公取委、食品流通の5大商慣行に警鐘 「3分の1ルール」など食品ロス削減の妨げに
公正取引委員会はきのう12日、飲食料品の製造・流通・小売に関わるフードサプライチェーンにおいて、食品ロスの発生や取引上の不公正を招いている商慣行に関する実態調査の結果を公表した。調査で明らかとなった「3分の1ルール」など5つの商慣行について、優越的地位の濫用の可能性を示唆するとともに、社会的なロスコストを生み出す原因にもつながるとして警鐘を鳴らした。今後、違反行為に対して厳正に対処する方針を示している。
調査では、2024年9月から今年3月までの1年間、飲食料品製造業者1万1,600社、飲食料品卸売業者 5,845社を対象にWebアンケート調査を実施。また、飲食料品製造業者と飲食料品卸売業者72社および小売業者15社に対してヒアリング調査を実施した。
全国調査で5大商慣行の課題を指摘
公正取引委員会が公表した「フードサプライチェーンにおける商慣行に関する実態調査報告書」によると、全国の食品メーカーや卸売業者(納入業者)を対象とした調査で、「3分の1ルール」や「欠品ペナルティ」など主要な商慣行に対して、多くの納入業者が強い不満を抱いていることが明らかとなった。
報告書では、5つの商慣行について納入業者に対し、不満の有無とその理由を複数回答式で尋ねた。その結果、いずれの商慣行に対しても不満を抱く事業者が多数を占め、現場の取引実態と商慣行との間に乖離があることが浮き彫りとなった。
最も不満が集中したのは「欠品ペナルティ」
最も不満の割合が高かったのは「欠品ペナルティ」で、85.2%(291社中248社)が「不満」または「どちらかといえば不満」と回答。理由としては、「3分の1ルールや短いリードタイムを遵守するためには必要以上に在庫を保有するのは困難。そのために欠品ロスが起こることは仕方がない」(51.9%)、「欠品ペナルティを負担すべき条件やその金額の算出方法などについて十分な協議がない」(49.5%)、「天災など不可抗力によるトラブルでもペナルティが課される」(48.1%)といった声が多く挙がった。
「短いリードタイム」も8割超が不満、物流の限界も背景に
続いて不満が多かったのは「短いリードタイム」で、83.9%(515社中432社)が不満を表明。「発注数量からして短いリードタイムではとても生産が間に合わない時がある」(67.8%)、「見込み生産量と確定発注数量とが大きく異なることがある」(64.5%)、「納品できなかった場合は送品を廃棄するしかない」(39%)といった訴えが相次いだ。
「3分の1ルール」にも7割超が不満
慣行として定着している「3分の1ルール」については、71.3%(1,148社中818社)が不満を持つと回答。このルールにより納品可能な在庫であっても期限切れとして返品されるケースがあり、「納品できなかった場合や返品された場合に必要となる費用が全額負担となる」(32.7%)、「費用の負担方法や負担割合について協議の余地がない」(25.8%)などの意見があった。
日付関連のルールにも過半数が疑問を表明
賞味期限の前後で納品の可否が左右される「日付逆転品の納品禁止」については56.4%(1,154社中651社)が、「卸売業者のミスにもかかわらず製造業者に返品されることがある」と指摘。「日付逆転品の納品禁止」(47.3%)、「費用の全額負担」(22.7%)、「協議不十分」(18%)などとなっている。
「日付混合品の納品禁止」では81.7%(448社中366社)が不満を表明し、「商慣行だからという理由で納品を禁止するのは納得できない」(68.1%)との声が集まった。
商慣行の透明化と協議の機会を求める声
いずれの商慣行についても共通していたのは、「事前の協議や説明が不足している」、「条件が一方的に通告される」といった取引の透明性に対する不満だった。報告書では、これらの慣行が書面化されることは少なく、慣例的に運用されている現状が背景にあると指摘している。
「3分の1ルール」とは何か
「3分の1ルール」は、賞味期限のある加工食品に関し、製造日から賞味期限までの期間を3等分し、以下のように流通の各段階で時間を分け合う商慣行を指す。
最初の3分の1を製造業者が小売業者へ納品すべき期限(納品期限)、次の3分の1を小売業者が店頭で販売できる期間(販売期限)、最後の3分の1が消費者が購入・消費できる期間とする。例えば、賞味期間が6カ月の商品であれば、製造から2カ月以内に納品、次の2カ月間が販売、残り2カ月間が消費者の使用期間とされる。

公取委の発表資料より加工転載(上図)
このルールの下では、小売業者が納品を受ける期限を厳しく設定する一方で、流通段階での遅れや在庫滞留が生じると、期限超過を理由に商品が返品され、最終的に製造業者が廃棄コストを負担するケースも多数報告された。
製造業者・卸売業者からの不満と損失
調査では、製造業者や卸売業者の多くが「納品期限の超過を理由に返品される」、「短納期の発注で見込み生産を強いられる」などの実情を訴えた。中でも「3分の1ルール」に関連した不満は顕著であり、「一方的にルールを通告され、協議の余地がない」、「卸売業者の物流センターの在庫滞留が原因で返品されるが、その責任は当社持ち」といった声が多数寄せられている。
実際に「本来納品できた商品が期限切れ扱いとなり廃棄」、「返品後の再販で値下げせざるを得ない」など、商品価値の毀損や物流・廃棄費用の負担といった損失が多くの企業に発生していることも明らかとなった。
書面化されない商慣行と独禁法上の問題
さらに、こうした商慣行の多くが、取引に当たって契約書などの書面であらかじめ明確に規定されていたり、発注時に口頭で指定されたりすることはほとんどなく、あくまで事実上の商慣行として存在しているとの実態が浮かび上がった。事前の協議がないまま一方的に納品条件が通達されるケースが多く、公正取引委員会は、企業間の力関係に起因する「優越的地位の濫用」に該当する可能性を指摘している。
公正取引委員会は今回の調査結果を踏まえ、フードサプライチェーンにおける取引の適正化と食品ロス削減を図る方針。各企業に対し「書面による事前協議」、「不利益の透明化と説明責任」などの徹底を求めるとともに、独占禁止法違反の未然防止に向けた啓発と監視を強化していく考えだ。
【編集部】
調査報告書はこちら(公取委ホームページより)