なぜ紅麹サプリ事件は起きたのか 制度は、誰を守り、誰を免責したのか
紅麹サプリ事件は、なぜ防げなかったのか。それは本当に「想定外」の健康被害だったのか。それとも、制度の帰結として起こるべくして起きた事故だったのか。事件発覚以降、原因物質、製造工程、企業対応、被害者救済に注目が集まってきた。しかし、より根源的な問いは、いまだ十分に問われていない。
なぜ、医薬品と同様の作用を有する成分が、食品として流通し得たのか。なぜ、事前に国が安全性を評価しない制度の下で、被害が顕在化するまで行政は介入できなかったのか。この事件を理解するカギは、2019年3月にさかのぼる。
発端は2019年「0315通知」ではなかったか
2019年3月15日、厚生労働省は「『医薬品の範囲に関する基準』に関するQ&A」(いわゆる0315課長通知)を発出した。同日、消費者庁は機能性表示食品に関する質疑応答集を改正している。
形式上は「解釈の整理」、「判断過程の明確化」である。しかし実態としては、医薬品該当性の整理と機能性表示食品制度の運用が、明確に接続された瞬間だったのである。
この通知とQ&A改正以降、「成分名」、「特定製造法」、「医薬品該当性の一般論」――これらの組み合わせによって、医薬品的作用を有する成分が、個別の安全性評価を経ることなく食品として届出され得る制度環境が整った。小林製薬は医薬品成分「モナコリンK」を独自の製法で醗酵熟成させた食品成分「米紅麹ポリケチド」として『紅麹コレステヘルプ』に配合して販売した。パッケージに標榜したキャッチは「悪玉コレステロールを下げる L/H比を下げる」である。紅麹サプリ事件は、このような制度環境の中で起きた実に不幸な出来事だった。
誰が、この結果に責任を負うのか
ここで避けて通れないのが、責任の所在である。この事件によって生じたのは、健康被害だけではない。製品回収、取引停止、株価下落、ブランド毀損――経済的被害もまた甚大である。実際、事件発覚後に紅麹原料を扱っていた食品会社の中には、風評被害によって多大なダメージを受けた事業者もある。では、この結果について、誰が責任を負うのか。
2018年の規制改革推進会議の答申を受け、閣議決定として制度運用の見直しを進めた国か? 当時の制度所管大臣であった厚生労働大臣か? 機能性表示食品制度を運用した消費者庁長官か? 0315通知や質疑応答集改正に直接関与した当時の担当責任者か? あるいは、制度の枠内で届出を行い、製品を販売した小林製薬なのか? それとも規制緩和を声高に唱えた業界団体か?
現時点で、国は「制度は適切に運用されていた」との立場を崩していない。消費者庁も厚労省も、個別製品の安全性を判断する制度ではなかったと説明している。だとすれば、被害は誰の責任でもなく生じたということになる。事実、国は健康被害の原因を製造工程における衛生管理上の問題に帰している。しかし小林製薬は、死亡との関連が指摘される事例が相次いだものの、製品との因果関係を今も認めていない。
なぜ国は補償しないのか
ここで、さらに大きな疑問が浮かぶ。コロナワクチンでは、国は「迅速な接種を進める政策判断」を理由に、副反応・健康被害について公的補償制度を設けた。
ではなぜ、規制改革と国の制度設計の下で拡張された機能性表示食品制度に起因する被害について、国は一切の補償責任を負わないのか。事業者責任だけで済まされる問題なのか。国は、制度設計の段階で、被害の予見可能性を自ら閉ざしていたのではないか。
厚労省・消費者庁に問う
ウェルネスデイリーニュース編集部は、厚生労働省および消費者庁に対し、次の点を正式に問いかけている。
0315通知および質疑応答集改正に際し、医薬品的作用を有する成分が食品として流通することによる健康被害リスクを検討した事実はあるのか。
その検討を示す文書・議事録・内部メモは存在するのか。
紅麹サプリ事件による健康被害・経済被害について、国としての責任をどのように整理しているのか。
制度に起因する被害である可能性を、行政としてどこまで認識しているのか。編集部では以下のとおり、厚生労働省および消費者庁にそれぞれ照会した。
<厚生労働省 医薬局 御中>
2019年3月15日付で、医薬・生活衛生局(当時)監視指導・麻薬対策課が発出した課長通知「『医薬品の範囲に関する基準』に関するQ&Aについて」(薬生監麻発0315第1号)について伺います。
同通知は、医薬品該当性の判断に関する解釈を整理したものと理解しておりますが、同通知を発出するに至った背景・課題認識について、当時どのように整理されていたのか、ご説明ください。
また、本通知は「課長通知」という形式をとっていますが、局としての制度解釈の整理として発出されたものと理解してよいか、あるいは課レベルでの運用整理にとどまるものか、厚生労働省としての位置付けをお示しください。
同通知が、消費者庁における「機能性表示食品に関する質疑応答集」の改正に影響を与えたことについて、厚生労働省としてどのような認識を有しているか、差し支えない範囲でご教示ください。
<消費者庁 食品表示課 御中>
2019年3月以降、消費者庁は「機能性表示食品に関する質疑応答集」を改正していますが、同改正は、厚生労働省が同年3月15日付で発出した課長通知「『医薬品の範囲に関する基準』に関するQ&Aについて」(薬生監麻発0315第1号)を受けた対応であると理解してよいか、確認させてください。
その上で、Q&A改正にあたり、消費者庁としてどのような制度的整理・課題認識があったのか、改正理由を差し支えない範囲でご説明ください。
当時の改正は、「機能性表示食品制度の運用を明確化すること」、「医薬品該当性との関係整理を行うこと」のいずれを主眼としたものであったのか、消費者庁としての位置付けをお示しください。
以上
両省庁からの回答は、本日(29日)配信のメールマガジン「Wellness Daily News ダイジェスト」で取り上げる予定である。あわせて、規制改革推進会議を契機に「食薬区分(昭和46年通知)の運用改善」(消費者庁)が進められていく経緯についても、詳細に検証していく。
【田代 宏】











