紅麹サプリ問題、複合要因の可能性 九大チームの分析が示す新視点
小林製薬の紅麹サプリによる健康被害を巡り、九州大学の研究チームが製品中に複数の有害性が示唆される物質が含まれている可能性を指摘した。これまで行政はプベルル酸を中心とする単一原因モデルで整理してきたが、今回の分析はその前提に再検討を迫る内容である。これまでに編集部が厚労省などから入手した動物試験データと照合すると、腎毒性の存在は明確である一方、その原因構造は単一物質では説明し切れない可能性が浮かび上がっていた。九州チームの研究はそのことを裏付ける材料の1つとなるかもしれない。
「プベルル酸」単一原因モデルに揺らぎ
3日、「健康被害サプリ、有害物質複数か 紅こうじ、九州大分析」というタイトルの記事がヤフーニュースで配信された。
今坂智子九州大講師らのチームは、物質を気体にして測定する独自の機器を使い、小林製薬のサプリ「紅麹コレステヘルプ」を分析。プベルル酸が検出された製品と正常な製品を比べた結果、プベルル酸が検出されたサプリに、少なくとも5つの成分が多く含まれることが分かったという。
同事案に関する毒性評価を巡っては、これまで「プベルル酸を中心とする単一原因モデル」が行政整理として提示されてきた。
それに対して、今回の九州大学チームによる分析結果は、紅麹サプリ中にプベルル酸以外にも複数の有害性が示唆される物質が含まれている可能性を指摘し、原因構造の再検討を迫る内容となっている。問題は、この新たな示唆が既存の毒性試験データとどのような関係にあるのか、すなわち「毒性の発現様式」と「原因物質の構成」との整合性にある。
動物試験で確認された腎毒性、近位尿細管障害が一貫
編集部はこれまでに、厚生労働省および国立医薬品食品衛生研究所(国立衛生研/NIHS)から「BK1、BK2及びPA:ラットを用いた7日間反復経口投与毒性試験」、「ラットを用いたプベルル酸の28日間反復経口投与毒性試験」などの実験データおよび関係書類を入手している。
開示された動物試験資料を全ページにわたり、専門家やAIの助けを借りて精査したところ、少なくともラットを用いた反復投与試験において、BK2およびPAのいずれにも腎毒性が認められていることが明らかとなった。
具体的には、血液生化学検査においてクレアチニンおよびBUNの上昇が確認されており、これは腎機能障害を示唆する典型的な所見とされている。また、尿所見として蛋白尿、電解質異常、尿細管上皮細胞の出現などが繰り返し確認されており、機能的な異常と組織学的変化が整合していることが分かった。
病理組織学的にも、近位尿細管の変性および壊死、再生像、硝子円柱の形成、間質への炎症細胞浸潤といった所見が一貫して認められている。これらは毒性学的に典型的な尿細管障害のパターンであり、偶発的変動や全身状態の悪化による二次的変化では説明が難しい可能性があるのではないか。さらに重要なのは、これらの変化が用量依存的に増強し、かつ複数個体で再現されている点だ。すなわち、同試験は腎臓、とりわけ近位尿細管を標的とした明確な毒性発現を示すものである。
BK2はPAより強い毒性が
一方、同一試験においてBK2の毒性はPA単独よりも強いという結果が出ている。PA単体でも腎毒性が確認されている以上、同物質が毒性発現に関与していること自体は否定できない。しかし、BK2がより強い毒性を示すという事実は、PA単独では説明し切れない要素が存在する可能性を示唆する。実際、試験資料においても、BK2中のPA以外の成分、あるいは不純物の影響を含めた検討の必要性が明記されている。
厚労省によれば、BK1およびBK2とは「製剤(コレステヘルプ錠剤そのもの)」とし、錠剤の中身はすなわち、「PA(プベルル酸)+Y+Z」などによる混合物ということになる。試験設計としては、BK群=混合物(実製品)、PA群=単体物質(プベルル酸)ということだ。
実製品は混合物、九大分析と試験設計の接点
ここで、九州大学チームの分析結果と照合する。同チームは、健康被害が報告された製品と正常品を比較した結果、プベルル酸が検出された製品において、少なくとも複数の成分が相対的に多く含まれていることを見出したという。さらに、これらの成分の中には、肝臓や腎臓に対する有害性が示唆される化合物や、ロバスタチン関連化合物の可能性があるものが含まれていたとしている。この指摘は、同製品が単一の異常物質によって説明されるのではなく、複数の物質が関与する複合的な系である可能性を示すものである。
「上乗せ作用」も視野、複合要因モデルの可能性
この2つの情報を重ね合わせると、一定の構造が浮かび上がる。すなわち、実際の製品は複数の化学物質を含む混合系であり、その中に腎毒性を有する物質が複数存在する可能性がある。そして動物試験において確認されたBK2の強い腎毒性は、この混合系全体としての影響を反映している可能性も考えられる。
PA単体でも同方向の毒性は確認されているが、その強度や発現様式がBK2と完全に一致するわけではない。したがって、毒性発現は単一物質によるものではなく、複数物質の関与、あるいは相互作用によって増強されている可能性が示唆される。
こうした見方について、行政側にも一定の認識がある。実際、厚労省のある幹部は取材に答えて、「上乗せ作用は否定できない」とのコメントを残している。
もっとも、この段階で「原因は複数である」と断定することはできない。九州大学の分析はあくまで成分の存在可能性を示すものであり、各物質の毒性寄与率や相互作用の有無を直接検証したものではない。また、動物試験においても、各成分を完全に分離した上での寄与解析が行われているわけではない。したがって、現時点で言えるのは、「単一原因モデルでは説明し切れない可能性がある」という段階にとどまる。
しかしながら、この「説明し切れなさ」こそが同事案の重要な論点でもある。行政資料においては最終的にプベルル酸を腎障害の原因物質として位置付けているが、その過程ではBK2の毒性がPAより強いことや、他成分の影響可能性について一定の留保が存在していたことが確認されている。すなわち、結論は一足飛びに確定されたものではなく、複数の仮説を経たうえで、最も説明可能性の高い要因に収束したものである。
毒性と同定は別問題、なお残る課題
今回の九州大学の結果は、この過程に対して新たな視点を提供した。「毒性は確認されているが、その原因構造は単純ではない」という理解である。動物試験が示したのは毒性の存在とその標的臓器であり、九州大学の分析が示唆するのは、その毒性を構成する物質群の多様性である。この両者は対立するものではなく、むしろ補完的な関係にある。
総じて言えば、同事案は単一の化学物質による急性毒性事案としてではなく、複数の要因が関与する可能性を持つ事案として再整理されつつある段階にある。プベルル酸の関与は否定されるものではないが、それのみで全体を説明し尽くすことができるかについては、なお検証の余地が残されている。
これまでにも繰り返し述べてきたが、「毒性の存在」と「原因物質の同定」は本来区別されるべき問題であり、九州大学チームの指摘は、まさにその両者の関係を再考させる事例となっている。
【田代 宏】
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