1. HOME
  2. 元食品表示Gメンの事件簿
  3. 食品表示ルールの大幅見直しあるか どうなる?「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」

食品表示ルールの大幅見直しあるか どうなる?「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」

元食品表示Gメン 中村 啓一 氏

 2023年は、食品表示ルールが全面的に見直され、食品制度改革の年になることが予想される。筆者は以前から、食品表示のルールはその場その場の事情で五月雨的に改正するのではなく、例えば5年ごとに制度を見直し、一括して必要な改正をしたらどうかと提案しているが、それが実現するかもしれないと期待している。

2015年、食品表示法施行

 食品の表示ルールは、2015年に施行された「食品表示法」で定められている。それまで、食品に関係する表示は、「JAS法」、「食品衛生法」、「健康増進法」でそれぞれの法目的のための表示ルールが定められており、農林水産省および厚生労働省がそれぞれ所管していた。 
 09年の消費者庁発足に伴い、同庁がこれら関係法令の表示に関する統一的な解釈・運用を行うこととなった。さらに、10年に閣議決定された消費者基本計画で食品表示に関する一元的な法律の制定が示され、3法を一元化した「食品表示法」が2013年に公布された。

我が国の表示ルール、つぎはぎ感否めず

 表示ルールについては、法律が複数あるために消費者や事業者に分かりづらいという意見があり、食品表示法に一元化したことはこれらの要望に応えるものとして評価される。
 一方、食品表示法制定後、製造固有記号、加工食品の原料原産地表示、遺伝子組み換え表示の改正が続き、新法下での食品表示ルールが寄せ集めと継ぎ足しの感は否めず、分かりやすくなったとはいいがたい現状もある。

食品表示制度見直しへ向け協議開始

 この表示制度を全面的に見直す可能性のある動きがみられる。昨年12月5日に開催された「農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議」において「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」が改正され、食品表示制度を国際基準との整合性を踏まえて見直すことが新たに明記された。
 実行戦略では「食料供給のグローバル化に対応し、①我が国の農林水産物及び加工食品の輸出促進と②国内で販売される輸入食品も含めた食料消費の合理的な選択の双方に資するため、現行の食品表示制度を国際基準(コーデックス規格)との整合性の観点も踏まえ見直す」としており、新年度からはこの具現化に向けた本格的な動きが予想される。

独自の食品表示制度、見直しには困難も

 しかし、加工食品の原料原産地表示に象徴されるように、我が国の食品表示制度は独自の歴史を歩んできており、世界標準と整合させるための制度見直しは簡単ではない。
 例えば、我が国は加工食品の原材料を添加物と区分して重量順に表示するが、コーデックスは添加物を含めた全ての原材料を重量順に表示することとしている。一般原材料と添加物を区別して表示することは、JAS法時代に消費者からの強い要望を受けて実現したものであり、コーデックスルールへの準拠に理解が得られるか懸念される。
 また、コーデックスが原材料としている「水」も我が国は原材料として表示されていない。一番使用量の多い原材料には原産地表示が必要だが、水(国内製造)と表示される食品が登場するのか、そもそも国際的基準には見られない全ての加工食品に義務としている原料原産地表示を見直すのか、単に原料に水を追加するだけなら、これまでのルールの継ぎ足しを繰り返すことになる。
 他にも、コーッデクスルールにはない遺伝子組み換え表示、逆に我が国にはないロット識別表示、さらには表示事項の異なる添加物やアレルゲンなどについても整合性を取る必要があるだろう。

 個別品目の表示も見直しが必要だ。食品表示法は、農産物缶瓶詰やトマト加工品などのJAS法の個別品質表示基準をルーツとする個別品目について、それぞれの品目の定義と表示方法を定めており、景品表示法もマーガリンや飲用乳など業種別の公正競争規約を認定している。
 一方、コーデックスも調味料や菓子などについて規格を設けているが、対象品目や規格内容に違いがみられる。また、チョコレートなどはコーデックスと景品表示法には規約があるが、食品表示法にはないなどの事例もあるなど、国際標準とともに国内の整合も図る必要がある。ちなみに、昨年大豆を使用しない麦みその表示が話題となったが、これについてはコーデックスにもみそが含まれる「発酵大豆ペースト」の規格があり、「主成分を大豆とする発酵食品」と定義されている。

輸出促進効果は未知数、時間をかけた議論が必須

 我が国の食品表示は、消費者の利益に資するとともに、TPP対策としての加工食品の原料原産地表示など、食品の輸入増加に備えた国内対策として、我が国独自の食品表示ルールを定めてきたが、新たな方針は、海外への輸出促進に資するため食品表示制度のコーデックス規格との整合と、国内では輸入品も含めた食品の合理的な選択に資するために見直すとしている。
 しかし、輸出する食品は輸出先国のルールに従ってその国の公用語で表示され、国内に輸入される食品は我が国のルールに従い日本語で表示される。国内の表示ルールを国際基準に整合させることにより、どこまで輸出促進効果があるかは未知数だ。
 また、長年の議論で積み重ねてきた我が国の表示制度が、国際基準の整合性を目的に大きく変更されることに対する消費者の不安、生産者や事業者の戸惑いもあるだろう。一方、現行の制度をそのままに、国際基準の上乗せでは、我が国の食品表示制度はますます複雑で分かりづらいものになってしまう。

 食品表示制度の見直しは、考え方と方向性を明確に示した上で、具体策については時間をかけて十分な国民的議論が必要であり、短期間に結論を出すことは難しい。23年が食品表示制度改革の年になるか、これまでの食品表示ルールが全面的に見直され集大成できるかは、消費者庁がどこまで本腰を入れるかにかかっている。

<筆者プロフィール>
1968年 農林水産省 入省(主に、食品産業・食品流通関係行政を担当)
2001年 近畿農政局 企画調整部 消費生活課長
2003年4月 総合食料局 消費生活課 企画官
2005年4月 消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長
2009年1月 総合食料局 食糧部 消費流通課長
2011年8月 農林水産省 退官
 近畿農政局時代にBSE、牛肉偽装問題を担当、以来10年にわたり食品表示の監視業務に携わり、さまざまな食品偽装を摘発。2008年の事故米不正流通ではチーム長として、事故米の流通ルートの解明を担当した。公務員として、東日本大震災被災者への食料支援が最後の業務となった。
退官後は、「元食品表示Gメン」として食品表示に関わるさまざまな情報を発信、メディアにも出演している。
<著 書>
『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著(ぎょうせい)2008年
『食品偽装との闘い』(文芸社)2012年

<参 考>
農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略~マーケットイン輸出への転換のために~

TOPに戻る

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

INFORMATION

お知らせ