唐木氏、消費者庁に2つの要望 「用量適合範囲の明確化」と「プラセボ対照以外の試験法容認」
東京大学名誉教授で、食の信頼向上をめざす会代表の唐木英明氏が23日、健康食品に関する有効性の検討方法をテーマにした講演を都内で行い、機能性表示食品制度について、制度を所管する消費者庁に対する2つの要望を示し、対応を求めた。
要望の1つは、用量適合範囲の明確化で、機能性表示食品に関する質疑応答集にその範囲を示すよう求めた。
この要望は、機能性表示食品をめぐる先の行政処分(景品表示法に基づく措置命令)を受けたもの。処分を行った消費者庁は、対象商品に配合されていた機能性関与成分DHA・EPAについて、有効性を報告する複数の論文における試験食品の1日あたり摂取量(用量)と、商品の用量のかい離を、違反認定理由の1つに挙げている。
一方、唐木氏が専門とする薬理学の世界では、投与した薬物の量と反応の関係性を示す「用量作用(反応)関係」という考え方があり、その関係を科学的に明らかにすることで、有効性や安全性が認められた臨床試験における用量と、製品用量が同一と見なせる一定の範囲を定める。
それが用量適合範囲だが、機能性表示食品の場合、ヒト試験で科学的根拠が得られた機能性関与成分の用量と実際に販売する商品中の用量が全く同じでなければならないのか、そうではなく一定の範囲が認められるのか、認められるのだとすればどのように範囲を設定すべきなのか──などについて消費者庁は、届出ガイドラインや質疑応答集において明確にしていないと唐木氏は指摘する。
特に、試験用量の異なる複数の論文を採用した研究レビューを科学的根拠とする機能性表示食品における用量適合範囲の考え方について唐木氏は講演で、試験用量の2分の1から2倍の範囲の製品用量を適合範囲と捉える「ASCON科学者委員会」の考え方を伝えた。
ただ、この考え方も、一定の判断基準を設ける必要があることから同委員会が独自に設定したものだといい、機能性表示食品における用量適合範囲を明確化するためには、有識者による検討が必要だとする。その上で、「消費者庁として考える用量適合範囲を質疑応答集に明確に示す必要がある」と訴えた。
もう1つの要望は、科学的根拠としてプラセボ対照試験での有効性確認が事実上、義務化されている現状の見直し。理由は、有効な機能がin vitro/in vivo試験で証明されている薬剤であってもプラセボ対照試験でヒトに対する有効性が証明できない事例が存在すること、機能性表示食品の有効性試験は原則として健常者を対象とするため効果サイズが小さい上に、そこにプラセボ効果が加わると本来持つ有効性の証明が困難になること──の大きく2つ。そういった課題を解消するため、現行の質疑応答集を改正し、無処置対照試験など、プラセボ対照試験以外のヒト試験方法を容認するよう求めた。
唐木氏は講演の最後、以前は否定していた健康食品の存在意義について、「今はセルフメディケーションの時代。その中でOTC(一般用医薬品)と健康食品は車輪の両輪であって、どちらも必要なものだ」と語り、セルフメディケーションやセルフケアに取り組むことが求められる生活者のために、安全性と一定の有効性が確認された商品で構成される健康食品市場を育てていく必要があるとした。
この講演は、健康食品のアドバイザリースタッフ養成機関である(一社)日本食品安全協会(北市清幸理事長=岐阜薬科大学教授)主催の教育協議会講演会の中で行われたもの。唐木氏のほかに、(独)国民生活センターの川口徳子理事、消費者庁表示対策課の横田未生景品・表示調査官がそれぞれ講演した。横田氏は、同庁が昨年12月に改定した「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項」の改定ポイントを解説。また、今年10月施行するステルスマーケティング規制について触れ、施行日以降は規制対象になると注意喚起した。
主催によると、会場とオンライン合わせて約190人が聴講した。
【石川太郎】
(冒頭の写真:講演する唐木氏。講演後の質疑応答では、用量適合範囲に関して、消費者庁の横田氏が質問する場面も見られた)
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