ウロリチンA、発酵法で生産 ダイセル、10%以上含有するサプリ原材料を供給
オートファジー活性機能を持つ食品成分として紹介されることの多いウロリチンA。果実がジュースなどの食品に利用されるザクロに含まれるポリフェノールのエラグ酸が、人の腸内細菌で代謝されることで初めて作り出される。大手化学品メーカーの㈱ダイセル(小河義美社長)は、ザクロのエラグ酸を出発物質とするウロリチンAを高含有する主にサプリメント向けの原材料を開発。2021年から販売を進めている。
エラグ酸の腸内代謝物 開発背景にエクオール
ウロリチンAがオートファジーとの関係で注目を集めるきっかけになった論文がある。
2016年、海外の研究チームが生物医学分野の科学ジャーナル『ネイチャーメディシン』に投稿、掲載された「Urolithin A induces mitophagy and prolongs lifespan in C. elegans and increases muscle function in rodents」(ウロリチンAはマイトファジーを誘導して線虫の寿命を延ばし、げっし類の筋肉機能を増大する)と題した論文だ。
マイトファジーはオートファジーの一種。もっぱら、細胞内で障害を受けたミトコンドリアを選択的に分解する仕組みと説明される。
この論文が発表される以前からダイセルは、ウロリチンAを食品に利用するための研究開発を進めていた。
その背景には、エクオールがあった。エクオールは、大豆に含まれるイソフラボンの一種であるダイゼインが、腸内細菌で代謝されて生み出される成分。人の腸内細菌で代謝されて作り出されるのはウロリチンAも同じだ。同社はエクオールを高含有する機能性食品素材を開発、サプリメント販売会社などに供給していたこともあり、それに続く製品として、ウロリチンAを高含有する原材料の開発をめざした。
ウロリチンAの製法は既知だった。ただ、それは化学的な合成法。日本で展開するには異なる製法を新規で開発する必要があった。
そこで同社は、エクオールの製法にも取り入れている「発酵」に着目。ウロリチンAの生産に関与する2つの腸内細菌を見つけ出し、それらを共培養するシステムを作り出した上で、ザクロのエラグ酸からウロリチンAを発酵生産する方法を世界で初めて開発した。
そして2021年5月、ウロリチンA含有量を10%以上で規格したザクロ抽出発酵物粉末「ウロリッチ」(同社の登録商標)の外部企業への供給を始めた。
オートファジー活性化、原材料として評価
ウロリチンAだけでなく、「ウロリッチ」そのものに、オートファジーを活性化させる働きがあることも確かめた。
オートファジー活性評価技術を持つベンチャー企業、㈱オートファジーゴーと共同で行った培養細胞試験で確認。(一社)日本オートファジーコンソーシアムが制定した「オートファジー活性測定のための品質性能評価試験」に適合した評価試験で活性が測定されたこともあり、コンソーシアムが手がける認証制度のうち「ポジティブリスト」に登録されることになった。
効果を検証するための臨床試験も実施した。
血管の内皮細胞の働きに依存する血管内皮機能を改善させるかどうかを人で調べ、23年、国内学術誌に論文投稿。血管内皮機能が低下したウロリチンA非産生者32人を対象にRCT(ランダム化比較試験)を行った結果、ウロリチンAを1日あたり10mg、8週間摂取することで、血管内皮機能の指標となる血流依存性血管拡張反応(FMD)の上昇傾向が確認されたという。
「血管に対する働きを訴求する機能性表示食品にウロリチンAを応用することも不可能ではない」とダイセルのヘルスケア事業部門担当者と話す。
ただ、あくまでも「オートファジーと結び付けながら(サプリメント市場に)広げていきたい」といい、機能性表示食品への応用開発は、人を対象にした試験でオートファジーが活性されるかどうかを確かめた上で進めたい、としている。
「ウロリッチ」は現在10数社が採用。オートファジー活性化を作用メカニズムとする機能性表示食品として展開したい意向を示す先もあるという。
そうした要望に応えるためにも、引き続きオートファジー研究を進め、オートファジー活性化機能を人で確かめるとともに、同社も参画している日本オートファジーコンソーシアムを構成するアカデミアとも連携しながら、オートファジー研究成果の社会実装やウロリチンAの消費者認知の向上をめざす。
【石川太郎】
<COMPANY INFORMATION>
所在地:東京都港区港南2-18-1 JR品川イーストビル(東京本社)
TEL:03-6711-8111
URL:https://www.daicel.com/
事業内容:メディカル・ヘルスケア事業、セイフティ事業、マテリアル事業など
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