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小林製薬「紅麹製品」自主回収に思う 【緊急寄稿】東京大学名誉教授 唐木英明

 小林製薬㈱(大阪市中央区、小林章浩社長)が販売している紅麹成分を含む機能性表示食品により腎機能障害などの健康被害が発生した。本件について思うことを述べてみたい。
 今回の自主回収は、製品に何らかの有害物質が含まれていたことが原因と考えられるが、問題の物質の同定に至っていない。被害者の状況から、これはすべての紅麹製品で起こり得る事例というより、小林製薬の製品に限って起こった可能性が高いが、小林製薬の全ての紅麹製品で起こるのか、一部の製造ロットに限ったものか、製造工程で起こった予期せぬ事故か、悪意を持った人為的な混入か分かっていない。

 対策の第一はこれ以上の被害防止であり、製品の回収が始まっている。しかし詳細が不明な状況では可能性がある製品すべての回収が必要になる。第2は原因物質の特定であり、その物質が製品に混入した経路の特定である。

GMPは再発防止の有効な手段

 その上で最も重要な点は再発防止だが、その方法は健康食品GMP(以下GMP)の順守しかない。GMPの目的はヒューマンエラーを減らし、汚染や品質の劣化を防ぎ、高い品質を維持することであり、小林製薬もGMPを採用していた。にもかかわらずこのような問題が起こった理由は今後の検証に委ねられるが、GMPの順守が不十分だった、あるいはGMPではカバーできない想定外の事態が起こったためと考えられる。
 折りしも厚労省は「健康食品の安全性確保のための重要な通知」と銘打って2つの通知を改正した。「健康食品・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領について」(平成14年通知)と「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針/錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針」(平成17年通知)である。このガイドラインにより錠剤、カプセル状の健康食品の製造にかかわる事業者はGMPを順守した品質の確保に自主的に取り組むことが期待されている。
 今回の事例をみて、「1月に被害報告があったにもかかわらず3月になって回収を始めるのは遅すぎる」という意見がある。因果関係の見極めには時間がかかり、間違っていた時には風評被害になる。しかし、放置している間に被害者が増える可能性がある。この難しい問題に対処するガイドラインが平成14年通知であり、これに沿った検証が必要であろう。

GMP義務化、法制定が不可欠

 GMPは意味がないという論調が聞こえるが、そうではない。それは、健康食品製造企業において製品の安全を守る方法はGMPしかないからであり、それが平成17年通知である。もちろん今回の事例のようにGMPさえ使用すれば100%の安全が確保できるわけではないが、そもそも100%の安全を確保する方法などは存在しない。
 GMPは健康食品の安全性を飛躍的に高める方法であることは間違いないが、にもかかわらず、GMPの採用が企業努力に任されているのは、健康食品は法律上は食品であり、全ての食品製造にGMPを義務化することは不可能だからである。
 健康食品の安全を守るためにはGMPを義務化してこれを厳格に順守することが最も重要である。そのためには健康食品と一般食品を区別するための「健康食品法」のような法律の制定が必須である。

(上の写真:「小林製薬の謝罪会見」毎日放送ライブより)

<唐木 英明 氏プロフィール>
農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長などを歴任。現在は食の信頼向上をめざす会代表。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。

<著 書>
「暮らしの中の死に至る毒物・毒虫」講談社2000、「食品の安全・危険を考える」食生活 2003.7-8、「全頭検査で「安心」というBSEの誤解」週間エコノミスト2004.6.8、「「全頭検査」でBSEは防げない」Voice2004.8、「食の安全と安心を守る」学術会議叢書2005、「食品安全ハンドブック」丸善2009、「牛肉安全宣言」PHP出版2010、「食品の放射能汚染とリスク・コミュニケーション」医学のあゆみ2012.3、「福島第一原子力発電所事故の農業・畜産に及ぼす影響を考える」遺伝66(1)2012、「機能性表示食品-経緯と問題点-」食品と開発50(12)2015、「検証BSE問題の真実 」きたま出版会2018、「鉄鋼と電子の塔(共著)」森北出版2020、「健康食品入門」日本食糧新聞社2023 他多数

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