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新消費者庁は健康食品も重視する(後) 【インタビュー】保健機能食品の裾野広げていく必要ないか

 保健機能食品の未来を考える連続インタビュー。トップバッターは、保健機能食品を所管する消費者庁である。今年4月、屋台骨に食品衛生基準行政を組み込むことになる同庁は、制度の未来をどのように思い描いているのか。食品担当審議官に一昨年6月着任した依田學氏と、元厚生労働省食品基準審査課新開発食品保健対策室長で昨年7月から食品表示企画課保健表示室長を務める今川正紀氏の話をじっくり聞く。前後編のうち後編。

──制度の見直しについて伺います。依田審議官は最近、規格基準を導入したい考えを語っています。

依田 保健機能食品のすそ野を広げていくためのアプローチの1つとして、例えば、規格基準型を取り入れるという方向性もあり得るのではないか、と考えているのは事実です。科学的根拠が多い成分などについては、決まったヘルスクレームを行えるようにする。そうすると、研究開発の体制が整っていない中小事業者などが保健機能食品に参入しやすくなるという捉え方もあるのではないかと思います。ただ、すでに決まっているといったことは一切ありません。

今川 あくまでも1つの案です。機能性表示食品の範囲で規格基準を導入するのか、そうではなく特定保健用食品(トクホ)における規格基準型を充実させていくのか、あるいは、許可制でも届出制でも自己認証制でもない新たなカテゴリーとして規格基準型を創設するのか。そういった基本的なところも含めて今後、調査したいと考えています。

依田 規格基準の話は新井(ゆたか消費者庁)長官も会見で申し上げていますが、いきなり制度改正に踏み切ろうなどとは考えていません。機能性表示食品制度も施行から時間が経過し、先ほど申し上げたように健康食品の全体的なレベルアップを進めていく必要もある中で、改めて諸外国のヘルスクレームや健康食品の制度を研究していく必要があるのではないかという問題意識をお伝えしているまでです。来年度、海外のヘルスクレーム制度に関する調査の実施を考えています。その上で、具体的にどのような仕組みにしていくのかは、業界や消費者としっかりコミュニケーションを取りながら検討していく必要があると考えています。

──新井長官は、トクホ制度の見直しにも言及しています。

依田 機能性表示食品制度の施行以来、トクホの許可申請件数は伸び悩んでいるわけですが、保健機能食品の各制度には、それぞれ良いところがあると思っています。健康増進法を根拠法にするトクホの良いところは、表示制度であると同時に、健康政策ともリンケージする制度であることです。健康政策の延長線上には医療政策があります。ですので、保健機能食品の中で行政の関与度合いが最も強いわけですが、そういったトクホの持ち味がより発揮されるよう、制度の運用面を含め再検証していく必要があるのではないかと考えているということです。例えば、トクホの規格基準型については消費者委員会への諮問が不要ですから、その部分を広げていくことで制度を活性化していくというアプローチがあるかもしれません。また、保健機能食品における立ち位置の違いを明確にするという意味では、他の保健機能食品には認められていない疾病リスク低減表示を切り口にした活性化も考えられます。

──規格基準の構想が出てきた背景にあるのは、機能性表示食品のヘルスクレームが優良誤認だとされた景品表示法違反事件(6・30措置命令)なのでしょうか。

依田 考える契機の1つとなったのは事実です。科学的根拠を事業者が自ら立証し、それに基づくヘルスクレームを事業者責任で行う機能性表示食品の届出制という仕組みは、バイオ産業などの発展という観点から大きく期待されるものだと思いますし、引き続き活用されていくべき制度だと考えています。一方で、安全性・有効性についての審査という点で行政の関与がない中で、この制度を活用する事業者の科学的根拠に対する姿勢やレベルが問われるわけですから、届出制とはいえ、一定の水準の研究開発体制を整えている事業者の利用が想定されている制度なのです。もちろん、制度的にも、届出者が自ら研究開発しなければならないというわけではありません。しかし、届け出て販売する以上、科学的根拠も含めて消費者に対する説明責任が届出者には求められる建て付けになっています。システマティックレビュー(SR)について「原料メーカーが問題ないと言っているので届け出ました」ということでは説明責任を果たしていることにはなりません。科学的根拠の是非について行政が関与しない届出制は、当該科学的根拠が表示の合理的な証拠にならないとして景品表示法上の不当表示と認定され得るという法的な不安定性が残されています。そのことを覚悟の上で届け出ていただく必要があります。届出件数は撤回を除いて6,000件を大きく超えていますが、ヘルスクレームを行いたいというだけの事業者もいらっしゃると思います。そうした中で、科学的根拠の立証を事業者責任、事業者任せだけにしていて良いのか、という問題意識も持っています。そうした問題意識は、健康食品業界の事業者自身も同様にお持ちなのではないかと思います。

今川 同じSRが100件以上、届け出されているという実態もあります。その中で競争しようとすると、どうしても広告で差別化するしかなくなる。それでは機能性表示食品であったり、保健機能食品であったりする意味がありません。そうであれば、行政がヘルスクレームをきっちり決めて、その範囲の中で広告も行ってください、広告で競争する余地はありません、という広告の側面からも規格基準を検討していく余地があるのではないかと思っています。

依田 消費者の立場から見ると、届出制というものは、行政の関与があいまいに見える可能性があると思うのです。トクホと機能性表示食品の違いについての消費者認知も広がりません。いくら国が審査し許可しているものではないと言っても、「消費者庁に届け出されたものであるのだから国が関与している」と捉えてしまうのかもしれません。そのように届出制という制度自体が消費者に誤認を与えるのだとすれば、制度の健全な発展を望むことが難しくなってしまいます。実際、国が関与しているように装いながら、はみ出し表示を行うようなマーケティング手法が横行しつつあるようにも見えます。それもあって、届出制は今後も存続させていくにせよ、今のままでは消費者に正しく理解されないのではないかという危機感は確かにあります。

──行政が定めた規格基準に基づくヘルスクレームの範囲内で広告を行っている限り、措置命令を打たれる可能性はほとんどないという仕組みは、確かに事業者から歓迎されるかもしれません。ただ、規格基準を定めるには有識者による検討を経た決定が必要なはずで、数を積み上げるには時間が相当かかりそうです。それに、決められたことしか訴求できないという仕組みに事業者が満足するか疑問です。

依田 規格基準を事業者の皆さんに押しつけるつもりは毛頭ありませんし、事業者も、消費者も、「そんなものはいらない」というのであればやる必要はないのでしょう。

今川 選択肢を広げる、保健機能食品の間口を広げる、というふうに理解してください。

依田 確かに、短期間で爆発的に多くの規格基準を作れるわけではありませんが、規格基準型を導入している海外諸国の制度を参考にすることはできるのではないかと思います。定型のヘルスクレームでは満足できないというのであれば、従来どおり科学的根拠を自ら立証し、事業者責任として届け出ていただければ良いのです。新しい機能性関与成分やヘルスクレームを研究開発していこうという意欲を持つ事業者に対して威力を発揮するのはやはり届出制(機能性表示食品)なのだと思います。逆に、決められた範囲内で構わないと割り切る事業者もいらっしゃるのではないかという問題意識です。

──最後に、6・30措置命令について解説をお願いします。

依田 私たちは景品表示法ではなく食品表示法の担当です。あくまでもその立場から申し上げたいのは、まず、容器包装はもとより広告の表示は届出の範囲内に収めていただきたいということです。食品表示法を所管する立場から今回の問題を検証すると、問題のきっかけは、やはり届出の範囲を超えた広告でした。また、景品表示法と、機能性表示食品の根拠法である食品表示法は、そもそも法体系が違うのだということもご理解いただきたい。機能性表示食品の義務表示事項は食品表示法の内閣府令(食品表示基準)で定められていますが、それを履行しても、同法第14条に規定されているとおり、景品表示法は適用され得るのです。景品表示法の不実証広告規制に対する理解も必要です。不実証広告規制の手続に従って行われたのが今回の措置命令ですが、15日以内に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出ができない、提出されたとしても合理的な根拠にならない資料の場合は、当局が不当表示とみなせるという規制です。合理的な根拠の挙証責任はあくまでも当局ではなく事業者にあるということです。

 機能性表示食品については、消費者庁は届出内容を審査していません。また、先ほど申し上げたとおり、食品表示法上、届出内容に対する景品表示法の適用は妨げられないわけですから、「届け出たから安心」ということにはなりません。それでは予見性がない、ということで令和2年(2020年)度の次長通知により「事後チェック指針」が策定されたわけですが、この指針が示しているのは、届出内容を超えて広告できるラインでは決してありません。届出内容となる科学的根拠を含め、合理性がないと判断され、景品表示法が適用される恐れがあるということを前提に、そうした事項について具体的な例示を挙げているにすぎません。あくまでも例示であり、不当表示となり得るケースを全て網羅しているわけではありませんから、事後チェック指針を守ってさえいれば絶対に景品表示法が適用されないというわけでもありません。ですから、既に届出した内容について、事業者は、事後チェック指針と照らし合わせながら新たな科学的知見が得られていないかなど常にステップアップしていく必要がありますし、広告を含めた表示と届出内容の整合が取れないような場合には、景品表示法上の優良誤認と認定される恐れがあるということとを常に意識しながら届け出ていただく必要があります。

今川 われわれ食品表示法における対応は、景品表示法における対応とは異なります。広告をチェックしているわけではありませんし、これは届出制であって、撤回を命じられるような権限を私たちは持ち合わせていませんから、撤回するかどうかは届出者の自主的な判断に委ねることになります。その中で、科学的根拠に疑義が生じた場合は、届出者に確認と回答を求めるという問いかけを普段から行っています。そうした問いかけの中で私たちが知りたいのは、その科学的根拠とその表示でなぜ、消費者に対して販売しても良いと考えたのですか、ということに尽きます。ですからたとえSRは同じなのだとしても、表示内容や広告内容などを総合的に含めて考えれば、届出者ごとに異なる説明もあり得ると思っています。

依田 先般の機能性表示食品に関する届出ガイドラインの一部改正は、届出内容の質の向上を呼び掛ける目的もあります。先ほど申し上げたように、届出制にはメリットとデメリットの両方があります。その中でメリットを十分生かしていくためにも、届出内容のレベルアップを事業者自らで進めていくという活動を業界内で高めていただくことを私たちは望んでいますし、制度発足時から機能性表示食品に関わってきた健康食品産業に関わる協会などの業界団体が果たす役割に期待しています。

──ありがとうございました。

(了)

【聞き手・文:石川太郎(2023年11月29日取材)】

※前編はこちら

プロフィール
依田學(よだ がく):消費者庁審議官(食品担当)。1993年農林水産省入省。在EU日本政府代表部参事官(食品・農林漁業・SPS担当)、国際経済課長、経営政策課長、水産庁漁政課長を経て、2022年6月より消費者庁へ出向にて現職。

今川正紀(いまがわ まさのり):消費者庁食品表示企画課保健表示室長。1998年厚生省(現厚生労働省)入省。食中毒被害情報管理室長、新開発食品保健対策室長、感染症情報管理室長を経て、2023年7月より消費者庁へ出向にて現職。

(文中の図:全て消費者庁提供)

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