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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(4)

(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木 英明

<農業の誕生が病気を増やした>
 人間の病気の種類は、歴史のある時点で大きく変わった。それは約1万年前の農業の誕生によるものだ。
狩猟採集生活から農耕生活に移った主な理由として、「狩猟採集生活では十分な食料を得られなかったため」、「気候変動によって狩猟採集生活が困難になったため」、「人口が増加して狩猟採集生活では人々を養えなくなったため」などと考えられている。

 農業を始めると、食料を計画的に生産し、貯蔵することで、年間を通じて十分な食料を得られるようになった。
他方、農業は過酷な労働であり、多くの労働力を必要とした。その結果、家族単位で暮らしていた狩猟採集時代とは比較にならない大きな集団が生まれ、黄河流域やナイル川流域など農耕に適した平地に定住するようになった。

<定住生活から社会、国家へ>
 大きな集団のなかで職人や商人などの仕事の分業が生まれ、農耕や建築のための道具の開発など、技術の進歩が起こった。作物の管理や分配のための計算法、農作業の日程を知るための天文学、農地管理のための測量などが生まれた。
 
 さらに、集落の中で階級が生まれ、複雑な社会に発展し、法律を作り、国家が生まれた。このような変化の結果、農耕時代に入ると、狩猟採集時代のような小さな集団の激しい争いは少なくなり、暴力による死者の数は5分の1に減少したという(ピンカー著『暴力の人類史』青土社)。

<農耕生活から生まれた虫歯・糖尿病>
 多種類の食料を少しずつ食べていた狩猟採集時代と違って、農業はコメ・麦・トウモロコシなど少数の種類の穀物を多量に生産する。その結果、食料の大部分が炭水化物になり、栄養の偏り、ビタミンやミネラルの不足、虫歯や糖尿病が起こった。
 
 また、天候不順や病害虫の発生による穀物の不作は大規模な飢餓をもたらした。狩猟採集時代と農耕時代の祖先の骨格を比較すると、農耕時代には体が小さくなっている。それは栄養の偏りと、社会に階級ができた結果、食料の配分を十分に受けられない人が多かったためと考えられる。

<集団生活による感染症の蔓延>
 集団生活の大きな欠点は、生活ごみや排せつ物の蓄積による生活環境の悪化、ネズミやノミ、ダニなどの病害虫の発生と病気の伝達、多数の人が集まったことによる感染症の蔓延などである。 
こうして人間は新たな災害に苦しむことになった。

 さらに、野生動物を家畜として飼育するようになり、彼らと生活を共にするなかで、野生動物の病気に感染した。はしか、インフルエンザ、ペスト、チブス、天然痘など、家畜由来の病気の種類は50種以上に及ぶ。さらに、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど、ほとんどの食中毒菌は家畜の腸に住む細菌である。新しい生活環境が、治療が難しい新しい病気をもたらしたのである。

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

(つづく)

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