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健康食品法(仮称)の制定も視野に 【機能性表示食品特集】私はこう評価する

東京大学名誉教授 食の信頼向上をめざす会 代表 唐木 英明 氏

消費者ニーズに合った制度

 機能性表示食品の評価されるべき点は、消費者ニーズに合った制度だという点。制度施行8年目で多くの製品が上市され、売上も伸びているということは消費者が受け入れているということ。そうでなければ、売り出してもあっという間に市場から消えてしまう。そういう意味では、まさに消費者ニーズにピタリと合っているのだろうと思う。

 また、明治時代から連綿と続いている食薬区分というとても難しい問題に対して、特定保健用食品(トクホ)が空けた小さな穴を少し広げたという点において、私は機能性表示食品制度を評価している。つまり、国が審査するトクホに対して、機能性表示食品では企業の責任で届出ることで一定の機能性が表示できるという点。また、トクホで認められなかった踏み込んだ表現が少しずつ増えているという点で、食薬区分の穴が少し大きくなっていると感じている。
 実際に、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に収載されている「桑葉モラノリン(1-デオキシノジリマイシン)」や「γーオリザノール」などが食品の機能性関与成分として登場している。トクホ制度でもあり得なかったことだ。

不適切な論文が横行

 ただし、評価できない点もある。届出資料の中には、科学論文として不十分な論文までが使われている。これは企業の問題というより、むしろ科学の世界の問題である。ハゲタカジャーナルという言葉があるが、どうしようもない論文を掲載し掲載料を取って、収益のために雑誌を出している出版社がある。機能性表示食品制度では査読付きの論文が1本あれば届け出ることができるから、ハゲタカジャーナルはそれをうまく利用して、ろくに査読もしないで金を取ってジャーナルに掲載する。企業はジャーナルに載った査読付きの論文ということで届け出る。レベルの低いウィンウィンがこうして成立してしまっている。このような科学の問題とビジネスの問題とが両方あって、根が深い問題となっている。そういう意味で、届出資料の不備は直していかないと、消費者の信頼が得られなくなるだろう。

 次に、この制度は届出だけだというが、それだけでは不十分。企業が自己点検し、自己評価をして、常に内容を見直して消費者の信頼を裏切らないという努力を行うことが必要なはずだが、実践している企業は少ない。ASCON科学者委員会が、外部評価から企業の自己評価に移行したところ、協力企業が減ってしまった。そういう努力をしようという企業が少ないことは残念なことだ。

消費者は本当は何を求めているか

 先ほど消費者のニーズに合っているという評価をしたが、実はニーズに合っていないところも少なくない。機能性表示食品に対して消費者が期待する機能には「高血圧」、「肥満」、「認知症」、「がん」、それから「免疫」などの深刻な分野が求められている。ところが、そういう製品はほとんどない。なぜかというと、有効成分が限られており、新しい成分の開発がほとんど進んでいないからだ。開発に力を入れて、消費者のニーズに応えるようにしなければいずれ頭打ちになってしまうだろう。

 そして最後に、医薬品との棲み分けの問題がある。食薬区分が厳しすぎるから新成分の開発ができないとか、新たな効果を謳えないとかいうが、何とかする努力が必ずしも十分ではないのが現状だ。
 健康食品は、食品の機能の部分だけを取り出したもの。しかしそれは、医薬品医療機器等法(薬機法)とまともにぶつかる部分がある。両者の重なった部分を食品からも薬からも切り離して取り扱う健康食品法(仮称)を私は作るべきだと思っている。その際、健康食品は健康と予防、症状の緩和、すなわち癒しに特化することで、医薬品と棲み分けることは可能だと思う。健康食品の範囲が明確になれば、それを目標に新成分の開発もできるし、宣伝広報もできるし、今と比べてずいぶん自由度が大きくなるだろう。

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。2012~22年3月(公財)食の安全・安心財団理事長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

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