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安全性が評価されないままでいいのか 【インタビュー】求めるエビデンスの基準、もう一段階高く

 保健機能食品の未来をテーマにした連続インタビューの最後に登場願うのは、消費者委員会の委員に昨年9月就任した元厚生官僚の今村知明・奈良県立医科大学公衆衛生学教授(=写真)である。医師免許を持つ医系技官として食品安全行政に「基準」と「監視」の両面から携わってきた経歴を持ち、消費者委では新開発食品調査部会と食品表示部会の両部会長を兼務する。機能性表示食品制度が抱える課題をストレートに指摘する氏の話に耳を傾ける。

──経歴が多彩ですね。医療政策や統計学も専門だとか。

今村 実は病院経営もやっています。もともとの専門は医療情報でした。厚生省(当時)に入省して最初の在籍は統計情報部。そのあとは文部省(同)で学校保健を担当したり、厚生省に戻ってエイズ結核感染症課で薬害エイズ対策に取り組んだり。厚生省では食品保健部企画課(同)にも2年在籍して、さまざまな食中毒事件を担当しました。BSE問題が発生したのも在籍中でしたね。

──健康食品との関わりをもったのは食品保健部在籍時ですか。

今村 そうですね。食品表示も担当していたので、食品衛生法と健康増進法に基づく表示は私の責任下にありました。だからトクホ(特定保健用食品)の表示許可要件に法規定を設けて制度化するところまで担当させてもらいました(編集部注:2001年施行の保健機能食品制度を指す)。いわゆる健康食品とトクホの区分けをしっかり決めるべきだということで、どこまでがいわゆる健康食品で、どこからが国が認めるトクホなのか、というところをだいぶやりました。

──いわゆる健康食品と保健機能食品を区分けるポイントはどこに。

今村 薬ほど要件が厳しいわけではないにせよ、効能と安全性がちゃんと評価されていること。普通の食べ物と、効能を持つ食べ物の境界域はそこです。効能と安全性が確保されていることが重要であり、そうであってこその効能を持つ食べ物と言えます。

──昨年11月の消費者委員会本会議で機能性表示食品に対する問題意識を語っていました。届出制に疑問を抱いているように聞こえましたが。

今村 トクホの仕組み作りを行った人なので、それ(許可制)が頭に染み付いているということなのでしょうが、本当に届出だけでいいのか、そんなの信用できるのか、というふうに考えているということです。感覚的な話なのですけど、8~9割の事業者は真面目にやっていただいていると思う一方で、1~2割は厳密とは言い難い。「それはあまりにおかしくありませんか」というものが混じっていますし、ごく少数ですが、確信的におかしなことをやっているのではないかと疑われるものもあります。

 いわゆる健康食品よりは良心的だと思っています。制度としては、野暮図な健康食品の流通を防ぐ効果が大きい。効能と安全性について最低限の証拠を集めておくのが条件ですよ、というのが機能性表示食品だからです。いわゆる健康食品は、最低限の証拠があるのかどうかさえ分かりませんからね。ただ、我われのような立場(学者)の者からすると、「それは証拠だと言えるのですか」という証拠で売っておられることがある。論文があるといっても、世の中にはお金を払えば必ず掲載してくれる「ハゲタカ・ジャーナル」もあるし、確信的に嘘の証拠を流していると思えるものもある。トクホは審査されるから嘘をついてもすぐにバレます。善良でない悪い事業者をどう取り締まるかというところが届出制は弱いですよね。

──特に安全性に対する懸念を強調されていたと思います。

今村 制度の話として言えば、トクホと違って安全性が評価されていないのが一番、嫌ですね。例えば、血圧を下げる効果があるというのであれば、その効果は低血圧の人に対しては有害になるし、効能には個人差もあるから血圧が高めの人でも効きすぎて有害な場合もある。それに、2倍とか3倍とかの量を長期に食べた場合の安全性はどうなっているのか。トクホはそういったところも審査のうえで許可されたり、されなかったりしますけど、そこを別に評価しないでも機能性表示食品は届け出たり、販売できたりしてしまう。中には、食経験の証拠だけで安全だと言っているものもありますね。安全性の確認や評価がおろそかになっているのだとすれば、絶望的なことも起こり得ると思います。

──機能性表示食品の届出件数は増え続けています。逆にトクホの許可件数は減り続けている。トクホの許可審査を行う立場として現状をどう見ていますか。

今村 実際、申請件数が減り続けているわけです。効能と安全性の両方が一定基準に達している食べ物がトクホとして世の中に出ていくというこれまであった風潮が、「そんな面倒くさいことしなくてもいいか」と言って、どんどんなくなっている現状は不幸なことだと思っています。

──しかしそれはトクホの許可を得るまでに求められるコストが大き過ぎるからでは。

今村 そうですね。かかる手間と時間も全然違いますから。自分が事業者の側であったら機能性表示食品を選びますよね。

──(笑)。そうした不幸な現状を解消していくために何が必要だと考えますか。

今村 機能性表示食品の要件をもう少し厳しくするべきだと思っています。安全性も効能も必要なエビデンスの基準を高めて、その基準に達しているものを機能性表示食品と呼べるようにしなければ、と思っています。

──それをするには国が制度にもっと関与する必要がありそうですね。

今村 そう思いますね。委員会の公式な意見となるかどうかは不明ですが、トクホのように許可制にするとかいう話ではなくて、基準に達しているかどうか、届出可能なのかどうかを事前に振り分けるようなシステムが必要だと思います。それに、錠剤などのサプリメント形状に関してはGMP(適正製造規範)を必須にするべきだとやっぱり思いますよね。

 機能性表示食品制度の参考にされた米国の制度も段階的に厳しくされていきました。繰り返しになりますけど、効能があればそのぶん毒性もある。体重を減らすという効果が動物実験で見られた場合、それは毒性とも呼ぶのです。だからそれを食べ物として売る以上、毒性評価も含めて安全性評価が行われていなければならない。健康食品による健康被害は買う側の理解不足による過剰摂取が大半だと考えられますが、そうではなくて、毒性が原因になっている場合もあります。被害情報をすくい上げ切れていないだけで、少なからず発生しているはずです。だから健康被害情報に対するアンテナをもっと張って、異変が生じたら必ず報告する、というルールを作らないと。そもそも食べ物全体にリスクがあって、「食べ物だからいくら食べても安心」ということはないのです。そういう正しい認識が国民全体に広がっていけば、健康食品のリスクを殊更に言う必要は無くなるのかもしれません。

──最後に個別評価型の疾病リスク低減トクホについて伺います。DHA・EPAを含む特定のフィッシュソーセージについて、「日頃の運動とDHA及びEPAを含む健康的な食事は、将来、心血管疾患になるリスクを低減する可能性があります」という表示を消費者庁が許可しました。許可して差し支えない旨を答申したのは消費者委で、その審査の中心にいたのは今村さんです。個別評価型の疾病リスク低減トクホは今後増えていくのかどうか。見通しを聞かせてください。

今村 増えていったらいいな、とは思っています。ただ、疾病リスク低減のエビデンスを得るのは企業単独ではほとんど不可能なのではないか、と。DHA・EPAで申請された資料の全てに目を通して「これは通すことになる」と思いました。心血管疾患になるリスクを低減することを証明すると確かに言えるデータが揃っていて、正直、こんなに高いレベルの研究が世界的に行われていたのかと驚きました。だから許可件数が増えていくかどうかは、DHA・EPA並みのエビデンスで疾病リスク低減効果を証明できる既存の食品成分をどれだけ探し出せるかに懸かっていると思います。例えばですが、LDLコレステロールを下げる効能が明らかであるというだけでは疾病リスク低減にならない。それを下げることで疾病リスクが実際に減るという証拠が必要です。安全性も含めて、ですね。そうしたハードルを越えることができるのであれば、疾病リスク低減表示の許可につながっていく可能性があります。

──ありがとうございました。

【聞き手・文:石川太郎(2023年12月7日オンライン取材)】

(冒頭の写真:本人提供)

プロフィール
今村知明(いまむら ともあき):1988年関西医科大学卒業。93年東京大学大学院医学系研究科第一基礎医学専攻修了後、厚生省入省。文部省、佐世保市、厚生労働省などで保健行政を担当。東京大学医学部附属病院企画経営部長を経て2007年より現職。食品安全委員会専門委員等を歴任。地域医療構想アドバイザーも務める。主著に『食品防御の考え方とその進め方 よくわかるフードディフェンス』など。

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