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スポーツ栄養めぐる日米対談(後) 米国市場の今を知り、日本市場の未来を探る

(一社)国際スポーツ栄養学会代表理事 青柳清治×米Increnovo代表 ラルフ・イエーガー

 プロテインやアミノ酸などのスポーツニュートリションはアスリートのためだけのものではなくなった。健康意識の高まり、生活スタイルの変化などを受けて、一般の若年層から中高年層まで取り込むサプリメントの一大領域になっている。その先進国、米国を拠点に、素材の研究開発や市場コンサルティングなどを手がけるラルフ・イエーガー氏と、国内外の大手企業でスポーツ栄養や高栄養食品の研究開発に携わってきた青柳清治氏が、日米スポーツニュートリション市場の今を語り合う。前後編のうち後編。

プロテイン市場、日米の違いとは

青柳 日本はプロテインの消費量が増えています。もともと健康のためだったり、体重減少だったりを目的にプロテインを利用するという人々が増えていた中で、コロナ下での市場成長率は20%に達しました。プロテインを配合し、たんぱく質強化を訴求する食品の種類や数も増えています。米国はどうですか?

イエーガー 同じです。プロテインは健康に良いものであると消費者に認識されていますから、例えば日本でも販売されている「スニッカーズ」のようなキャンディーバーでもプロテイン強化がうたわれるようになっています。プロテインの売り上げはパンデミック下で2ケタ成長を見せました。

青柳 日米ともに成長していると。ただ、プロテインに対するマインドセットやリテラシーには両国で違いがあると思います。例えば、日本でもプロテインミルクなどのドリンク類が販売されるようになっていますが、20グラムとか30グラムとかの高配合製品はまだまだ少なく10グラム台が多いと思います。それに、そのようなハイ・プロテイン(プロテイン高配合)製品は高価なものだと考えられていて、購入する人はまだまだ少ないです。

イエーガー 米国では20グラム配合の製品で3ドルくらい。20グラム摂取すれば効果がありますから、値段が高いと感じる人はほとんどいないと思います。スターバックスでコーヒーを買っても4ドルはしますから。

青柳 そこです。日本でスターバックスのコーヒーを買うと300~400円くらい。それと同じ値段をプロテインに支払っても構わないと考える人がどれだけ存在するか。多くはないはずですよ。スターバックスのコーヒーにはプレミアムを支払う一方で、健康を維持するために必要なたんぱく質を効率的に補給できるプロテインのプレミアムにお金を支払おうと考える人はまだまだ少ないです。そのようなマインドセットやリテラシーの違いがあるから、日米のプロテイン市場規模には10倍近い開きが生じているのだと思います。

イエーガー 米国ではプラントベース(植物由来)のプロテインも伸びています。もちろん市場シェアはホエイが最も大きいのですが、ここ数年、ホエイの価格や供給が不安定だったことが影響しています。ただ、むしろ影響として大きいのは、環境や動物に対する配慮です。それに対する若い人たちの関心が非常に高いこともあって、プラントベースプロテインの需要が伸びています。

青柳 日本でもプラントプロテインを利用するアスリートが現れていますが、まだまだ少数派。日本でプラントプロテインは今のところ、健康意識が高かったり、ボディメイク目的の女性のためのもの、といった位置付けですね。ところで、若い人たちの環境保護などに対する意識の高さがスポーツニュートリションの製品開発に影響を及ぼしているようなことはあるのですか?

イエーガー 米国では今、ミレニアル世代(1980年代~1990年代中頃に生まれ)や「iジェネレーション」と呼ばれる10~20代の若い世代で、環境保護、動物愛護、SDGsなどサステナビリティに対する意識がものすごく高まっていて、それらに配慮された製品やサービスに価値を認める人が増えています。両世代はスポーツニュートリションのターゲットとも重なりますから、そうした若い世代に働きかける製品作りが求められています。

青柳 なるほど。じゃあ、クリケット(コオロギ)プロテインが売れていたりするのですか?

イエーガー ノー(笑)。確かに、注目はされました。しかしそれは一時的なもので、注目されたのは話題性があったからです。インセクト(昆虫)プロテインは今のところ、消費者に受け入れられたと言える状況ではありません。

eスポーツとサプリの関係、エビデンスどうする

青柳 若い人にはeスポーツのファンも多いですよね。eスポーツ向けのニュートリションの動きはどうなっていますか。

イエーガー eスポーツのマーケットは巨大です。プレーヤーの数は世界で15億人といわれ、トッププレーヤーは約700万ドルの収入を得ているとされます。ゲームの視聴者数も多く、世界選手権の決勝戦になると、スーパーボウル(米プロフットボールリーグの決勝戦)を超える1億人に上ると言われます。その中で、スポーツニュートリションを手がける企業もeスポーツ向け製品を発売しています。どのような製品かというと、例えば注意力や集中力などメンタルに対する機能を訴求するものだったり、目の働きを高めたり、保護したりするようなものも。ほかに、ジョイントヘルスもあって、これは指や手首の関節に対する機能を訴求するものです。

 しかし、撤退する企業やブランドも多いのが実情です。成功していると言えるブランドは今のところ一握り。アスリートや日常的に運動するなどのアクティブ層に向けたマーケティングをそのまま当てはめるのでは上手くいかない、ということだと思います。スポーツニュートリション以外のサプリメントメーカーもeスポーツ市場のポテンシャルを感じ取っていますが、主要ターゲットとなる10~20代にどうアプローチしていけばいいのか悩んでいます。今のところ最適解を見いだすことができていません。

青柳 試行錯誤中だと。私は、eスポーツがスポーツだとは思えないのです。スポーツニュートリションのメーカーも実はそう思っているのではないでしょうか。だからアプローチの仕方が分からない。それに、eスポーツのパフォーマンスに直結する、つまりゲームのスコアを実際に高められるようなニュートリションが実際に存在するのか疑問です。

イエーガー 今のところ、これを摂取したら相手よりもスコアが高まりました、という研究結果に接したことがありません。というのも、そういう研究を行うこと自体が難しいのです。eスポーツの人気ゲームは対戦型がほとんどで、対戦相手次第で結果が変わってきますから、効果の検証が難しい。とはいえ今、いくつかの研究が進行中です。プレーヤーの立場に立てば、スコアが上がらないのであれば、ニュートリションにせよ、サプリメントにせよ、利用するモチベーションが高まりません。eスポーツ市場で成功するには、スコアを高めるという研究データが絶対に必要だと思います。

日本のスポーツニュートリション発展のために

イエーガー 青柳さんに直接お会いするのは久しぶりです。近況は?

青柳 今年2月に国際スポーツ栄養学会という一般社団法人を立ち上げ、ISSN(国際スポーツ栄養学会)公認のスポーツ栄養教育プログラムの提供を始めました。日本はスポーツ栄養の発展が米国に比べて遅れています。その理由の1つは言語だと思うのです。スポーツ栄養に関する正しい情報だったり、最新情報を仕入れようとすると、情報源のほとんどが英語で書かれています。だからISSNという国際的なスポーツ栄養教育プログラムを日本語で受けられるようにしました。このプログラムを受けることで、ISSNが認定するスポーツ栄養スペシャリスト(ISSN-SNS)の国際資格を日本語で取得することが出来ます。

イエーガー それは良いことです。受講はオンラインで?

青柳 そうです。17時間分の講義ビデオをオンデマンドで提供します。日本語のテロップ付きで、約700枚のスライドも全て和訳しました。大変でしたよ(笑)。日本には公認スポーツ栄養士という資格制度がありますが、国家資格の管理栄養士であることなどが条件にされていて、非常にハードルが高い。それ以外の資格制度もありますが、学べるのは栄養学というよりも食事学。その意味で、これまで日本には、スポーツニュートリションを適切に利用することを前提にしたスポーツ栄養を本格的に学べる場がありませんでした。それを初めて作りました。

イエーガー 私もISSNに関わっています。日本のスポーツニュートリションの発展につながると良いですね。幸運を祈ります。

青柳 どうもありがとう。頑張ります。

(了。前編はこちら。対談日=2023年9月4日都内で)

【構成:石川太郎】

【プロフィール】

青柳 清治(あおやぎ せいじ):栄養学博士(米イリノイ大学)。米アボット・ラボラトリーズで経腸栄養剤などの研究開発やマーケティングに従事した後、英グラクソ・スミスクライン コンシューマーへルス薬事・品管・開発統括部長、ダノンジャパン研究開発部長、ドーム執行役員などを歴任。ドーム在籍時、スポーツサプリメントブランド『DNS』の開発責任者を務めるとともに、サプリメントのアンチ・ドーピング認証プログラム「インフォームドチョイス」の国内導入に尽力した。23年から現職。

ラルフ・イエーガー:有機化学博士(独ボン大学)。米カリフォルニア工科大学で研究院を務めた後、独デグサ社でホスファチジルセリン、クレアチンなどのスポーツニュートリション素材の研究開発に従事。07年に独立し、スポーツニュートリションなどサプリメントに関する研究開発コンサルティングなどを手がけるIncrenovo社を米国で設立。国際スポーツ栄養学会(ISSN)のフェローであり、ISSNが発行する学術誌の編集委員も務める。ISSN公認のスポーツ栄養士資格も保有。

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