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もう1つの紅麹サプリ事件(中) 評価の枠組みと救済の狭間で問われる責任

 紅麹サプリ事件では、どの症状を、どの時点で評価対象とするのかが、被害の可視化と救済の範囲を左右している。評価が進むこと自体は不可欠だが、その枠組みが確定するまでの過程で、制度の外に置かれる被害が生じかねない点は看過できない。本稿では、旧・茶のしずく事件との比較を通じ、評価基準が形成される過程そのものが「事件」を形づくる構造であることを確認するとともに、紅麹サプリ被害救済弁護団が訴訟に依拠せず、交渉を軸に被害救済を進めている現状を整理する。

紅麹サプリ問題に重なる既視感

 ここで重要なのは、どの症状が、どの時点で、どのように評価対象として整理されるのかという点である。評価対象とされる症状が限定されている段階では、その枠外にある症状は、制度上「存在しないもの」として扱われかねない。

 旧・茶のしずく事件では、診断基準が整備される過程で、基準に合致する症例が「確定」とされ、それ以外の症例が周縁化された。その結果、被害の実態と救済の対象との間にズレが生じた。
 紅麹サプリ事件においても、当初は腎障害が中心的な論点として扱われ、その後に別の毒性所見が示されるという経過をたどっている。この変化は、評価が進化していることを意味する一方で、評価の枠組みが確定する前段階において、どの症状がどのように位置付けられるのかが、今後の救済や対応に影響を与える可能性を示唆している。
 ここで問われるのは、「誰のための評価なのか」という点である。安全対策や制度設計は、明確な基準を必要とするが、その基準が現実の被害を十分に包摂しているかどうかは、別の問題である。
 本稿が「もう1つの紅麹サプリ事件」と題するのは、紅麹サプリメントによる健康被害が存在するからだけではない。評価の枠組みが形成される過程で、どの被害が可視化され、どの被害が不可視化されるのかという構造が、過去の事例と重なって見えるからである。
 事件とは、単に被害が発生した事実を指すのではない。被害がどのように認識され、どのように整理され、どの範囲までが社会的に「事件」として共有されるのか、その過程全体を含む概念である。

 旧・茶のしずく事件では、「誰のための診断基準か」、「誰のための安全対策か」という問いに対する答えが、結果として一部の被害者を制度の外に置くかたちとなった。紅麹サプリ事件は、今まさに、その問いに向き合う途上にある。
 評価の進展は不可欠である。しかし同時に、評価が確定するまでの過程で生じる被害や不安を、どのように扱うのかという視点も欠かせない。過去の事例が示した教訓は、被害が「確定」してからでは遅いという点にある。
 紅麹サプリ事件が「もう1つの事件」として記憶されるのか、それとも、過去の教訓が生かされた事例として位置付けられるのか。その分岐点は、いま進行している評価と対応のあり方にかかっている。

訴訟に踏み込まず、交渉による救済を軸

 小林製薬の紅麹サプリメントを巡る健康被害問題では、2024年9月、大阪府の40代男性が製造物責任法(PL法)に基づき、同社に損害賠償を求めて大阪地方裁判所に提訴した。紅麹サプリを巡る損害賠償請求としては初の訴訟だった。
 報道によれば、原告の男性は2024年1月に紅麹サプリを購入・摂取し、同年5月の血液検査で腎機能に異常が認められ、「紅麹関連薬剤を内服したことによる薬剤性急性腎障害」などと診断されたとされる。原告側は、小林製薬が最初の症例報告を受けた後も公表を行わなかったことが、被害拡大につながったと主張した。
 一方、小林製薬は請求棄却を求める姿勢を示し、医療費などについてはすでに支払いを行っていると説明していた。その後、この訴訟は2025年10月、原告側が訴えを取り下げ、被告側が同意したことで終結している。
 この経過は、紅麹サプリ問題において、被害者個人による訴訟が必ずしも継続的に展開されているわけではない現状を示す一方で、被害救済の実態が訴訟とは別の場で進められている可能性を示唆するものでもあった。

 紅麹サプリの健康被害を巡っては、被害者の救済を目的とする弁護団「紅麹サプリ被害救済弁護団」が組織されている。弁護団への取材によれば、弁護団は、自らの活動の中心を「被害救済」に置いており、制度論や原因論について積極的に発信する立場にはないことを明らかにしている。厚生労働省や消費者庁が進める原因整理や評価についても、被害救済の参考となる調査結果は参照するが、制度設計や原因成分の規格化といった議論を行う主体ではないと説明している。
 この点は、行政対応や企業責任の検証を求める声が高まる中にあっても、弁護団があくまで個別被害者の救済を主目的として活動していることを示している。
 
 同弁護団への取材では、現在関与している係属中の訴訟は存在しないことが確認された。弁護団は、現時点では訴訟を提起しておらず、また所属弁護士が代理人として関与している民事訴訟もないとしている。
 仮に今後、交渉が決裂するなどして提訴に至る場合には、記者会見などのスタイルで説明を行う可能性はあるものの、現段階では具体的な予定はないという。
 これらの説明からは、紅麹サプリ問題を巡る被害救済が、訴訟を前提とした対応ではなく、交渉を通じた解決を基本として進められている実態が浮かび上がる。
 弁護団によれば、現在、約30人の被害者から委任を受け、小林製薬との間で交渉を行っているという。ただし、その具体的な内容や進捗については、交渉中であることを理由に、公表できる段階にはないとしている。

 補償対象の範囲や要件がどのように整理されているのかについても、弁護団として交渉中の事項のために一般論としての説明を差し控える姿勢が示された。
 この点については、被害の実態や補償の線引きが外部から見えにくい状況が続いていることを意味しているが、弁護団は、現時点で公開可能な情報には限界があるとの立場を取っているようである。

 次回、最終回では、医薬部外品と食品という製品区分の違いが、救済の設計思想や弁護団の姿勢にどのような差を生んでいるのかを検証する。被害弁護団との1問1答についても、次回紹介する予定だ。

(つづく)
【田代 宏】

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