原材料の品質確保にどう取り組むか JIHFSの新たな民間認証に注目する
民間の健康食品GMP第三者認証機関、(一社)日本健康食品規格協会(JIHFS、池田秀子理事長)が今夏スタートした「輸入原材料GMP」認証。そして開始準備を現在進めている「原材料の安全性自主点検」認証──健康食品の原材料をめぐるこの2つの新たな第三者認証に、健康食品の最終製品及び原材料の製造施設に対するGMP認証を加えると、サプリメントを中心とする健康食品の安全性と品質の確保のために行政が事業者に求めていることをかなりカバーできるようになる。どういうことか。
製品の品質確保、原材料の品質確保してこそ
小林製薬「紅麹サプリ」健康被害問題を受けて改正された機能性表示食品制度。制度を所管する消費者庁は、問題で低下した制度への信頼性を高めるための措置として、機能性表示食品のうち「天然抽出物等を配合した錠剤、カプセル剤等食品」(サプリメント)については、GMP(適正製造規範)に基づく製造・品質管理を要件にすることを法令で定めた。GMPの基準も法令で規定。医薬品を参考にしたGMP管理による製品の品質(安全性)確保を実質義務化することで、消費者などからの信頼性を高めたい考えだ。
ただ、製品がいくら高いレベルのGMPで管理されていようと、その製品に配合される原材料の品質が低ければ、その製品の品質も低くなる。原材料の品質を、製品のGMP管理で高めることはできないからだ。GMP管理で品質を担保した製品を消費者へ継続的に提供するためには、まずは原材料の品質が担保されている必要がある。実際、健康被害が報告された小林製薬のサプリも、被害の原因は同社が製造する原材料の製造工程管理、品質管理の不備にあったと推定されている。
日本には、民間の健康食品GMP第三者認証機関が2つある。(公財)日本健康・栄養食品協会(矢島鉄也理事長)とJIHFS。健康食品の安全性と品質を確保するために、厚生労働省が2005年発出した通称「平成17年通知」を受けて、両機関は同年、同通知を踏まえたそれぞれの規範に基づく健康食品GMP認証を開始した。現在、製品と原材料を合わせて200を超える国内工場が認証を受けているとみられる。
原材料のGMP認証工場件数は、製品のそれと比べると少ないものの、一定数が取得。JIHFSは現在、製品GMPで35工場、原材料GMPについては21工場をそれぞれ認証中で、定期的な監査も行っている。
一方で、そうした国内工場で製造される原材料よりも、海外で製造されたそれのほうが多く流通しているとみられるのが、日本の健康食品市場の実際だ。通常の食品と同様、健康食品も、こと原材料に関しては、輸入に頼るところが大きい。
ただ、そうした輸入原材料の製造・品質管理が、日本の基準に沿って行われているかどうか、輸入後のロット毎に品質が確保されているかどうかなどを第三者が確認する仕組みは、行政はもとより民間にもない。そのため、その品質確保は原則、輸入事業者が担うことになるが、そもそも健康食品の輸入原材料の品質に関する統一的な基準はなく、各社の個別判断で対応するしかない。
そうした穴を、民間で自主的に埋め、輸入原材料の品質確保につなげようとするのがJIHFSの輸入原材料GMP認証だ。輸入事業者の品質管理体制の構築、国内での確認試験を原則含めた品質管理などを要件にしながら、工場ではなく原材料の品目単位に認証する。
品質の確保、その前提に安全性の確認
一方で、GMP管理だけで原材料の品質を確保できるだろうか。そもそもその原材料の安全性が適切に検証、評価されていなければ、GMP管理は意味をなさない。製品の品質を確保する、そのために原材料の品質を確保する、その前提として評価、確認されている必要のあるのが原材料の安全性だ。そのため、JIHFSは今、各GMP認証をより意義あるものとするためにも、「原材料の安全性自主点検」認証を新たに始めようとしている。
来年3月末までにスタートする予定の同認証の仕組みは、後述する行政通知に基づき、事業者が実施した原材料の安全性自主点検の結果を、複数の外部専門家を交えたJIHFSの第三者評価委員会で確認、審査したうえで認証するというもの。新たな知見が報告されていないか1年毎に審査委員会で確認しつつ、3年毎の更新制とする予定だ。
JIHFSは、この認証を、既存の認証に加えることで、原材料の適正な安全性自主点検結果を踏まえた、輸入を含む原材料から製品までの、GMP管理による品質確保の流れを作ろうとしている。それこそが、過剰摂取など、通常の食品とは異なるリスクを抱えると同時に、通常の食品からだけでは得られないベネフィット(機能性)が期待されるサプリメントに求められる「品質要件」だからだ。
そういったサプリの安全性や品質を確保するための考え方は、食品衛生法に紐づく行政通知にも取り入れられている。
前述の「平成17年通知」を廃止、刷新するかたちで厚労省が今年3月に発出、現在は消費者庁が所管する「3.11通知」(令和6年通知)がそれだ。錠剤、カプセル剤等食品の「原材料の安全性に関する自主点検」及び「製品設計」(別添1)に続いて「製造管理及び品質管理(GMP)」(別添2)のそれぞれ基準を「指針」として示し、自主的に取り組むよう関係事業者に求めている。
全ての認証の土台に「3.11通知」
GMP管理などが義務付けられている指定成分等含有食品の法令も参考に作成された「3.11通知」を紐解くと、まずは原材料の安全性を自主的に点検する。次に、原材料の安全性点検結果を踏まえ、製品の設計を適切に行う。そして最後に、GMP管理で製品の品質を確保する──といったサプリの安全性や品質の確保に求められる基準だけでなく手順も示す作りの指針になっている。
また、原材料の安全性自主点検は、点検事項をフローチャートの形式で示し、ステップを順に踏みながら点検するよう求めている。そしてGMP管理を求めているのは製品に対してだが、原材料を対象外にしているわけではない。「望ましい」との弱い表現にとどめているものの、「適正な製造工程管理の下、一定の品質で常に製造されていること」とGMP管理を推奨している。
JIHFSが手がける一連の第三者認証は全て、「3.11通知」を土台に置く。その要求事項に応えられているかどうかを認証要件の基礎とする。
「3.11通知」の対象は、機能性表示食品を含む「錠剤、カプセル剤等食品」全般だ。機能性を表示するか否かを問わず、指針の要求事項に自主的に取り組むよう、関係事業者は求められている。そのうえで、同通知の別添2「製造管理及び品質管理(GMP)」は、機能性表示食品のサプリのGMP基準として法令(告示)に落とし込まれた。基準の遵守が、機能性表示食品の届出や販売の要件になる。別添1の「原材料の安全性に関する自主点検」及び「製品設計」についても、同様の措置が取られる見通し。
【石川太郎】
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