サプリの製造・品質管理を考える
食薬区分と指定成分制度を軸に JIHFS・池田理事長インタビュー
安全性に直結する製造・品質管理は2022年も引き続き重要なテーマになる。それに業界はどう取り組むべきか。サプリメントの品質に関する国内外の制度、事情に精通するとともに、健康食品GMPの監査、認証を手掛ける日本健康食品規格協会(JIHFS)の池田秀子理事長に聞いた。話は食薬区分にも及ぶことになる。
(聞き手・文:石川太郎)
──健康食品の製造・品質管理を巡る最近の大きな出来事としては、2020年6月、厚生労働省が指定成分等含有食品制度(以下、指定成分制度)を施行したことがあげられます。池田理事長は、指定成分制度の重要性を以前から指摘していて、業界にとって「恩恵になる」とも語っています。なぜ恩恵なのでしょうか。
池田 それを説明する前に、食薬区分について考える必要があります。先日(※21年12月13日)、これまで非医薬品(非医)として取り扱われてきたヒメツルニチニチソウなど5原材料を専ら医薬品(専ら医)に変える食薬区分改正案を厚生労働省が示しました。このまま専ら医に移されてしまうと、我われの側(非医)に戻されることはおそらくありません。業界としてそれでいいのかと思うのです。この5原材料の中には、健康食品の原材料として一定の流通量のあるものが存在するのではないでしょうか。
また、デオキシノジリマイシン(DNJ)という成分が専ら医として扱われていますが、これは健康食品の原材料として利用される「桑の葉」に含まれる成分です。しかしDNJ自体は専ら医であるから、健康食品などの成分名として表示できない。非医の天然物に本来含まれている成分名だけピックアップして専ら医だとする考え方には見直すべき点があると思います。医薬品成分のセンノシドが含まれるセンナにしても、果実・小葉・葉柄などは専ら医である一方で、茎は非医である、と。しかし茎にもセンノシドは微量含まれますから、食薬区分を部位だけで括ることが果たして合理的と言えるのかどうか。
──厚労省は区分変更の理由について、毒性の強いアルカロイドが含まれるなどと指摘しています。
池田 そうです。それを理由に非医から専ら医へ移す判断が示されました。ただ、食薬区分は薬機法(医薬品医療機器等法)に基づく制度ですから、健康食品など食品として利用したときの安全性を論じるものではありません。そのため、安全性に懸念のある成分が含まれているという場合、その成分をどれくらい摂取するとリスクがあるのかなどといった含有量の観点から食薬区分を論じているわけではない。そうした議論のないまま専ら医の世界に持っていかれてしまうのは、非医リストに入るまでの苦労を考えると疑問があります。ただ、食薬区分とはそうしたもの。食品としての安全性を論じるものではありません。
では、健康食品をはじめとする食品としての安全性を論じられる制度はないのか。あります。指定成分制度です。ヒメツルニチニチソウなどを健康食品の原材料として有効活用していくためにどうすればいいのか。DNJやセンノシドを含む原材料を安全性を重視しつつ健康食品に十分使えるようにはどうすべきか。そうしたことを考えたとき、指定成分制度は一つの糸口になるはずですし、業界にとって恩恵になるとも考えています。
──どういうことでしょうか。
池田 ある原材料が非医から専ら医に移されれば、その原材料を食品として活用する道は完全に閉ざされることになります。しかし、専ら医ではなく、指定成分とする流れを作れないでしょうか。そうすると引き続き食品として有効活用できる。DNJやセンノシドを含む原材料も指定成分にすることで、健康食品の原材料として新たな道筋をつくることができると思います。
食品としての安全性に懸念のある成分が含まれる原材料があったとき、その成分の含有量などに関する規格基準を設けることで、安全性に関する指標を示す。そうすれば、その成分を何%以上含む場合は食品ではなく医薬品の領域である、ということを決めることもできます。その上で業界は、国が指定成分等含有食品に対して義務付けた製造・品質管理事項を遵守する。行政と業界がそのように連携して取り組んでいくことで、ヒメツルニチニチソウにせよ何にせよ、健康食品原材料としての安全性を確保しつつ、健康食品として有効に活用していく枠組みを作れるのではないでしょうか。
──幻覚成分を微量含むリスクがあるCBD製品の原材料も指定成分にすべきかもしれません。今後、日本でもCBDを医薬品として活用していくことになるわけですから。
池田 まさにそうです。CBD製品を引き続き食品として販売していくためには、指定成分にする以外にはないように思います。そうすれば当局も管理できますし、業界としても安心して取り扱えるようになる。消費者も安心できそうです。
指定成分制度は今後の健康食品原材料にとって、とても大きな制度になると考えています。他の原材料にしても、安全性にリスクのある成分が含まれるという場合は、もれなく指定成分にすべきなのかもしれません。業界がそれを前向きに捉え、そうした原材料の規格基準づくりや製造・品質管理などに本気で取り組めば、新しい世界が広がるのではないでしょうか。それができれば、この業界は本当に強くなれると思います。
(冒頭の写真:池田 秀子理事長)