訴え一部取り下げでも争点は消えず 確認請求を整理、契約関係と相殺の可否は引き続き審理へ
東京地裁において、(一社)日本化粧品協会(JCA、東京都文京区、引地功一代表理事)および(一社)日本中小企業団体連盟(東京都中央区、中村賢吾理事長)が、東京大学ならびに佐藤伸一教授、吉崎歩元准教授を被告として提起した訴訟の第2回準備手続が、12月26日に行われた。これに先立ち原告側は請求の一部を取り下げたが、主張の後退ではなく争点整理のための技術的対応と説明している。準備手続では、相殺の成否や契約解除の妥当性を中心に、双方の主張が鋭く対立した。裁判記録を閲覧の上、記者が把握した範囲において経過を報告する。
請求の一部取り下げ、争点整理が焦点に
同手続に先立つ12月18日、原告側訴訟代理人は、訴えの一部を取り下げた。取り下げの対象は、請求の趣旨第2項、すなわち「被告国立大学法人東京大学が原告らに対してした令和7年3月13日付解除が無効であることを確認する」との確認請求である。
この点について、日本化粧品協会は取材に対し、同取り下げは主張の後退や請求内容の変更によるものではなく、裁判所からの訴訟整理上の指摘を踏まえた技術的・形式的な整理であると説明している。
すなわち、請求の趣旨第1項において契約関係の存否が判断される以上、第2項の確認請求はその判断に包含されると考えられ、重複を避けるために取り下げたとしている。請求の趣旨第1項および損害賠償請求を含むその他の請求については、いずれも維持されている。
相殺額を巡る主張、解除の前提崩し狙う
同日までに提出された原告らの準備書面では、相殺に関する主張の整理が中心的に展開された(表⑤)。原告らは、2025年1月7日時点で相殺の対象とした被告大学の受働債権額を、令和5年分1,730万円および令和6年分1,876万6,700円の合計3,606万6,700円と主張した。この金額は、稼働実績のない特任講師・特任准教授の給与分、消耗品費、間接経費の一部を控除した後の額であるとしている。

東大側は法的根拠の不明確さを追及
これに対し、原告の日本化粧品協会が被告らに対して有すると主張する自働債権、すなわち損害賠償請求債権額は、訴状記載の3,472万1,480円であるとした。原告らは、この相殺により、被告大学の原告中団連に対する債権は96万3,771円のみが残存していたと主張するが、その後も研究サボタージュが継続した結果、さらに人件費相当額が控除されるべきであり、令和7年1月末時点では84万2,628円の過払い状態にある、あるいは契約解除日とされる同年3月13日時点では265万928円の過払い状態にあるとも述べている。
原告らは、このように相殺後の受働債権が実質的に消滅、または大幅に減少していることを踏まえ、「請求権のうち相当額が消滅した」と主張した。この主張は、被告大学が主張する契約解除の前提となる債務不履行が僅少にとどまり、解除は許されないとの論理構成を支えるものと位置付けられている。
さらに原告らは、本訴における相殺の基準時を訴状送達日とし、その時点においても相殺により被告大学の請求権の相当部分が消滅していると主張した。仮に残債務が存在するとしても、それは僅少であり、信義則上、解除権の行使は権利濫用に当たると論じている。
これに対し、被告東京大学は準備書面(2)において、原告らの主張に対し多数の求釈明を行った。特に、原告らが主張する「控除」について、その法的根拠が不明確であること、相殺後に受働債権が減少するとの構成自体が法的にどのような意味を持つのかが明らかでないこと、「相当額」、「大部分」といった評価的表現ではなく具体的金額を示すべきであることなどを指摘した。また、相殺の基準時を訴状送達日とする法的根拠や、その日に履行期が到来したとする理由についても釈明を求めている。
同日までに提出された原告らの準備書面2では、被告吉崎歩元准教授が提出した準備書面1に対する認否が示された。被告吉崎は、本件社会連携講座に関する契約について、原告らが大学のブランド力を利用して不正な利益を得ようとしたと主張し、また接待についても原告代表者が主導的に行ったもので強要はなかったと述べている。これらの点について原告らは、いずれも否認している(表②)。
研究・契約を巡る争点、次回準備手続へ
一方で、分析室および品種開発室の導入計画については、導入の端緒となったという限度で一部認める認否も示されている。また、LEAPホールディングスとの受託研究契約の存在自体は認めつつ、その内容や欺罔に関する吉崎被告の主張については否認している(表③)。
本準備手続では、相殺の可否、研究実施状況、接待を巡る評価、ならびに契約関係解消の有効性を中心に、双方の主張が大きく対立したままであることが改めて浮き彫りとなった。裁判所は、次回期日までに、原告らに対し各被告準備書面への反論および主張の補充を行う準備書面を2026年2月13日までに提出するよう指定している。次回の書面準備手続協議は、同2月24日午後2時に指定された。
【解 説】(訴えの一部取り下げについて)
東京地裁で係属中の東京大学社会連携講座を巡る訴訟において、原告である(一社)日本化粧品協会および(一社)日本中小企業団体連盟は、2025年12月18日、訴えの一部を取り下げた。対象となったのは、請求の趣旨第2項に掲げていた「被告国立大学法人東京大学が原告らに対してした令和7年3月13日付解除が無効であることを確認する」との確認請求である。
この取り下げについて、日本化粧品協会は取材に対し、請求内容の後退や主張の放棄を意味するものではないと説明している。原告側の整理によれば、請求の趣旨第1項において契約関係の存否が判断される以上、その判断に解除の有効性も包含されると考えられ、請求の趣旨第2項は重複的であるとして整理対象としたものである。
実際、被告東京大学側は、準備書面において、請求の趣旨第1項と第2項の関係性や、第2項単独での「訴えの利益」がどのように成立するのかについて疑問を呈していた。原告側はこれを踏まえ、裁判所による審理の簡素化および争点整理の観点から、第2項の確認請求を維持する実益は乏しいと判断し、一部取り下げに至ったとしている。
重要なのは、この取り下げによって、原告らが主張する契約関係の存否、相殺の可否、損害賠償請求、あるいは被告大学による契約解消の妥当性といった実体的争点が消滅したわけではない点である。請求の趣旨第1項およびそれに基づく主張は引き続き維持されており、解除の有効性についても、契約関係の判断の中で審理される位置付けに変わりはない。
今回の請求の趣旨第2項の取り下げは、訴訟戦略上の整理措置であり、裁判所に対して争点構造を明確に示すための技術的対応と位置付けられる。今後の審理においては、形式的な確認請求の有無ではなく、相殺の成立や債務不履行の有無といった実質的争点が中心的に判断されることになる。
本件訴訟で被告とされている吉崎歩元准教授は、東京大学退任後、某クリニックの理事長に就任していることが、同クリニックへの取材により確認できた。改めて同氏に取材を申し込んだものの、18日現在、回答は得られていない。
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【田代 宏】
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