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世界最先端の制度を実現(後)
次の免疫表示に期待

大阪大学大学院 教授 森下竜一氏

サイエンスのレベルとして食品科学が向上

――機能性表示食品制度に関する自己評価はいかがでしょうか?
森下 80点ぐらいといったところでしょうか。第3の食品制度でこれまでなかったものができたということで業界全体が活性化された、事業者が人でエビデンスをとっても表示ができないため、どちらかというと広告に重きを置いて、エビデンスを取るということに消極的でしたが、制度ができたことで、臨床試験を実施しサイエンスのレベルとしての食品科学もかなり向上したと思います。

 最初はプラセボとの二重盲検試験は不可能、食品にはそぐわないとされていましたが、今では普通に行われています。また、生薬・エキスのようなさまざまな成分が含まれたものは、これまでは○○由来ということでどのような成分が含まれているのか検討もされないままでしたが、現在では、そういったものでも関与成分を調べることで、これまでブラックボックスだった部分が科学的に明らかになってきている。こういう点がこの制度のポジティブな部分だと思います。

 一方で、健康の維持増進に限られているというところがマイナス点です。疾病の予防、リスクの低減の方が消費者には分かりやすいわけですが、そこは認められていない。本来であれば、シームレスに食品からOTC医薬品、医療用医薬品という流れで行くべきところが、間に大きな壁が依然としてある。法律全体の体系が、後から食品が入ってきたということもあり、十分にそのギャップを埋めるに至っていないというのが現状です。

――残りの20点は埋まりますか?
森下 ある程度は詰めていくでしょうが、完全には難しいと思います。特に軽症域、いわゆる薬を飲むまでではないが病気の範囲に含まれる層などが出てきますので、ここをどうするか、消費者が食品を信じすぎて治療機会が遅れても困りますので、1つ1つ丁寧に議論を重ねる必要があります。制度上、食品は医薬品医療機器等法(薬機法)で定められる医薬品を除くとなっており、医薬品と食品が混合しているという前提はありません。しかし、実際には、青魚からとれるEPAやDHAのように、医薬品からOTC、健康食品として使われている成分がいくつかあります。こうしたシームレスな食品が実際にあるにもかかわらず、制度上は別のものでなければならない。薬機法は、グレーゾーンが全くない規定となっています。医薬品と医薬品以外の食品とされていますので、そこにどうしても矛盾が生じてしまうわけです。

――曖昧にすることで、そこを逆手にとった悪徳事業者も出てくるのではないですか?
森下 そうです。事実、コロナやガン治療対策を標ぼうした事業者が、毎月のように摘発されています。特に今、ネットを中心に悪質なものが出回っています。ここに関しては、今後も取り締まりを強化せざるを得ないと思います。どうしてもそのギャップは残ってしまいます。

 一方で、いま、機能性表示食品に真剣に取り組む事業者と、そうではなくネット上で自由に広告を打つ事業者との2つに分かれてきました。規制改革推進会議になってからの議論の中で、後者の方が消費者を誤認させやすく、かえって売上を伸ばすというのは本末転倒ですし、消費者にとってもマイナスであるという観点から、機能性表示食品の広告規制をある程度緩め、機能性表示食品以外の広告に取り締まりの主眼を置くという方向性になりました。機能性表示食品に関しては、テレビ広告を含め、表示の範囲内であればかなり自由に表現できるようになりました。今後はさらに、公正競争規約を作るという議論が業界で進んでおりますので、産業界自身が自らを律することになり、制度が円滑に運営され、消費者がより守られることになるのではないかと思います。
 
 消費者庁としても、トクホや機能性表示食品以外の食品で消費者を誤認させようとする事業者を取り締まることに集中し、そこにマンパワーを割くことができますので、より取り締まりの実効性も高まるのではないかと期待しています。

――機能性表示食品が1つのフィルターになるということでしょうか。
森下 そうです。含有量やその分析方法など全ての情報がネットで公開されていますので、誰でも検証することができます。これが事業者にとって詐欺的行為の抑制につながっていると思います。

 トクホの時は公開性という部分で十分ではありませんでした。実際、消費者庁の買い取り調査で、成分が入っていなかったという事件がありましたが、こういった事案は機能性表示食品では発生しておりません。消費者目線で言えば、含有量が入っていない、分析方法が違うといった自由度はあってはならないことです。

 しかし、広告・宣伝に関しては、その表示の範囲内で企業間で自由度があってしかるべきです。どこまでがセーフでどこからがアウトか、その線引きは明確にし、グレーゾーンをできるだけ減らしておく必要があります。そのことで、事業者が自らの発想で消費者に訴えかるような広告を作る、戦略を取ることが望ましい姿だと思います。その上で、行政の仕事としてはできるだけグレーゾーンを減らし、事業者が自由に経済活動を行える環境を作ることがポイントだと思います。

2017年に機能性表示をめぐり「ネガティブリスト」と称するものが出回った。

――免疫機能もリストアップされていました。
森下 正確に言うと、免疫はそもそもネガティブリストではありません。NK細胞をもって免疫とは言えないと言っているだけで、ネガティブリストに免疫が入っているというのは誤解です。

 本当の意味でネガティブなのは、薬機法に触れるものであり、薬機法で規定されている文言は使えません。法律上、食品は医薬品を除くということになっていますので、医薬品と同様の表示を行うことはできないということです。今後の可能性として、排尿や更年期障害、運動器などが考えられますが、あくまでも薬機法で使われている文言は使えませんので、別の言葉に置き換えなければなりません。

 もう1点は、病気の範囲が決まっていないということ。どこからが軽症者なのか、これに関して規制改革推進会議の議論の中で、消費者庁にいくつか決めてもらい、アレルギー、尿酸、認知機能に関しては、軽症者あるいは解析の手法が調査事業者の中で明らかになるということになりました。それ以外に関しては、消費者庁がお金をかけて行うということができませんので、今後は、業界団体で議論をし、学会・アカデミアなどで議論を進めてもらい、まずどのようなデータが使えるか、その上でデータを出してもらい、個々の事例ごとにどう運用できるのか、そういった議論を進めていくべきですし、現在、そういう動きになっていると聞いています。

 新しい表示の実現に関して、業界側の要望は、先に表示ありきです。例えば排尿や更年期障害など、「こういう言葉は認めてほしい」という要望が出ますが、これは私は基本的に正しくないと思います。なぜならば、表示はエビデンスに基づいたものでなければなりません。エビデンスがない部分でこの言葉が良い悪いは言うべきではありませんし、消費者庁も判断できません。エビデンスの中身を見て初めて、薬機法との兼ね合いがどうなのか、健康の増進になっているのかどうかを判断するわけですから、表現だけで一律に可否を判断することはできません。この制度は、あくまでもヒトによるエビデンスがあって成り立つ制度ですから、この点は産業界もきちんと認識しなければなりません。ただ、その時に対象者がどういう人なのか、境界域の人を使った場合に健康の維持増進の範囲内で認められるのか、それとも疾病予防に該当するのか、そこを明確にしてほしいというのは当然の要望で、その部分は消費者庁も対応しなければなりません。

 今回の免疫表示で言えば、対象が風邪やインフルエンザの発症を見るということになればこれは疾病予防で食品の範囲を超えてしまいますが、一方で風邪に伴うような喉や鼻の不快感などの風邪様症状ということになれば健康食品の範囲になります。どういうデータを実際に臨床試験の対象にしていけば、機能性表示食品として消費者庁が認めるか、これは明確な科学の話ですので事業者と消費者庁で先に決めるべきです。

 例えば、排尿障害というのは、どのレベルの人が医薬品を使うべきなのか、使わなければならないのか、こういったことを議論していく必要があります。私たち医師・学会側から言えば、もともとこうしたことは決めていません。私たちは薬を使うのはどこかということしか議論しておりませんので、境界域でどこまで食品に機能があるのか、食品でケアができるのかということは、ほとんどの領域で議論しておりません。そういう意味でグレーゾーンが非常に多く残っており、その部分を明確にしていくことを産業界サイドには求められていると思います。

――9月に「機能性表示食品『免疫機能』に関する考え方」を公表されました。
森下 免疫にはさまざまなパラメータがありますが、どういうパラメータが必要なのかというのは、事業者では判断が付かないと思いますし、それは消費者庁としても同様です。そこで、私が副理事長を務める抗加齢協会の方で、アカデミアとしての考え方、免疫機能のどういう表示内容を盛り込めばよいか、その指針を出させていただきました。

 免疫というのは自然免疫と獲得免疫というのがあって、それぞれ違った要素があります。最初に公表されたプラズマ乳酸菌に関しては、pDC、樹状細胞を刺激するということで、自然免疫にも獲得免疫にも作用し、免疫の司令塔を動かしている製品です。そうしますと、「獲得免疫も動かなければ免疫機能と言えないのか」、「自然免疫は必要ないのか」といったさまざまな議論が出てきます。これを、消費者庁と事業者だけで、個別に届出の中で話を進めれば業界全体で知り得ることになりませんし、後々、消費者、学会サイドから批判される可能性もあり、これは望ましくないと当協会のほうで考え、事前にその考え方を共有すべきではないかとなりました。

 具体的には、免疫指標の代表的なものをいくつか挙げさせてもらいました。ただし、免疫商材はたくさんありますし、これからもたくさん出てくる可能性があります。あくまでもこれは一例として挙げさせていただきました。その中でIgAに関しては少し憂慮が必要ですので、慎重に取り扱ってほしいとしております。

 今後、免疫に関して乳酸菌やビフィズス菌など、いろいろなものが認められてくれば、もう少し緩和される可能性はあるかと思います。しかし、現状、コロナ禍ということもあり、消費者の免疫に対する注目が集まっていますので、消費者が理解できない、消費者に誤認を与えるような商品が世に出ないほうが望ましいということで、当協会として、消費者庁にもオブザーバーとして入っていただき、消費者庁の考え方が妥当だとして、免疫機能の考え方を公表しました。事業者が免疫を訴求したいということであれば、その見解の内容に沿って事業者の意見を書いていただき、十分整理されているかどうかを見てほしいと思います。当協会は、アカデミアの団体ですので、第三者的な視点もありますが、自社に都合の良い視点ではなく、消費者が批判的な目で見た時でも納得できるかどうか、そういう視点で考えていただきたいと思います。

 コロナ禍で、しっかりとしたエビデンスがない商品、消費者のメリットが想定できない届出は公表されないでしょう。消費者庁としても、現在のプラズマ乳酸菌だけで良いという考えではありません。今後、さまざまな素材が出てくると思います。

――最後に、機能性表示食品制度の課題は何でしょうか?
森下 事業者と消費者庁、業界団体それぞれが考えるエビデンスのレベルが若干違うと思います。これに関しては、エビデンス評価委員会が第三者の目線で、揉めた場合に評価しています。その中で、ある程度事業者の納得感も出てきたのではないでしょうか。特に景品表示法に関しては、制度上の欠陥だと思っておりますが、これまで、捕まえる側の消費者庁が裁判所のようになっていました。自分たちで捕まえ、自分たちでそのエビデンスが正しいかどうかを判定していました。これでは、事業者としては勝ち目がない。非常に変な制度です。そういう意味で、エビデンス評価委員会が、第三者的に見て判断を下すことで良くなってきたと思います。それから、広告に関しても同様の問題がありましたが、こちらも良くなっていくと思います。

 事業者の皆様には、各業界団体が発信する情報をしっかり収集していただき、正しく制度を活用していただきたいと思います。また、機能性表示食品制度が、消費者にとっても事業者にとってもメリットのある制度としてさらに発展し、健全な市場拡大につながってほしいと思います。

――ありがとうございました。

【聞き手・文 藤田 勇一】

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