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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(3)

(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木 英明

<魔術師と呪術師の登場>
 狩猟採集時代の私たちの祖先が、治らない病気やけがになったときの治療法は、アマゾンやインドネシアで暮らす狩猟採集民族の生活から類推できる。

 彼らの基本的な考え方は、病気やけがは悪霊や祟りなどの邪悪な存在がもたらす災害であり、邪悪なものを追い払うことで災害を避けることができるし、重い病気やけがは治るというものだ。そこで登場するのが魔術や呪術であり、その役割を担う魔術師や呪術師である。

 彼らは病気やけがだけでなく、集団の間の争いや自然災害、食料不足など、あらゆる災害をもたらす邪悪なものを追い払う重要な役割を果たした。だから、彼らは部族の中で高い地位を得ていた。邪馬台国の女王卑弥呼も魔術師・呪術師だったと考えられている。

 英語のMedicineには医療という意味のほかに、魔法やマジナイという意味がある。そしてMedicine manは医者ではなく魔術師、呪術師という意味だ。彼らこそが医師のルーツだったのだ。

<魔術・呪術は健康維持と病気の治癒に効果>
 魔術や呪術で病気やけがを治すことは不可能だと思う人も多いだろう。しかし、当時の人々が魔術師や呪術師を敬い、信じたのは、実際に治療効果があったからだ。
 
 そして、現在も世界中で、宗教家や占い師などさまざまな形で魔術師や呪術師が活躍し、多くの人が彼らを信じ、健康の維持と病気の治癒を彼らに頼っている。

<呪術から医療が誕生>
 それでは、彼らが与えてくれる治療効果とは何だろうか? 
 それは、「お祓いをしたのだから、悪いことは起こらない」という安心感だ。

 同じ目的で、私たちは神社仏閣に行く。ほとんどの病気やけがは自然治癒するのだが、病人は症状が悪化するのではないかという不安に陥る。魔術師、呪術師はそのような不安を取り除いてくれる。治らない病気やけがの場合にも、彼らの行う儀式によって患者は心の癒しを得る。すると苦痛が軽減し、死の恐怖が和らぐ。だからこそ、人々は彼らを必要としたのだ。

 このように、医療の始まりは魔術師、呪術師であり、彼らが与えてくれたのは心の癒しによる不安の軽減であり、それが苦痛を軽減したのだ。

<医薬品のルーツは草根木皮>
 そんな時代の人たちが、長い経験のなかで、ある種の草根木皮に鎮痛や創傷効果があることを見つけた。これが医薬品の始まりである。

 しかし、その有効成分を分析し、医薬品ができたのはほんの百数十年前のことであり、それまでは草根木皮もまた魔術師や呪術師が使う心の癒しのための道具だった。

 ちなみに、「クスリ」の語源は、不思議な、あるいは神秘的な力を発揮するという意味の「奇(く)すしきもの」、あるいは「草煎(くさいり)」(草を煎じたもの)であり、「薬」という字は「草を使って治療をする」という意味なのである。

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

(つづく)

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