小林製薬問題の「出口」に何がある? サプリメントのリスク管理、もはや待ったなし
サプリメントの製造・品質管理を再考する──そう題した前号から続く特集企画の準備を進めている最中、今回の問題が図らずも起きた。4月2日時点で因果関係ははっきりしていない。しかし健康被害を多くの消費者が訴えている。複数の死者まで報告された。小林製薬㈱(大阪市中央区、小林章浩社長)が販売する、原材料から最終製品まで国内製造である機能性表示食品のサプリ『紅麹コレステヘルプ』に生じた問題。製造・品質管理に不備はなかったか。(編集部注:この記事は『ウェルネスマンスリーレポート』4月10日発刊号からの転載です)
わずか1週間で制度見直しの事態
小林製薬が問題を公表したのは3月22日の夕刻。「毎日のように物事が動いている」と行政関係者がこぼすとおり、それからわずか1週間で、機能性表示食品制度の見直しが検討される事態に至った。同29日夕、首相官邸会議室で開かれた初の「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」。その席で林芳正官房長官が、制度の今後のあり方を検討して取りまとめるよう、制度を所管する消費者庁へ指示している。
取りまとめ期限は5月末。検討期間はわずか2カ月。4月の新年度から食品衛生基準行政を業務に組み入れている同庁はさっそく対応に着手しており、次長をトップとする「機能性表示食品のあり方検討プロジェクトチーム」を同1日付で設置した。
自見英子・消費者及び食品安全担当相は4月2日の記者会見で、同チームを「対策チーム」と表現。また、「全体感のある見直しということであるので、専門家の意見もいただきながら対応していきたい」と述べ、制度を見直す考えを示した。
トップ以下のチーム構成は、食品担当審議官のほか、行政移管に伴う新ポストである食品衛生・技術審議官の両審議官を筆頭に、課長級は、食品表示課(4月1日付で食品表示企画課から名称変更)、消費者安全課、行政移管に伴い新設した食品衛生基準審査課の3課の課長が加わり、各課で検討に当たるとみられる。また、機能性表示食品の届出確認などを担当している食品表示課保健表示室長や、食品衛生基準審査課内に設置の新開発食品保健対策室長もチームに加わる。
一方、食品衛生基準行政移管に伴い、消費者庁には、同庁として初の諮問機関「食品衛生基準審議会」が設置される。この審議会が今後の機能性表示食品のあり方の検討にどう関わっていくのかは今のところ見通せない。ただ、審議会を構成する委員15人には、特に食薬区分に絡んで健康食品業界でお馴染みの有識者、合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所名誉所長も名を連ねている。なおざりな見直しに終わることはないと考えた方が良さそうだ。
機能性表示食品のあり方はどう変わるのだろうか。時期尚早を承知でプロジェクトチームの立ち上げが発表された4月2日の午後、チームに加わる同庁食品表示課の清水正雄課長に尋ねた。答えはこうだ。
「それはまだ言うことができない。そもそも原因がはっきりしていないのだから再発防止策も講じられない」として原因不明の現状に対する苦しい胸の内を明かしつつ、「しかし待っている訳にもいかない。だからプロジェクトチームを立ち上げた。(原因が分からずとも)想定される論点を考えていきたい」
ただ、決まっていることがある。それは、機能性表示食品の今後のあり方の検討は、小林製薬に対して4月5日期限で回答を求めている、安全性に関する科学的根拠の再検証の結果のほか、約7,000件に上る機能性表示食品の全ての届出者約1,700社に対して同12日を期限に回答を求めている、医師から健康被害報告の有無など安全性に関する緊急点検の結果を検証した上で進めていく、ということだ。「スピード感をもって対応していきたい」と同課長は強調する。
見直しに向けた論点、原材料の安全性確保も?
取りまとめ期限の5月末に向けて急ピッチで進むであろう、あり方の検討では何が論点になりそうか。問題が生じた小林製薬に対して上げられている批判の声を踏まえれば、論点の1つになると考えられるのは、健康被害情報の収集・報告のあり方である。
同社が最初の腎疾患症例の連絡を医師より受けたのは1月中旬。それから2月上旬までに医師などからの有害事象報告件数は5件まで増えていた。だが、同社が初めて行政機関(消費者庁)に事態を報告したのは3月22日の発表前日。報告まで2カ月間も要したことに林官房長官はじめ武見敬三厚労大臣、自見大臣ら閣僚は「誠に遺憾だ」と口を揃える。安全性「緊急点検」の結果次第では、健康被害情報の報告義務化にプロジェクトチームの議論が傾く可能性も生じることになりそうだ。
また、機能性関与成分をはじめ機能性関与成分を含む原材料の科学的な安全性評価のあり方、その評価結果を担保する製造や品質管理のあり方も論点になりそうだ。今のところ因果関係ははっきりしていないものの、小林製薬の販売する機能性表示食品『紅麹コレステヘルプ』との関連が疑われる健康被害は、同製品に配合されていた機能性関与成分、米紅麹ポリケチド(モナコリンK)を含む同社製のサプリメント向け紅麹原材料が原因である可能性を、小林製薬としても会見などで半ば認めているからだ。
自見大臣は4月2日の会見で、機能性表示食品に求められる安全性について、「機能性(関与)成分の安全性と、全体の製造工程における安全性という2つの意味が混同して議論されている。そのあたりも論点整理していく必要がある」と指摘。「製造工程」が原材料を指すのだとすれば、最終製品のみならず機能性関与成分を含む原材料の製造、品質管理についてもGMP(適正製造規範)を届出者に求める可能性も考えられそうだ。
折しも、錠剤やカプセルなど、サプリメント形状の食品の安全性を事業者が自主的に確保するためのガイドラインが3月に刷新されている。「新・平成17年通知」だ。食品衛生法第3条(安全性の確保は事業者の責務)を踏まえ、まずは原材料に関する安全性評価、次に、原材料から最終製品までの適正な製品設計、その上で、GMPに基づく製造、品質管理を自主的に行うことを事業者に求める内容だ。現在、同通知の所管は、食品衛生基準行政の移管に伴い、消費者庁に移っている。
天然由来の濃縮物などを配合するサプリメントは、通常の食品にはないリスクを抱えている。だからベネフィットがある。今回の健康被害問題は、その事実を海外に遅れるかたちで浮き彫りにさせたといえる。機能性表示食品に限らず、「サプリメント」全体の安全性を確保するために、製造管理、衛生管理、品質管理のあり方が見直される。そのよう出口もあり得る。
【石川 太郎】
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