クリルオイル市場、日本に生まれるか 韓国、3億ドル市場に 原料大手が需要創出に本腰
韓国の健康食品(健康機能食品)市場。比較的最近、市場規模ほぼゼロから2年足らずで3億ドル(約330億円)規模にまで急成長した機能性食品素材がある。オメガ3脂肪酸を含むクリルオイルだ。韓国での急激な人気の高まりに刺激を受けたか、クリルオイルの製造販売で世界最大手のアーケル・バイオマリン(本社:ノルウェー。以下、アーケル)は今年1月、日本法人を創立。リン脂質が結合されたDHAおよびEPAを含有することを最大の特長とするクリルオイルを日本市場にも大きく広げていこうと本腰を入れている。
「リン脂質」結合型DHA・EPA含む特長
クリルオイルとは、日本では「オキアミ」と呼ばれる動物性プランクトンから抽出したオイル。オキアミの中でも南極海に生息するナンキョクオキアミ(学名:Euphausia superba)から抽出したオイルがサプリメントの原材料として世界的に利用されている。
サプリメント市場においてクリルオイルは一般的に「オメガ3」のカテゴリに分類される。オメガ3脂肪酸の代表成分、DHAとEPAが含まれるためだ。ただし、大きな違いもある。魚から抽出したオイル(魚油)に含まれるそれらと異なり、クリルオイルにはリン脂質(特にコリン)が結合されたDHAとEPAが含まれる。
クリルオイルは魚油に比べてDHA・EPAの含有濃度が低い。だが、リン脂質は体内の細胞膜を構成する主要成分。また、リン脂質が含まれている影響で、水と油の両方になじむ性質(エマルション)が付加されることになる。このため、クリルオイルはDHA・EPAの体内組織への移行効率が魚油に比べて優れるとされる。
米国、差別化に成功 進化型オメガ3を訴求
そうした特長を強調することで、魚油と明確に差別化するマーケティングに成功、オメガ3の新市場としてクリルオイル市場が創出された国がある。470億ドル(約6兆円)規模とみられる世界のオメガ3市場で約3割弱のシェアを持つとされるサプリメント大国の米国だ。
米国は現在、世界のクリルオイル市場で約半数のシェアを占有しているといわれる。その中でも有力ブランドの1つ、『MegaRed』を展開するSchiff社では、主に心臓の健康を訴求。魚油に比べて小さなカプセルでDHA・EPAを効率的に体内に摂り入れられることをアピールし、同国のオメガ3市場で存在感を大きく高めていった。
一方で韓国、高含有するリン脂質に着目
一方、2019年以降、クリルオイルの需要が急拡大した韓国では、米国とは全く異なるマーケティングが行われた。世界のクリルオイル原材料市場で約8割のシェアを持つといわれるアーケルが今年1月に設立した日本法人アーケル・バイオマリン・ジャパン㈱(アネッテ・山本ハンセン代表)の最高マーケティング責任者、後藤将哉氏はこう解説する。
「オメガ3はほとんどうたわず、リン脂質を多く摂取できる点を強く訴求した。機能の面でアピールしたのは、『(血中中性)脂肪の掃除機』というコンセプト。つまり、食事に含まれる脂肪が気になる女性などにアピールした。これにより、ほぼゼロだった市場が約18カ月の短期間で約3億ドル規模にまで成長することになった」。
アーケル製のクリルオイル「スパーバ」に含まれるコリンなどリン脂質の濃度はハイグレード品で56%、汎用品でも40%を下回らないという。「DHAやEPAではなくリン脂質を訴求した韓国のマーケティングは日本でも参考にできると思う。韓国では、他の機能成分をクリルオイルと組み合わせることで、他の成分の吸収率を高められることもアピールされた。アーケルでは、コエンザイムQ10、ルテイン、ビタミンDなどの吸収効率向上についてエビデンスを持っている」(同)。
原材料最大手のアーケル、日本法人を設立
アーケルが「スパーバ」とともに日本の健康食品市場に参入したのは2011年。以来、協力企業とともにクリルオイルの普及を図ってきた。現在までに、ひざ関節領域の機能性表示食品の機能性関与成分としても同社製品が利用されている。
ただ、「残念ながら、米国や韓国のように市場を確立させるまでには至っていない」(同)現状だ。そうした現状を打破するために、市場参入から10年超の時を経て日本法人が設立された。日本のお隣、韓国での成功に刺激された面も大いにあっただろう。
「世界のオメガ3市場は拡大し続けている。一方で日本は長らく横ばい。背景には、魚油一辺倒になっていることがあると思う。市場活性化のためにも、リン脂質を豊富に含むことを特長とするクリルオイルに目を向けていただきたい。日本の技術力があれば、世界的にも新しい製品を生み出せると期待している」と日本法人の最高執行責任者、戸田匡一氏は語る。
日本での商品開発をサポートするために、同社は国内でヒト試験を実施。肌に対する有用性を検証している。また、機能性表示食品として現在可能なひざ関節に対するヘルスクレームを拡充させることも視野にある。さらに、来年以降となる予定だが、新製品として、ナンキョクオキアミから抽出したタンパク質(プロテイン)の発売を計画している。
【石川 太郎】
(冒頭の画像:アーケル製クリルオイルを配合したソフトカプセル。同社日本法人ホームページから)