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SDGsと健康食品産業(後) 自社の事業内容に合わせ17の目標を具体化

CSRの枠を超えてSDGSへ、企業ならではの取り組みが広がる

 企業が推進するSDGsはどうか。これまでにも大企業や上場企業を中心に、多くの企業がCSR(Corporation Social Responsibility)として、消費者や投資家、環境などへの配慮をし、事業を行うにあたって果たすべき社会的責任を宣言してきた。SDGsが採択されて以降、掲げられた17の目標を自社の事業に落とし込み、具体化し取り組む事業者が年々増加している。
 その一部を紹介する。医療用医薬品パッケージや化粧品パッケージの印刷やパッケージと包装ラインをトータルで提案する朝日印刷㈱(富山県富山市、朝日重紀社長)は7月、「CSR報告書2023」を発行し、同社ホームページに公開した。SDGsの17の目標を5つのテーマに分類し、昨年の実績と活動の具体的事例をまとめた。目標8.9.12.17として、環境対応製品・技術を開発。従来はプラスチックが中心だった成形ブリスターだが、石油由来原材料の使用削減を目指し、プラスチックではなく、竹とバガスを溶解させた素材を使用した「パルプモールド」を提案している。脱プラに加え、非木材を使用しているため、森林の保護にも寄与するという。また同社では、目標3.8.10として、安全衛生・働きがい・人材育成への取り組み、目標10.16として、「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言やリスク管理委員会の設置などにも取り組む。

原料・製品製造事業者、地域への貢献も拡大

 化粧品・健康食品原料商社の岩瀬コスファ㈱(大阪市中央区、岩瀬由典社長)は4月、SDGsに取り組む地元に根差した取り組みとして、廃菌床で育てたカブトムシを幼稚園に無償提供した。佐賀県唐津市にある唐津ウェルネスファームで、21年10月からアラゲキクラゲの栽培を行っており、使用後の廃菌床を有効活用する。カブトムシは5月頃から蛹化、6月下旬頃から羽化するため、その様子を観察できるように専用の観察ケースに入れて提供した。同社ではその目的として、①SDGsの意識を持つ、 ②生き物とのふれあいの機会を提供する、③地域とのつながりを深めることの3点を挙げる。唐津ウェルネスファームが、本業と同じくSDGsに取り組んでいることを知ってもらい、地域との連携を強化し、地域社会に貢献するとしている。 
 植物由来の健康食品・化粧品原料などを製造・販売する㈱常磐植物化学研究所(千葉県佐倉市、立﨑仁社長)は、サステナビリティ方針として「①限りある経営資源を大事にします。②社会、地球、植物から生かされる人・組織・会社であるために、何をすべきかを常に考え、行動します」を掲げる。2020年度より、新たにサステナビリティ統括室を設立。さまざまな事業・CSR活動を通してSDGsの実現に貢献するとしている。また、同社は、千葉県が創設した「ちばSDGsパートナー」制度に登録された。

 健康食品の原料を製造・販売するビーエイチエヌ㈱(東京都千代田区、恩田明広社長)は、さまざま農作物や生産物を研究し、新たな価値の発見に取り組んできた。豊かな地域資源や土地、その生活を守り次の世代につなげていきたいという生産者の思いを6次産業化するなどのサポートを行う。これまでに、鹿児島県の喜界島に自生するボタンボウフウ(長命草)、東京都伊豆諸島にある利島の椿油の絞り粕に由来する「ツバキ種子エキス末」を、機能性表示食品対応原料として製品化することに成功した。
 ㈱ミリオナ化粧品(大阪市北区、阪本雅哉社長)は現在、北海道美唄市に新工場を建設している。同工場は、豪雪地帯である同地域の雪解け水から化粧品用の水を製造する工場。同市が進める「空知団地の雪解け水を活用した新規事業」の取り組みによって実現した。さらに、夏場の冷房に雪の冷気を使用するなど環境への配慮も重視。同じく同団地に建設される予定のサーバー管理会社と連携し、サーバー熱を冬の暖房として活用する計画。同時に、同敷地内にこの雪解け水を使用した化粧品製造工場の建設を行う。同市と連携し、『北海道空知地域の雪解け水(仮称)』として水をブランド化し、化粧品のイメージ戦略として活用する計画。

17の目標を細分化し自社ができることを最大限に

 機能性食品原料の製造、サプリメントのOEM製造を行う㈱オムニカ(静岡県裾野市、高尾久貴社長)は、目標3.8.12として「健康食品を扱う事業者としての社会的責務 人々の健康で幸せな生活に資するために」、目標3.9として「研究開発 素材の新たな機能、確かな品質のための最適な製法を求めて」、目標3.5.7.8.10.12として「静岡県裾野市の自社工場 天然物では仕方ないと思われてきたバラつきを極力排除する精密設計、環境にも配慮」、目標7.11.13.14.15として「環境への配慮 活性汚泥による排水処理システムをはじめ、環境に配慮したシステムを導入」を掲げ活動している。
 化粧品・健康食品の原料製造と販売を行うオリザ㈱(愛知県一宮市、村井弘道社長)は、「オリザ油化の5つの行動指針」に基づき、米から始まった天然素材の研究を通じて、企業理念「世界の人々の健康と美を実現する」を追求している。事業活動を通じてSDGsの達成に貢献していくため、組織全体で共通の課題認識を持ち、その解決に向けて具体的活動に取り組むことで、全てのステークホルダーと共に持続可能な未来の創造に努めるとしている。具体的な取り組みとして、世界特許を取得したサステナブル抽出法(New Extraction Method/NEM法)、優れたエコ精製技術(New Refining Method/NRM法)の採用、紫茶のアフリカ支援プロジェクト、環境に配慮した排水処理施設やLED電球への切り替え、労働環境の整備などに取り組む。
 ㈱神鋼環境ソリューション(兵庫県神戸市、佐藤幹雄社長)は、目標6.7.9.11.12.13.15.17を同社事業と関連するSDGsとして取り組む。具体的な取り組みとして、ごみの保有エネルギーを活用し外部燃料使用量を最小とすると同時に、国内最高水準の高効率ごみ発電によりサーマルリサイクルを推進する経済性・エネルギー回収に優れたシステムの「流動床式ガス化溶融炉・燃焼炉」、同社が出資する㈱福井グリーンパワーによる「木質バイオマス発電」、下水汚泥から従来よりも低コストでメタンガスを取り出し、有効活用すると同時に、メタンガスの改質により得られた水素を自動車燃料として供給する事を目指した実証研究「高濃度消化・省エネ型バイオガス精製による効率的エネルギー利活用技術実証研究」、カンボジアにおける浄水設備受注と水道事業への参入などがある。
 医薬品・化粧品原料の製造・販売を行う日光ケミカルズ㈱(東京都中央区、中原秀之社長)はこのほど、CSR特設サイトを開設。事業活動を通じ9つの重要課題(目標3.4.5.8.9.12.13.16.17)への取り組みを推進するとしている。環境マネジメントとして、太陽光発電システムやDO計(溶存酸素計)などを設置し省エネルギー化を進める。そのほか、重油から液化天然ガスへの転換にも着手。液化天然ガスを使用したボイラを導入し、温室効果ガスを約25%削減した。また、ニッコールグループとして、21年から男性従業員の育児休業を推進するプロジェクトを進めており、啓蒙活動やパンフレットなどの情報発信を通じて、育休を取得しやすい環境を整備した。

大手企業、専門組織を設置し事業として拡大

 キユーピー㈱(東京都渋谷区、髙宮満社長)は、サステナビリティ委員会を設け、担当取締役を委員長とし、サステナビリティ目標の達成に向けた方針・計画策定、取り組みを推進しており、年4回委員会を開催している。重点課題に対する目標・取り組みについて、分科会や連携するプロジェクトで検討し、グループ内への浸透と定着を図る。また、リスクマネジメント委員会とも連携して、環境変化に対応し、経営基盤の強化を進めている。「食と健康への貢献」、「資源の有効活用・循環」、「気候変動への対応」、「生物多様性の保全」、「持続可能な調達」、「人権の尊重」を重点課題に掲げ、持続可能な社会の実現への貢献とグループの持続的な成長を目指す上で、事業と社会の双方にとって重要と捉える。社会・地球環境変化に応じて、定期的に重点課題の見直しを行う。
 物流事業大手のSBSホールディングス㈱(東京都新宿区、鎌田正彦社長)は、グループの経営理念と行動基準に基づき、ESG経営を推進している。ESGにおける重要テーマを、「環境」、「安全」、「社会」、「ガバナンス」の4つに分類し、それぞれについて重点項目や推進施策を定め、継続的かつ多角的に取り組む。なかでも、「環境」と「安全」は、グループの中核事業である物流の主要課題であることから、最重要に位置づける。その4つの課題の各々について推進組織(グループ会議)を設け、活動の推進と情報の共有を図る。また、これらの組織を統括する「サステナビリティ推進委員会」を設置。グループ各社の代表で構成し、グループ横断組織として方針の決定や施策の承認を行うなど、CSR活動の推進軸を担う。
 大塚製薬㈱(東京都千代田区、井上眞社長)は、企業理念「Otsuka-people creating new products for better health worldwide 世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する」の下、事業を通じた社会課題の解決に取り組み、自らの持続的な成長と健康でサステナブルな社会の実現を目指している。研究開発におけるイノベーションへの取り組み、世界3大感染症のひとつ「結核」への取り組み、健康・疾患啓発活動、47都道府県をはじめとする全国の自治体との健康に関する包括的な連携協定の締結や社員の健康、育成・教育、品質・安全性への取り組みなど、幅広く対応している。
 サントリーホールディングス㈱(大阪市北区、新浪剛史社長)は、重要度の高い取り組み目標として、目標6「水・衛生」、目標3「健康・福祉」、目標12「責任ある生産・消費」、目標13「気候変動」の4つを特定した。同グループの事業活動にとって重要な原料である水のサステナビリティには、「水と生きる」をコーポレートメッセージに掲げる企業グループとして最優先で取り組む。また、自然環境への貢献と同時に、商品・サービスの提供を通じた生活文化の創造への貢献を使命に掲げる。高品質の商品・サービスを提供するだけでなく、イノベーションを促進し、常に新たな価値を創造することで、人々に潤い豊かな暮らしを提供することが、「人と自然と響きあう」社会の根幹になると考える。
 日清食品ホールディングス㈱(東京都新宿区、大阪市淀川区、安藤宏基社長)は、人類を「食」の楽しみや喜びで満たすことを通じて社会や地球に貢献する「EARTH FOOD CREATOR」をグループ理念に掲げる。インスタントラーメンのパイオニア企業として、人々に安全でおいしい食を提供すること、環境・社会課題を解決する製品の開発を推進していくことが使命として、代表取締役社長・CEOを委員長とする「サステナビリティ委員会」を設け、持続可能な社会の実現と企業価値の向上に努めている。製品を通じた貢献として、目標2.3.4.12.14.15を重点目標に置く。また、同社グループは、国連グローバル・コンパクト(国連と民間 (企業・団体) が手を結び、健全なグローバル社会を築くための世界最大のイニシアチブ)に署名。人権の保護、不当な労働の排除、環境への対応、腐敗防止に関わる10の原則に賛同し、その実現に向けた取り組みを進める。
 新日本製薬㈱(福岡市中央区、後藤孝洋社長)は、環境への取り組みとしてグリーンナノ技術を採用した容器への変更、配送方法の変更によるCO2排出量の削減、循環型社会への取り組みとしてプラスチック使用量削減、再生原料からできた素材の利用、オフィスでの取り組みとして紙使用量の削減、エコキャップ運動、生物多様性の保全として絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されるムラサキの栽培方法確立と商品への採用、FSC®認証紙の採用、水・化学物質への対応などを行っている。そのほか、研究開発や安心安全な品質への取り組み、人財育成・働き方、健康経営など幅広く取り組んでいる。

 こうしたSDGsへの取り組みが、特に海外企業との新規取引では重要視される傾向にある。人材採用、金融機関からの融資の優遇条件になるケースもあるなど、取り組むことが事業継続の必須条件になりつつある。1企業単体での取り組みのから、同業他社や異業種、自治体、大学などとのアライアンスも加速している。

【藤田 勇一】

『ウェルネスマンスリーレポート』2023年9月10日号(第63号)より転載

関連記事:SDGsと健康食品産業(前) 地域の特性を生かした取り組みが広がる

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