機能性表示、届出の差し戻しに困惑 国立栄研のデータベースが使用不可に?
機能性表示食品の届出において、新たな問題が持ち上がっていることが関係者の話から分かった。素材情報データベース(HFNet)で健康食品の安全性・有効性情報を提供している(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所(国立栄研、大阪府摂津市)の情報が届出に使用できなくなるというのである。
9月29日に一部改正されたばかりの「機能性表示食品の質疑応答集」の≪安全性の根拠について≫を見ると、「既存情報を用いた食経験の評価及び既存情報による安全性試験の評価における1次情報、2次情報とはどういうものか」との問い掛けに対し以下のとおりに答えている。

また、「公共機関のデータベースとはどういうものか」との問いについては以下のように回答している。

そこで消費者庁はある事業者の届出に対し、HFNetの情報を使用したことを指摘し、差し戻しの理由の1つにしているというのである。このような事態を招きかねないとの兆しは、春先に起きていた。
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記者は、6月1日発行のWNGメルマガ「Wellness Daily News ダイジェスト」のトピックスで「NMDBショックに揺れる国立栄研」という記事を書いている。そこでは、3月30日付で国立栄研が公式サイトに掲示した「お詫びとお知らせ」というリリースを引用し、「素材情報データベース」の各素材情報の一般情報の作成で、「Natural Medicinesデータベース」に関する利用契約(End User License Agreement)の範囲を超え、無断で引用していたことを謝罪している。
これが原因で国立栄研はそれ以降、HFNetを一時休止せざるを得なくなり、仮サイトを設けて新たなサイトの構築に取り掛かってきたのである。その間、一部届出者の間では情報サイトが閲覧できないとの不満が上がっていた。
同リリースは今も国立栄研のホームページ内に見出すことができるが、9月1日付で新たに「『健康食品』の安全性・有効性情報のホームページ内の『素材情報データベース』における、『ナチュラルメディシン』の内容を開示した事案に関する処分について」とするリリースも掲示されている。そこには、ライセンス契約を逸脱してナチュラルメディシン側に無断で要約した情報をホームページに掲載していた主任研究員を10日間の停職処分にしたと記してある。またそれによれば、不適切な引用は昨年6月7日に発覚していたとしている。
発覚後、国立栄研は今年1月から3月にかけ、全ての部署が順次、東京から大阪へ引っ越した。同研究所移転の話は5年ほど前から持ち上がっていたが、「諸事情で延び延びとなっていた」(国立栄研関係者)。昨年4月、いよいよ現地採用のための人材募集がハローワークで始まり、その年の秋には引っ越すとの話を聞いていたが、結局、今年に延期された。その点について、大幅なウェブサイトのリニューアルを図っているためと記者は関係者から聞かされていたし、刷新する過程でウェブ制作会社の技術的な問題でリニューアルが遅れているとも聞いていたのだが、実情は大きく異なっていたわけである。
HFNetの情報は当社のニュースサイト「ウェルネスデイリーニュース」でも開設当初から取り上げ続けていたため、情報引用の是非について、国立栄研とはこれまでに4度のやり取りを行ってきた。現在、著作権第32条の引用権に基づく使用の可能性について質問を行っているところだが、今のところ回答はない。
問題なのは、とうとうこれが機能性表示食品の届出実務にも波及したことである。
関係者によれば、「差し戻し理由」として、「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の素材情報データベースから得られた情報がありますが、当該データベースにおいて、現在は安全性の情報が公開されていません。また、当該データベースについては、商用目的の利用は厳禁とされていますので、適切なデータベース等を用いて安全性評価を行ってください。(機能性表示食品に関する質疑応答集(令和5年9月29日改正) 問21参照)」との指示があったという。
こうなると、専門的な人材、リソースが乏しい小規模事業者にとっては今以上に厳しい選択を迫られることになりそうである。片や、消費者庁は改正ガイドラインで責任の所在を明らかにするなどの事業者の自主自立の必要性を強調している。改正されたばかりの新たな質疑応答集で、問20と21がそのまま残っているところを見ると、消費者庁は何らかの打開の道を探ろうとしているからだろうか。自主自立を目指して踏ん張る事業者の元へ天から降ってきたこのような処遇に対し、業界サイドの適切な対応も望まれる。
【田代 宏】
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