「メーカー商社」を支える品質保証 中国と日本、認識の差を埋める役割
アミノ酸の「総合メーカー商社」を名乗る㈱サンクト(東京都江東区、宍戸哲夫・今川信雄社長)。商社ではあるが、メーカーと「一体化」して顧客らのさまざまな要望に応えることを信条とする。それを支えるのが同社内に置かれた品質保証部。価格競争力の高さにクオリティ(品質)を加味することで、アミノ酸の社会への普及を後押しする。そんな狙いで7年前に立ち上げられた。アミノ酸への「愛」を社長が語るメーカー商社の実像に迫る記事の第2弾。
価格競争力+品質 アミノ酸の普及に必要
サンクトは2003年に設立。現社長で、中学時代の同級生である宍戸・今川の両氏が20代で独立・起業し立ち上げた。主な事業はアミノ酸とレアメタルの輸出入と国内販売。売上高は非公表だが、決して小さな額ではない。2010年代後半以降から大きく伸ばした。
アミノ酸事業では、医薬品から食品、飼料まで幅広い用途で国内販売を手がける。そうした商社は他にもあるが、特筆すべきは中国のメーカーとの間に築いた太いパイプだ。特にアミノ酸メーカーとしては中国で最大規模の「新生源(Shine Star)」との関係が深く、日本総代理店の権利を得ている。まだまだ無名であった2013年に契約を締結。これがサンクトのアミノ酸事業を飛躍させるきっかけとなった。
「中国メーカーが作るアミノ酸の品質は昔とは違います。新生源も、ISO9001やGFSI認証の国際食品安全規格であるBRCなど各種国際規格認証を取得し、徹底した品質管理を行いながら、北米や欧州を中心にアミノ酸を供給しています。少なくとも食品用途のアミノ酸においては、国内メーカーのものと比べても十分な品質になっていると思う。しかしそうは言っても日本では、『中国産』と聞くと、どうしても負のイメージを抱かれてしまう。それをどう払しょくするかが勝負どころでした」。
そう話すのは、理学博士の池田武史氏。サンクトの品質保証部長だ。国内アミノ酸大手メーカーで約17年間、研究開発や学術関係の仕事に携わった上でサンクトに移った。
現在6年目。「北米で販売されているアミノ酸の価格と日本のそれを比べると、消費量の違いもあって、日本はかなり割高です。そのため、配合量を多くできない。すると消費者はアミノ酸の効果を体感しづらくなる。アミノ酸を日本で普及させるには、北米並みに価格を下げる必要があると以前から考えていました」。
そうした中で、アミノ酸に関わる仕事を通じてサンクトの宍戸社長らと知り合い、交流を深めていく。「気が合ったというのもありますが、サンクトには新生源を始めとする中国のアミノ酸メーカーとの太いパイプや価格面も含めた購買力の強さがある。そこに品質保証の要素を加え、価格と品質のバランスをしっかり保つことができれば、日本でも十分勝負できるし、アミノ酸をさらに普及させることもできる。そう考えたのが理由です」とサンクトに移った背景を語る。
メーカーと一体化、重ねる現地視察
サンクトの品質保証部は、新生源との間で日本総販売代理店契約を取り交わした後、国内販売するアミノ酸の取り扱い品目や用途を大きく広げることになったのを機に立ち上がった。現在の人員は、部長の池田氏を含めて全8人。全員が修士以上の学位を持ち、博士が2人。医薬品製造業(包装・表示・保管)の業許可を取得していることもあり、薬剤師資格を持つ人材も複数、在籍している。まずは医薬品に関する品質保証体制を確立。その後、食品についても同様に整える流れを取った。
「中国メーカーが製造するアミノ酸の品質は昔よりかなり高まっていると先ほど言いました。しかしそうは言っても、中国メーカーが見ている市場は基本的に米国や欧州。そうすると例えば、異物や微生物など品質に対する認識が日本とはどうしても異なってくる。欧米よりも日本の方が品質に対して厳格ですから。そうした品質に関する認識の差を埋めるのが私たち品質保証部の役割。中国と日本の橋渡し役といったところです」。主要な仕事について池田氏はそう話す。
その役割を果たすために、メーカーに入り込む。サンクトが信条とするメーカーとの「一体化」だ。続けて池田氏は話す。
「私たち品質保証部が現地に入り、製造現場をしっかり見て、スタッフらとのコミュニケーションもしっかり取る。品質に対する日本の考え方を伝え、理解してもらい、足りない部分は改善を求める。改善方法も指導する。それを繰り返しながら日本が求める品質に近づけていく。その上で製品分析を国内の第三者機関で行い、基準に適合したものだけを出荷しています」。
ただ、新型コロナ禍で中国に渡航することが困難になった。「主にオンラインで対応してきましたが、やっぱり現場に行って、直接見て、コミュニケーションを取らないといけません。そろそろ現地視察を本格的に再開させます。付き合いが長くなっている新生源とのコミュニケーションは十分取れていますが、新しい取引先も増えています。現地視察は今後、私たち品質保証部にとって非常に大きな仕事になります」。
仕事は営業支援、「機能性表示食品」の届出もサポート
一方、サンクトの品質保証部の仕事はそれだけにとどまらない。「一口に品質保証といっても、当社の場合は守備範囲が広いのです。皆さんがイメージするとおりの品質保証の仕事は勿論のこと、プロテインや植物抽出物などアミノ酸以外にも取り扱い品目が増えていることもあって、開発系の仕事も手がけています。その他に広報活動も。だから思想的には、営業支援部隊という感じですね」と池田氏。
最近では機能性表示食品の届出サポートを目的にした学術関連の仕事も手がける。「機能性表示食品についても、やはり要望をいただきますから、取り組む必要があるだろうと。届出をサポート出来るのと出来ないのでは、顧客ニーズに応えるという点で大きな差が生じます。まずはBCAAについて届出サポートを始められるように準備を進めています。これが上手くいけば、ニーズを見ながら、順次広げていくつもりです」。
また、植物抽出物に関する品質保証の仕事も重要になりつつある。サンクトは2018年、中国の老舗生薬・漢方原料メーカー「青雲山薬業」および同社グループとして主に輸出用の製品の製造を手がける「Herb Green Health」との間で日本総代理店契約を締結。これにより、健康食品に関わる販売品目が、アミノ酸だけでなく植物抽出物にも広がることになった。
現在までに、高麗人参抽出物など定番素材を中心とする約30品目について、国内販売するのに必要な品質保証体制を整えた。今後、他社にない独自素材を共同開発し、日本で販売することも検討しているという。
Herb Green Health社が製造する植物抽出物は、サプリメントなどの用途で米国や欧州に輸出されている。「生薬を手がけていることもあり、彼らの品質管理レベルは日本から見ても高い。ただ、日本で植物抽出物を本気でやっていくには、機能性表示食品制度への対応がやはり必要で、私たち品質保証部としても、学術対応の強化に加え、品質保証レベルのさらなる向上が必要になりそうです。有効成分含有量の保証など、アミノ酸のような化学物質に求められる品質保証とは異なる要素が多々ありますから」と池田氏は話す。
それもあり、将来的にはラボを設けて分析に関する業務を内製化することも視野に入れているという。「商社にはスピード感も求められますから、分析にせよ研究レビュー(SR)にせよ内製化した方が効率的だというのであれば、そうするべきだと考えています。ただ、分析の内製化はすぐに出来る話ではありません。当面は、メーカーと連携し、日本で求められるレベルの分析に現地で対応できるよう取り組んでいくつもりです」。
【石川 太郎】
(冒頭の写真:取材に答えるサンクト品質保証部の池田部長)
<COMPANY INFORMATION>
所在地:東京都江東区新大橋3-5-1平野ビル2階
TEL:03-5624-1688
URL:https://www.sanct.co.jp/
事業内容:アミノ酸の輸出入および国内販売、レアメタルの輸出入・国内販売およびリサイクル
(金属スラッジの回収・焼成事業)など