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物流問題と送料無料表示を再考(6) 送料無料表示が隠すもの~労働者の視点から警鐘

 物流を支える現場の厳しい声が、ついに意見交換会の場に届いた。2023年9月22日に開催された第7回「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会では、全日本交通運輸産業労働組合協議会(交運労協)、全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)、全国交通運輸労働組合総連合(交通労連)の3団体が出席し、トラックドライバーをはじめとする物流従事者の厳しい実情を率直に語った。

無償ではない労働への敬意を求めて

 「われわれの労働を無にするような表現が『送料無料』である」──これは運輸労連の世永正伸副執行委員長が会合で発した強い言葉である。実際、現場のドライバーたちからも「もういいかげんにしてほしい」という声が上がっているという。ドライバーたちは法に基づいた労働契約の下で物流を支えているにもかかわらず、その努力が「送料無料」という言葉で覆い隠されていることに、深い憤りを感じている。

景品表示法の観点からの問題提起

 交運労協の蒔田純司氏は、消費者庁が発行するガイドラインや景品表示法の規定を挙げつつ、「送料無料」の表現が不当表示に当たるのではないかと指摘した。特に「送料実費」などの不明確な表示はガイドライン上で問題視されており、金額を明示しない「送料無料」も同様に消費者の合理的な判断を妨げる恐れがあるという。

「送料無料」が消費者意識に与える影響

 「物を買えば無料で運んでもらえる」という感覚が蔓延している──これは交運労協のみならず、交通労連の現場からも聞かれる声である。冗談のようでいて、取引先から「うちの荷物も無料で運んでくれないか」と言われる実例が出てきているほどだ。こうした言葉が氾濫することによって、物流という行為そのものへの尊重が失われつつある現状が明らかになった。

通販事業者と消費者の意識の乖離

 物流現場においては、通販事業者が「送料」と「運賃」を分けて説明すること自体が「詭弁」であると受け止められている。一般消費者にとっては、その区別はほとんど意識されず、どちらも「運ぶための対価」という認識が支配的である。こうした実態を無視した形で送料無料が使われ続ける限り、運賃の適正な転嫁も困難になるという危機感が労働者側から強く訴えられた。

「送料無料」から始まる制度的改善の契機に

 意見交換会では、「送料無料」という表記の是非だけでなく、制度全体に対する提言も多く出された。軽貨物運送業者、いわゆる「黒ナンバー」事業者の厳しい実態、元請と下請の運賃格差、実質的な運賃の据え置きによるドライバーの疲弊など、広範な課題が次々と挙げられた。
 なかでも注目すべきは、「送料無料表示を見直しただけで問題がすべて解決するわけではない」という現実的な視点である。だが、それでも「表示見直し」は、運賃交渉のきっかけやドライバーの待遇改善につながる糸口になりうるという前向きな意見も示された。

 本会合で示されたのは、単なる言葉の問題ではない。社会全体が、物流という「労働」へのリスペクトを失いつつあることへの強い危機感である。会議の終盤では、「送料無料という言葉の氾濫が、労働力の離脱を招き、結果的に物流の持続可能性を損なう」との警告も飛び出した。
 この意見交換会は、現場の苦悩に耳を傾け、制度的改善の必要性を再認識する貴重な機会であった。政府、事業者、消費者それぞれが今後どのように行動を変えていくのかが問われている。

(つづく)
【田代 宏】

関連記事:物流問題と送料無料表示を再考(1)
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