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世界最先端の制度を実現(前)
次の免疫表示に期待

大阪大学大学院 教授 森下竜一氏

 機能性表示食品制度が施行されてから6年半が経過した。届出件数は4,700件を超え、市場は拡大している。また昨年7月、免疫を訴求した機能性表示食品の届出が公表されたことで、市場は活性化した。免疫機能の考え方や、今後の新たな免疫訴求商品の誕生の可能性について、機能性表示食品制度の創設に尽力した大阪大学の森下竜一教授に話を聞いた。

安倍政権下、規制改革会議のメンバーとして、
制度設計に尽力

――機能性表示食品制度が誕生した背景について教えてください。
森下 2012年、民主党政権から自民党の安倍政権に代わった時、第一次安倍政権でできなかったような大胆な規制改革を推進しようということになりました。その中で、特に消費者目線、一般の人が規制改革の恩恵を得られるように、またその果実を体験できるような改革をしようということになりました。総理の諮問会議という位置づけで、特に健康医療に関して積極的に切り込んでいこうということになりました。当時、OTC医薬品をネットで販売できるかどうか、あるいは、今もコロナ禍で話題になっていますが、オンライン診療や混合診療など、解決できていなかった大きな課題がテーマとなりました。

 その中で、医療費・介護費の増加、財政状態の悪化を受け、セルフケア・セルフメディケーションの実現に向けた方向性が出てきました。そのために、消費者が自分で勉強できるような機会を作らなければなりませんでしたが、当時の食品制度は、特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品を除くと、企業がさまざまな研究を行ってもその成果を記載できない、ヘルスクレームを表示として記載することができないという状況でした。そのトクホにしても、通常数億円の資金と4年程度の期間がかかるということで、大企業は使えても中小・零細企業は使いにくい制度でした。米国や欧州の制度と比較しても異なっているという状況でした。

――まず何から始まったのですか?
森下 消費者にとっても産業界にとってもメリットのある制度はできないかということで、当時、世界最先端の制度を調べるということからスタートしました。そうした中で、規制改革会議として議論を主導し、世界の現状を調べたところ、日本だけが立ち遅れている、しかし、一方で一番進んでいて表示に関して自由度が高い米国の制度が、事後の届出であるということもあり、訴訟も多く、消費者の健康被害に対しても必ずしも十分にカバーし切れていないという課題も明らかになりました。

 世界最先端の制度を目指すということで、米国のヘルスクレームをベースに、基本的には米国同様に事業者の届出で行う。なおかつ、消費者によりメリットがあるように、例えば人によるエビデンスがあるかどうか、製造などがしっかりできているか、事後の健康被害情報がしっかり収集できるかどうか、こういった点を消費者庁が書類審査ではなく、書類を受理するなかで不備がないかどうかを見るということに方向性が決まりました。

 同時に、健康医療戦略本部が誕生し、私はこちらの戦略参与も兼ねましたが、こちらでは、健康医療戦略が定められました。この大きな目標は、健康寿命を延伸するということでした。当時、健康寿命と平均寿命の差が男女とも10歳以上離れておりました。そこで、「健康寿命の延伸」ということも大きなテーマとして掲げられました。そういう意味では、「健康医療戦略」と「規制改革会議」の2つが基本となって、今の機能性表示食品制度が誕生したと言っていいと思います。

2015年、健康医療戦略がスタート
規制改革との両軸に

――健康医療推進法の下、2つポイントがあったようですが。
森下 1つが「世界最高水準の医療を国民に提供する」ということ、もう1つが、「日本の健康医療戦略は我が国の経済成長に資するもの」、つまり、日本経済を伸ばすためにも健康医療法を使うということが、これまでとは違う発想の転換でした。当時、20年までに健康寿命を2歳伸ばすという目標を掲げましたが、これは17年に達成し、さらに、健康寿命を延伸しようということで、20年から「第二期健康医療戦略」が策定されて進んでいます。

 その中で、免疫機能に関しても認めていこうということも盛り込まれ、免疫機能を訴求した機能性表示食品誕生につながりました。規制改革と健康医療戦略はかなり密接に、いわば縦糸との横糸のように絡んでいると考えていただいてよいと思います。

――第1クール・第2クールと活発な議論が交わされたようですね。
森下 最初の議論では、米国において、消費者のデメリットにつながる事案があるということが、消費者団体や関係各所からの意見で明らかになりました。そのデメリットを減らすことを目的に、機能性表示食品の1つのポイントでもある、ネット上ですべての情報を公開することになったわけです。当時事業者側からは、企業秘密が漏れること、研究レビューを使うということで、他社も同様の機能性表示食品を出せるようになることを懸念する声もありました。

 一方で消費者側からは、「企業が正しい情報を出さないのではないか」、「機能性が表示されることで消費者が過剰に期待し、間違って購入してしまうのではないか」という声もありました。さらに、企業側からは、「機能性が表示されることで、その機能性に絞った消費しかなくなる」、「その機能を求める人しか購入しなくなるため、かえってマーケットが小さくなってしまう」という声もありました。

 当初は、こうしたさまざまな意見の中で制度がスタートしました。トクホや栄養機能食品を含め、これまでの日本の制度は、事前に審査があるため役所の関与が非常に大きく自由度がない、また、制度が一度出来上がると、改正するのが非常に難しいということで、一度作ったものをより良い方向に変化させるということが非常に困難でした。そうしたことがないように、規制改革会議としては、事業者・消費者のそれぞれの意見を組み入れて、ある程度自由に制度が今後発展していけるように、新しく画期的な事前の届出制度を運用するということになりました。

 当初は、消費者サイドから懸念する声が多数ありましたが、現在は、消費者団体からも非常に評価する声も多く、特にネット上で全てが分かるという透明性に関しては高く評価されています。むしろトクホやほかの制度に関しても透明性を高めるべきという声が出ているほどですので、そういう意味では、規制改革会議はこの制度に関して、うまく制度設計ができたのではないかと思います。

――事前に届け出る制度にしたのは、安全性を重視したのでしょうか?
森下 米国は訴訟で解決するという文化がありますが、日本は訴訟に至ることは非常に少なく、ある程度の歯止めが必要なのではないかということです。一方、欧州の場合、EFSAがありますが、これは科学者が集まった独立したパネルで、そのパネルでエビデンスを評価しヘルスクレームを決めるということで、日本にはない、ビタミンDの免疫機能表示があるなど、メリットがある一方で、企業の独自性が生きてこない、米国と比較してヘルスクレームの範囲が狭いという点から、世界最先端の制度にするためには米国の制度をベースに進めようということになりました。

――生鮮食品が認められた背景はいかがでしょうか?
森下 これは日本が初めてで世界でも例がありません。この背景として、当時、日本の農作物は味や安全性の面で評判が良いにもかかわらず、値段の高さがネックで輸出が伸び悩んでおりました。そこで、機能性を付加することで、海外にこの制度をハーモナイゼーションし農業輸出を増やせるのではないかという試みとして、生鮮食品も認めるということになりました。実際に、国際的なハーモナイゼーションを行うということに関しては、外務省・農水省・経産省などの頑張りもあり、韓国・中国・台湾などでも類似の制度が導入されようとしておりますし、ASEAN各国の中でも日本の制度を参考にして既存の制度を変えようという動きがあります。今後ますます、日本からの健康・ヘルスケア産業の輸出、生鮮食品の輸出という面でも、機能性表示食品制度が手助けになるのではないかと思います。

 当初は、農協や零細企業が多く、なかなか届出に至るケースが少ない状況でしたが、農研機構や農水省の努力で、手本となるようなひな形のレビューが作られたこともあり、現在では届出件数が伸びてきています。実際、お中元・お歳暮市場の中では、かなり存在感が増してきており、農協の売上が伸びていると聞いています。機能性表示食品制度自体は今年3,000億円を超える市場規模になっていますし、この後、免疫の機能性表示食品が多く出てくれば、4,000円億、5,000億円と拡大するでしょうから、制度開始から7年目の成果としては非常に大きなものがあるのではないかと思います。

――農水産物に関しては、各自治体の力も大きいのではないですか?
森下 大きいと思います。差別化ができるということもありますし、もともと食育に生かしてもらいたいという狙いもありました。食事をする中で、野菜にどのような成分が含まれているのか、これが表示できなければ消費者が自分で普段の食事に取り入れることはできませんので、農林水産物が話題になることで、消費者教育にもつながるのではないかと考えています。この点はまだ商品が少ないということもあって道半ばですが、今後広がりを見せるのではないかと期待しています。

(つづく)

【聞き手・文 藤田 勇一】

(後)

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