食品経営者フォーラムで唐木氏が講演 「安全だけでは人は安心できない」(唐木氏)
日本食糧新聞社(東京都中央区、杉田尚社長)は22日、第397回食品経営者フォーラムをホテルニューオータニ東京(東京都千代田区)で開催した。東京大学名誉教授で食の信頼向上をめざす会代表の唐木英明氏が「食品の安全と安心~現状と課題と欠かせぬ視点」と題して講演。オンラインでも配信した。
安心とは何か
安全の現状と安心の問題点について唐木氏は、食品の安全を脅かすのは化学物質と微生物の2つだとし、食品の安全を科学に基づいて安全なレベルまで下げるためには、規制値を下げる必要があると説明した。
また、化学物質による食中毒はほぼゼロだが、微生物による食中毒は非常に多い。これは、厚生労働省や農林水産省の規制に従って、食品メーカーが加工食品を作る際に添加物などの化学物質をうまく規制しているから。他方、飲食店や家庭で調理する生鮮食品に寄生している微生物はコントロールがうまくできず、食中毒はなかなかなくならないと述べた。
そのような現状がある中で「安心」とは何か。一言で言うと、「規制値を決める行政、それから食品を生産する事業者への評価が高いこと。信頼が高いこと」と説明し、行政や事業者に対する評価が低く、信頼がなければ、安心できないために「不安になる」と分析した。
ゼロリスクの誤解とは
また、不安になるかどうか、判断基準には個人差がある。個人差がある中で誤解による不安が非常に多い。誤解が最も多いのはゼロリスクの誤解。残留農薬も添加物も必要最小限しか入っていないのだが、それでもそういうものはゼロにしてほしい、少しでも入っていたら危険だという誤解がある。
誤解を生みだすのは情報。添加物がどのように危険なのか、農薬がどのように危険なのか、個人ではなかなか判断できない。ではどう判断するか、「これはメディアによる情報があって初めてそうなんだと理解することになる」とした。
唐木氏は、新聞・テレビ・SNSなどによる情報が正しいかどうか、時代によってもメディアによっても変わってくるものだと説明。安心ではない状況、すなわち不安がどのようにして作られていくのか、BSE問題、福島第一原発事故、ロシアによるウクライナ侵攻、中国産冷凍餃子事件、新型コロナなどをめぐる報道を例に引き、情報が作り出す不安にどう対処すべきか示した。
さらに同氏は、「安心とは何か。安全だけでは誰も安心しない。信頼という言葉が加わって初めて安心できる。最後は信頼を得た者が勝つ」とし、対話、ファクトチェック、リスク教育、事業者倫理などの必要性を説いた。
【田代 宏】