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偽装表示を元食品表示Gメンが解説
熊本県産アサリの偽装疑惑 複雑な表示ルールが背景に

元食品表示Gメン 中村 啓一 氏

全国で販売されている熊本県産のアサリの97%が外国産だったという衝撃的な調査結果が2月1日、農林水産省から報告された。これを受けて熊本県の蒲島郁夫知事が「非常事態」を宣言、熊本県産アサリの全面的な出荷停止に踏み切ることに。農林水産省の現役時代に10年にわたり食品表示の監視業務に従事、さまざまな食品偽装を摘発。2008年の事故米不正流通ではチーム長として事故米の流通ルートの解明を担当した元食品Gメンの中村啓一氏にアサリ偽装疑惑を解説していただいた。

水産物は捕獲海域や水揚げ地が産地に

 熊本県産アサリの産地偽装が問題となっている。
 出荷調整や砂抜きなどのため、中国や韓国から輸入して一時的に県内の浜に畜養したアサリを熊本県産として出荷していたものだが、手法としては古典的であり、2005年にも有明海を舞台とした偽装が摘発されている。
 このような手口が通用するのは、生鮮食品の複雑な産地表示ルールがある。野菜や果物は、生育地は移動しないので、種子や苗木の産地にかかわりなく生育地を産地とし、水産物は捕獲された海域や水揚げ地が産地として表示される。

長年にわたる大がかりな偽装に疑問

 一方、畜産や養殖水産物は事情が異なる。食用として出荷されるまでに飼養や養殖地が移動することもあることから、飼養・養殖期間が一番長い場所が産地とされる。しかし、養殖水産物については、最終の養殖により重量の増加など品質に大きくかかわる場合は養殖期間が短くても最終養殖地を産地とすることができるとされている。
 アサリの産地偽装はこのルールが悪用されたものだが、ここまで大がかりな偽装が長年行われていたことには疑問を持たざるを得ない。

過去に同様の手口で偽装ウナギも

 食品表示の監視は、都道府県域内の事業者は所管する都道府県、それ以外は農林水産省が行うことになっている。過去にも生鮮食品の産地偽装は地元の業者が行う事例が多く、今回のアサリも、食品表示の科捜研といわれる農林水産消費安全技術センターのDNA分析で広範囲の偽装が明らかにされたが、不正を防ぐためには自治体と国の連携が不可欠である。

 過去には同様の偽装がウナギでも行われていた。国内でシラスからクロコといわれる幼魚まで育てたものを台湾に輸出し、同地で生育したものを国内に逆輸入して成鰻まで養殖、国内で行った幼魚までと、再輸入した後の養殖を合わせた期間が一番長いことから、里帰りウナギとして国産の表示をすることが慣習化していた。しかし、中抜きしたウナギを国産とする不明朗な仕組みは消費者の信頼を得られるはずもなく、2008年に養鰻業界自らが里帰りウナギを国産とする表示の撲滅に取り組んでいる。

 今回のアサリ産地偽装も、熊本県知事が地元漁業組合と連携して撲滅を宣言して取り組むことになり、その成果を期待したい。

<筆者プロフィール>
1968年農林水産省入省。その後、近畿農政局 企画調整部 消費生活課長、消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長、総合食料局 食糧部 消費流通課長などを経て2011年に退官。著書:『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著(ぎょうせい)2008年、『食品偽装との闘い』(文芸社)2012年など。

関連記事:熊本県あさりで大規模偽装か?

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