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JADMA・万場専務理事インタビュー 【通信販売業界の最新動向】「送料無料」表示見直しの必要性とは

 (公社)日本通信販売協会(JADMA)は、通信販売会社419社(2023年11月28日現在)を傘下に置く業界団体。「楽しく便利な」通信販売を目指して、消費者の信頼を得るためと業界の健全な発展のために日々活動している。昨年8月23日に消費者庁で実施された「第6回『送料無料』表示の見直しに関する意見交換会」に出席した専務理事の万場徹氏に、通販業界から見た物流の2024年問題や「送料無料表示」見直しの必要性について話を聞いた。

「物流の2024問題」と「送料無料」表示の見直しは別では?

――「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会で述べられた協会の見解を改めて伺います。

万場 まず言いたいのは、今、言われている「物流の2024年問題」というのは、宅配における問題だけではないということです。その上で、「送料無料」表示を見直すことが物流の諸問題の解決につながるという一部報道がなされていることに疑問を持っています。そもそも物流全体に占める通販の宅配による荷物量は、わずか数%に過ぎません。中には1%程度だという声もあります。ある物流系の研究者によると、「送料無料表示見直しの問題は、物流の2024年問題に関しては全くお門違いで、問題の本質は全く別の所にある」と指摘があります。全くその通りで、本質を分かっていないのか、あるいは消費者にも関係しており世間に訴えやすいからなのかその辺りは分かりませんが、政府が掲げる物流改革の政策パッケージの中に、いつも間にか「送料無料表示の見直し」が盛り込まれました。
 
 物流の2024年問題の本質は、人手不足や多重構造の問題、長距離トラック輸送の問題にあるはずです。通販は、基本的に消費者のすぐ近くまでは共同配送しています。例えば、マンションや団地の近くまではヤマト運輸、佐川急便、日本郵便に運んでいただき、そこから最終地点まで個配するというかたちです。ぎりぎりのラストワンマイルの手前までは共同配送しているため、そもそも物流の合理化を実現しています。1つ1つ運んでいる訳ではありません。
 また、郊外のショッピングセンターに車で出かけていく買い物の仕方と、通販による買い物の仕方では、どちらがCO2排出量が少ないかということを考えると、先ほど言ったように共同配送していますので、よほど通販の方が合理的かつ、環境にも優しいと言えるのではないでしょうか。具体的な比較データがないため根拠を示すことはできませんが、容易に想像できると思います。

――通販の宅配荷物が問題とされています。

万場 宅配便を利用しているのは通販会社だけでなく、ネットスーパーや生協さんの宅配、百貨店も含めて全ての小売業は宅配に依存しています。ですから、もしどうしても送料無料表示を見直すのであれば、通販業界だけでなくこれらの小売業全体で取り組む必要があると考えます。「宅配=EC通販」とする偏った考え方は到底受け入れることはできません。宅配を利用する全ての業界の意見を聞いた上で、話を進めるべきだと思います。また、本当に法規制が必要なのでしょうか。そもそも送料を徴収する・しないは、各事業者の判断で決めることであり、国が規制するようなことではないと思います。それでも政策立案するのであれば、検証し数字で示していただきたいと思います。送料無料表示を法規制し各事業者が実施したことでどのように物流業界の問題が改善されたのか、物流の効率化・合理化にどのように寄与したのか、きちんと検証すべきだと意見しました。

――配送料の値上げ要請は今に始まった問題ではありません。通販事業者の意見は。

万場 大手物流事業者から仕事を請け負う下請け配送事業者の地位向上が本当に図られているのかどうかを確認すべきです。と言いますのも、私たち通販業界は、2017年に表面化した物流クライシスや、それ以前にもあった物流問題の深刻化の際にも、物流会社からの値上げ要請がありましたが、都度、その要請に応じてきました。100%や120%の値上げ要請が来たこともありましたが、通販というのは運んでもらえなければ事業が成り立ちませんので、何らかの交渉はあったにせよ、その値上げ要請には応えてきました。
 ではその原資はどこにどのように使われたのでしょうか。私たち荷主側が支払った値上げ分が、今苦しんでいる物流事業者、その中でも末端の下請け配送事業者に回っていないのだとしたら、それこそが問題です。こういったことも含めてしっかりと検証していただきたいと思っています。
 私たち通販業界と物流業界は、決して敵対関係にあるわけではありません。物流を取り巻く諸問題も共通の問題として意識していますし、これからもより良い協力関係を築いていきたいと思っています。

――法制化について、企業の意見はいかがでしょうか。

万場 会員社である通販会社に対してアンケートを実施しました。それによると、法規制を受け入れるとする声と、それに反対する声は半々という結果となりました。しかし、法規制を受け入れるとした理由を見てみますと、「送料無料」を全面的に打ち出している大手プラットフォームも同じレベルで規制するのであれば受け入れるというもので、そうでないならば受け入れられないという声が大半で、やはり全産業、全事業者一斉の規制が求められています。あくまでもそうした条件下であれば法規制も受け入れるということであり、本音としては法規制はしてほしくないというのが実情ではないかと思います。

――「送料無料」表示が消費者を誤認させているという意見もありました。

万場 当協会が実施した「全国通信販売利用実態調査」で、「通信販売の短所」を複数回答で求めたところ、最も多かったのは「実際に商品を見て購入できない」(69.6%)で、その次が「配送料・手数料がかかる」で44.5%という結果でした。つまり、「送料無料の表示が、消費者に送料=運賃が無料と誤認させている」という意見がありましたが、決してそんなことはなく、消費者は配送に費用が発生していることは当たり前ですが認識しています。そもそも、自分で買い物に出掛ければ、ガソリン代や電車賃がかかりますし、自分で荷物をどこかに送る場合も、配送会社に費用を払っているはずです。

送料無料が再配達への意識を下げている、急がれる再配達対策

――再配達が物流事業者の負担になっている点について、受け止めはいかがでしょうか。

万場 それは問題視しています。購入者である消費者が自ら日時を指定しておきながらその日時に不在というのは良くないですが、販売する側としては、再配達をなくすために「いつ・どこで・誰に」届けるのかを明確にした上で配送を手配する、コンビニや宅配ロッカーなどの別の場所での受け取りや置き配の利用など、柔軟な受取方法の選択肢を提案するなどの工夫は必要だと思います。より細かい日時指定ができるようなシステムの構築も必要です。通販会社も、宅配事業者1社だけでなく複数社と契約しているケースがあり、それぞれの宅配事業者のそれぞれのシステムを使い分けなければならないという煩雑さもあります。これを共有化するなどの改善も急がれます。再配達を減らすため、販売者・配送事業者・消費者が一体となって取り組む必要があります。
 
 また、配送時間の短縮化も物流事業者を苦しめている要因の1つかもしれません。以前は、注文してから1週間後に届くことも普通でしたが、他店や他サービスとの差別化を図るため、そのリードタイムの短縮化が進み、今では翌日や当日の配送まで可能になりました。受け取る側としてはうれしいことですが、いつのころからか1日でも早く届けることが当たり前になってしまいました。そもそも送料無料もどこかの販売店が顧客サービスの一環として始めたことであって、決して最初から標準のサービスではありませんでした。送料無料や時間の早い配送は魅力的に映るかもしれませんが、それが原因で自分たちの首を絞めることになっているのであれば、それは本末転倒です。送料無料や即日配送を購入金額などの条件付きで行うなどの、販売店の企業努力による仕組みが広がれば良いと思います。

――3カ月分や6カ月分のまとめ買いも良い取り組みだと思います。

万場 健康食品や化粧品などの、ある程度長期の賞味・消費期限が設定できる商品の販売においてよく見られるようになりました。背景には、配送回数を減らし配送コストを抑える、顧客を囲い込むという販売者側の狙いもあるようですが、「定期購入をしたいが毎月届くのは煩わしい」という顧客ニーズに応える意図もあるようです。資源の削減にもつながりますし、再配達の削減にもつながります。
 結論として、「送料無料表示=物流の2024年問題の解決策の1つ」ではなく、表示の見直しを問題提起することで、消費者を巻き込んだかたちで物流を取り巻く諸問題に向き合う良いきっかけになれば良いですし、業界としてできる限りの協力はしていきたいと思っております。

――ありがとうございました。

【聞き手・文:藤田 勇一】

プロフィール
1984年、社団法人日本通信販売協会(2012年4月より、公益社団法人となる)事務局に入局。主に行政対応、広報など、業務全般を担当。業務課長、業務部長を経て、00年に理事就任。01年からは事務局長も兼任し、11年、常務理事に就任。16年、専務理事に就任し現在に至る。「アフィリエイト広告等に関する検討会」委員。

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