「日本が私たちを鍛えた」 サミ・サビンサグループ、25年の信頼関係を土台にした次なる一手は
国内で販売されているサプリメントの多くに海外製の原材料が用いられている。経済成長の著しいインドから輸入されている場合も少なくない。同国の原材料メーカーの経営方針はどのようなものか。また、日本市場をどう捉えているのか。インドを代表する原材料メーカーの1つであるサミ・サビンサグループ(以下、サビンサ)のシャヒーン・マジードCEO(最高経営責任者=写真)に聞いた。
──創業者の死去にともなうCEO就任から約1年半が経ちました。サビンサをどのように変えようとしているのでしょうか。
マジード 私が最も力を入れているのは「安定性(スタビリティ)」の確立です。社員の安定、将来成長の安定、サプライチェーンの安定、そして新製品開発やアライアンスの安定。この4つの安定が私の経営の基礎です。
創業者である父から経営を引き継ぐことは、サビンサにとって非常に大きな変化でした。サビンサは世界で約1,800人の社員を抱えています。ですからまずは社員が「この会社はこれからも安心して働ける」と実感できる環境づくりを進めました。
同時に、サプライチェーンを見直し、安定した供給こそが品質と顧客の信頼を支える柱であることを再確認しました。さらに、生産設備や研究所などの資産を「継続的に成長し、高品質を保ちながら生産を続けられる仕組み」に進化させようとしています。つまり、人・供給・品質・成長のすべてを安定化させること――これが「スタビリティ」です。安定性とは変化を止めることではありません。変化に強い体制を作るということです。
──会社は1988年に米国で創業、91年にインドで設立。今では世界9カ国・地域に販売拠点を置き、インドと米国を中心に6つの製造拠点を持つグローバル企業です。
マジード 父が築いた遺産は非常に大きなものです。父の理念は、「科学・倫理・品質」を軸にした経営でした。「科学を軸に、誠実に品質で勝負する」という父の信念は、私自身の経営哲学の中心にあります。30年以上にわたり会社を支えてきた幹部が今も多く在籍しており、父の精神は彼らが体現してくれています。彼らは私の最も信頼する仲間です。
──最近の海外メディアのインタビューで、価格競争による「コモディティ化」に警鐘を鳴らしていました。どういうことでしょうか。
マジード 価格競争に陥ると、品質や科学的根拠が失われてしまうということを伝えたかったのです。私たちの健康を支えるサプリメントにおいて、安さが最優先であってはならない。私は消費者としても「信頼できる品質」の重要性を強く感じていますし、品質を守るためにもコモディティ化に陥ってはならないと考えています。
コモディティ化を回避するポイントは3つあります。第一に安全性。安価な原材料は往々にして品質が不安定で、健康被害につながりかねません。だからこそ安全性はすべての基本です。第二にイノベーション。見た目や味、製造時の加工性など、細部まで改良を積み重ねることが重要です。第三に臨床エビデンス。小規模だとしても、人を対象とした試験を行い、有効性を実証することが大事です。
この3つにリソースを投じなければ、どんな素材もコモディティの波に埋もれてしまう。ですから私たちは「価格でなく品質とイノベーションで競う」ことを原則にしています。
「C3コンプレックス(ウコン抽出物)」、「バイオペリン(黒コショウ抽出物)」、「ラクトスポア(有胞子性乳酸菌)といったサビンサのブランド原材料は、安全性データ・イノベーション・臨床エビデンスという三本柱で構成されています。これらを支えに、コモディティとの差別化を図り続けています。たとえばC3コンプレックスは、打錠適性に課題があったため、直接打錠(DC)グレードを開発しました。
──日本市場をどのように見ていますか。
マジード 日本はサビンサにとって特別な市場です。だから私たちは日本法人「サビンサジャパンコーポレーション」を設立し、25年間にわたり活動を続けているのです。私たちの海外展開の第一歩となったのが日本です。父は、日本が容易ではない市場であることを理解していました。だからこそ「自分たちのチームを日本に置く」と決断したのです。
日本は、私たちの技術力を引き上げてくれる存在です。品質基準が非常に高く、要求も詳細であるため、常に努力が求められます。そのおかげで日本独自の規制にも対応できるようになりました。
私たちは日本国内に倉庫を設け、小ロットや短納期の要望にも応えられる体制を整えています。さらに、日本で取得した特許は50件を超えます。こうした取り組みこそが25年にわたり日本で活動を続けこられた原動力です。今後については、品質保証に対する要求にさらに応えたり、イノベーションを促進したりするために、日本に分析ラボやR&Dセンターを設置したいと考えています。
──新製品の「Pozibio(ポジバイオ)」について伺います。いわゆる「リーキーガット(腸漏れ)」ケアを訴求するポストバイオティクス(腸内細菌代謝産物)ですが、開発したのも製造するのもサビンサではありません。
マジード ポジバイオはサビンサ初のライセンス導入製品です。当社がグローバルライセンス契約を結び、世界市場で販売を行います。開発した米国企業は技術力こそ非常に高いものの、グローバルな販売ネットワークを持っていませんでした。そこで、彼らの科学と当社の世界規模の営業網を組み合わせ、優れた製品を世界中に広めようと考えました。このモデルこそ、サビンサが今後進める「共創(Collaborative Innovation)」の象徴です。
今後は他社とのアライアンスをさらに積極的に進める方針です。その理由は3つあります。
第一に、科学の進歩が非常に速いため、すべてを自社でまかなうのは現実的ではありません。日々新しい研究領域が生まれている中では、世界中の優れた科学を取り入れ、サビンサ基準の製品を磨き上げて市場に届けることが必要です。
第二に、私たちは科学の質を公平に評価します。どの国の技術かではなく、どれだけ信頼できるデータを持つかで判断します。科学的根拠が確かであれば、他社の研究でも積極的に取り入れる。それがサビンサのオープンイノベーションの理念です。価値のある科学であれば、企業規模や国籍に関係なく連携します。自社の研究所だけで閉じた開発を行う時代は、もう終わりました。
そして第三に、安定供給の確保です。供給・製造・流通の各段階で複数のパートナーと連携し、リスクを分散することで品質を守ります。アライアンスは単なる協業ではなく、私が最も重視する「安定性(スタビリティ)」の一部なのです。
――サビンサの主力製品は植物の抽出物です。事業の持続可能性をどう確保しますか。
マジード サビンサの事業は自然とともにあります。ですから、環境変動は最も大きなリスクです。2004〜05年、インド南部で大洪水が発生し、主要原料のコレウス(フォルスコリ)が壊滅的被害を受けました。この経験から「調達地域を分散する」ことの重要性を痛感しました。現在、製品の原料となる植物の栽培は南インドに加え、北部・西部、そしてインドネシア、タイ、ベトナム、マレーシアなど東南アジアにも広げています。これにより気候リスクを分散し、安定供給を確保しています。
──最後に日本のサプリ業界へのメッセージを。
マジード 日本には世界でもトップクラスの優秀な人材がいます。ですから私は、日本でイノベーションについて話し合いたい。世界はいま非常に困難な状況にありますが、そのように協力し合うことで、私たちはより良い希望を見いだすことができるはずです。サビンサは、人々の健康に希望を与えることのできる製品を届けたいと願っています。
──ありがとうございました。
【聞き手・文:石川太郎、2025年10月16日食品開発展内で取材】
日本への感謝と次の25年へ─サビンサジャパン設立25周年
スリラル ムーリィル・モワンチェリ取締役副社長が語る

サビンサジャパンは、おかげさまで設立25周年を迎えることができました。長い間ご支援くださっている日本の皆さまに、心から感謝申し上げます。
私自身は1996年にサミ・サビンサに入社し、2006年に日本に赴任しました。当時は社員4人、製品数も10種類ほどでしたが、今では社員11人に加えパートタイマーが2人、60種類以上の製品を扱うまでに成長しました。サビンサは今、「トータルソリューションプロバイダー」として、さまざまな機能分野の製品を日本にお届けしています。
日本市場は自然由来素材への理解が深く、また、品質に対する基準が非常に高い国です。その厳しさは、私たちの技術力と品質向上の大きな力となりました。日本向けに製造している「FJ(For Japan)」規格の製品はその象徴です。
これからも、信頼できる(Reliable)、責任ある(Responsible)企業として、日本の規制に適応した製品の品質と、私たちが最も重視しているトレーサビリティを守りながら、皆さまの期待に応えていきたいと思います。今後とも変わらぬご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。
【聞き手・文:石川太郎】
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