新井長官「倫理観をもって事業活動を」 JHNFAセミナーで講演
(公財)日本健康・栄養食品協会(JHNFA/矢島鉄也理事長)は10日、トップセミナーを都内で開催した。JHNFAはこれまで、同セミナーを主に経営幹部を対象として実施してきたが、今回、対象を広げた上で、5年ぶりに開催した。業界関係者約100人が参加した。
山東明子会長は、「健康に寄与する食品業界の最大の団体として、これからも誇りを持ち、多くの会員企業が望む、行政や消費者とのパイプ役を引き続き担っていきたい」と挨拶した。
消費者側に立った広告・表示のあり方を考えてもらいたい
消費者庁の新井ゆたか長官は、「消費者行政の動向について」と題して講演。新井長官は冒頭、「きょう(10日)国会で、景表法の改正が成立した。景表法に違反する案件は、消費者庁に移管する以前から減っていないという現実がある。今回の改正は、事業者にとって相当厳しい改正になっている」と話した。
今回の改正のポイントについて新井長官は、第一に自主的な取り組みの促進を挙げた。「通常の手続きでは、弁明の機会を付与し課徴金の納付命令を行っている。これは、消費者庁の人的要因など理由はさまざまだが、現状、相当な時間を要している。より早く表示を適正化することが消費者利益につながる。そのために、独禁法にある確約手続きを導入した」と説明。決して取り扱いを簡便にするということが目的ではなく、早期是正をすることで消費者利益を確保することが目的だと話した。
また次に、違反行為に対する抑止力の強化をポイントに挙げた。「課徴金の算定率は、現行3%だが、これは決して安い金額ではないものの、令和になり最高金額を更新している状況。過去10年間に納付命令を受けた事業者に対しては、その1.5倍(4.5%)の算定率を適用することにした」を話した。
機能性表示食品については、「消費者庁に届出されたものに表示を許可するというものだが、だからと言って、景表法の枠を外れたものではない。表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている場合、その表示は虚偽・誇大表示広告に当たる可能性がある。あくまでも事業者には、その根拠を説明する責任があるということを改めて意識してもらいたい」と話した。
「食品衛生基準審議会」を新設
新井長官は、来年4月1日に、現在厚労省が行っている食品衛生基準業務が消費者庁に移管される件について説明。「人材の移管も含まれる。これにより、80人弱の厚労省基準審査課の部隊が消費者庁に移ることになる」と話した。残留農薬や放射性物質などの基準については、現状の消費者委員会とは全く別に、新たに「食品衛生基準審議会」を消費者庁に設置する。「そこで科学的な審査を経た上で、基準を設定していくという今までの科学的基準のラインを担保する。国際的な視点で見ても重要だ」と強調した。
最後に新井長官は、「食だけでなく全ての分野において、消費者利益を確保するためにも、市場を形成する事業者が倫理観をもって事業に取り組んでもらいたい。景表法の調査件数や課徴金額に目が行くが、それらがゼロになることが本来望ましい世界。そのための事業活動をお願いしたい」と話した。
「とろみ調整用食品プロジェクト」の取組を表彰
続けて、特別用途食品部門の「えん下困難者用分科会」に対する協会表彰式が行われた。同協会では、健康食品・保健機能食品などに関わる制度の普及・啓発、品質・安全性担保などの面で顕著な成果を挙げた会員などを表彰している。「えん下困難者用分科会」は、2013年度に発足以来、えん下困難者用のゼリー食品やとろみ調整用食品の許可基準の検討や申請に尽力している。19年度には「とろみ調整用食品プロジェクト」を推進し、企業間の連携により、23年3月末時点で、7社11製品が消費者庁許可を取得した。
講演終了後、企業と行政機関との意見交換会を実施した。矢島理事長は冒頭、「新井長官からは、大変厳しいお話をいただいた。業界として改めて緊張感をもって取り組んでいきたい」と挨拶した。
(冒頭の写真:業界関係者約100人が参加した。下の写真:表彰式の様子(左からJHNFA矢島理事長、山東明子会長、「えん下困難者用分科会」リーダー原浩祐氏)