対して、ガイドラインや事後チェック指針に基づいたアドバイスを粛々と進めていきます。エビデンスのレベルを全体的に高めていくためには、結局それが一番手っ取り早いと思うのです。こういうふうにやった方がいいですよと、ざっくりとしたアドバイスをするのは簡単ですけど、「じゃあ具体的にどうすればいいの?」となってしまう。今後、今回の措置命令と同様の問題が起こらないようにするためには、丁寧な個別対応が最も効果的ではないかと考えています。

 消費者庁から求められている、既存の届出の科学的根拠の再検証や、今後取り組む必要のあるSRのPRISMA声明2020準拠もそうで、「実際のところどうすればいいの?」という実務上の疑問には、フェイス・トゥ・フェイスでじっくりと対応しながら理解していただいた方が腹落ちも早いと思うのです。先ほどお話したとおり、エビデンスに関して普遍的なチェックポイントのようなものはありませんし、PRISMA声明はSRやメタアナリシスに関するいわば「お作法」の話ですから、普遍的な説明を聞いたって眠くなるだけです。ですので、私たちのマンパワーの問題もありますが、まずは私たちのところに相談にお越しください、と言いたいですね。

──機能性表示食品にも規格基準の考え方を導入すべきだと考えているそうですね。

菊地 エビデンスを積み上げていくことは大切です。ただ、「有効」とする科学的根拠が現時点で十分と考えられるものについて、臨床試験を何度も繰り返す必要が本当にあるのかどうか。例えば、DHA・EPAの中性脂肪低下機能など、有効性が明確な場合には、一日摂取目安量の幅も含めた規格基準を設定しても良いのかもしれません。そうすれば、今回問題になったようなエビデンスと実際の一日摂取目安量のかい離が無くなりますし、SR作成に要する時間や費用も節約できます。極端に一日摂取目安量の異なる製品が市場に共存することもなくなり、消費者にとっても分かりやすくなると思うのです。また、トータリティ・オブ・エビデンスを求めるのであれば、病者を含む論文でも、軽症者であればSRに使用できるようにすべきではという話も含めて、消費者庁に提案していきたいと考えています。

──ありがとうございました。

(了)

(聞き手:石川太郎/取材日:2023年8月10日)

『ウェルネスマンスリーレポート』2023年9月号(第63号)より転載

菊地範昭氏プロフィール: 1985年大塚製薬㈱入社。医薬品や栄養製品の研究開発に従事。栄養製品の研究所長、開発部長を歴任。2011年日本健康・栄養食品協会に出向。消費者庁から受託した「食品の機能性評価モデル事業」を取りまとめ、有識者らとともに機能性表示食品の土台を作る。17年から現職。

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