小林製薬問題、原因究明は国で ピークXはプベルル酸、しかし因果関係は不明のまま
自社製造の紅麹原材料を配合した機能性表示食品との関連が疑われる死亡事例を含む健康被害の広がりを受け、小林製薬㈱(大阪市中央区、小林章浩社長)が3月29日午後、大阪市内の会場とオンラインのハイブリッドで開いた記者会見は4時間半に及んだ。全ての質問を受け付けた同社の姿勢を評価する声も聞かれる一方で、原因も因果関係も、具体的な説明がないまま終わった。同社は会見で、今後の原因究明は、厚生労働省と国立医薬食品衛生研究所に委ねられたことを明らかにした。
会見の途中、腎疾患の健康被害を生じさせた疑いのある同社製紅麹原材料から同社が検出していた同社として想定しない「ピークX」(未知の成分)について、青カビから作られる天然化合物の「プベルル酸」であることが同定されたと、厚生労働省が発表したことを報道陣から伝えられる波乱も起こった。
この会見の前夜、厚生労働省が非公開で開いた薬事食品衛生審議会の調査会およびワーキンググループに呼ばれた同社の渡邊淳・信頼性保証本部長らが説明したことを、厚労省が同社の会見中に発表した格好。事前に知らされていなかった模様だが、同省の発表に接した記者が伝えるまで、同社はピークXに関する質問に曖昧な答えを繰り返していたこともあり、報道陣の心象を悪化させるとともに、原因などの究明に向けた、同社と厚労省の連携が機能不全に陥っていることを浮き彫りにした。
一方で、プベルル酸が健康被害の原因物質であるかは不明だ。厚労省は発表でプベルル酸について、「毒性は非常に高い」などと伝えたものの、同社が販売していた機能性表示食品『紅麹コレステヘルプ』を使用した多くの人たちが訴えている腎疾患を引き起こす腎毒性を有する化合物であるかは分かっていない。今後の国立医薬食品衛生研究所による毒性分析などの結果を待つことになる。
厚労省、閉鎖の大阪工場へ立ち入り検査
また、プベルル酸を作る青カビが原材料中に混入した理由も分かっていない。ただいずれにせよ、青カビの混入がほぼ確定されたことで、紅麹原材料を製造していた同社・大阪工場の製造管理、衛生管理、品質管理の各管理体制がさらに疑われる事態になった。この日の会見で同社は大阪工場の製造・品質管理体制について、業界自主基準の健康食品原材料GMP適合認定を受けていなかったと説明した。
その大阪工場は昨年末、サプリメントの原材料工場としての役割を終えている。同工場の操業開始は1940年と古く、同社は老朽化も理由に閉鎖し、紅麹の製造は、製造ラインとともに同社グループ会社の和歌山工場に移管。同社は会見で、大阪工場の現況について、建屋は残っているものの「衛生環境はブレイクしている状況。今は研究設備を置いている」(山下健司・製造本部長)と説明した。
それでも同社を管轄する大阪市と厚生労働省は3月30日、食品衛生法に基づき大阪工場への立ち入り検査を実施。続いて同31日には、和歌山の工場に同省と県が立ち入り検査に入った。因果関係の解明、原因等の究明につながるような物証を得られたかどうかが注目されるが、当時の製造環境が残されていない以上、あるメーカーの品質保証担当者は「難しいのではないか」と見る。
【石川太郎】
(冒頭の画像:3月29日に行われた記者会見の様子。記者はオンラインで参加した)
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