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小林「紅麹」培養をHACCPする 【寄稿】社内で丁寧に実施すれば「食の安全」は高まる

北海道大学名誉教授 ㈲ミクロバイオテック 代表 浅野 行蔵

小林製薬「紅麹サプリ」による健康被害の広がりを受けて機能性表示食品制度の見直しが進められている。改正法案を巡り、消費者委員会では政府の諮問を受けて、今月まで切迫した意見のやり取りが行われていた。ある委員はHACCPの実施によって事故は防ぐことができるかのような発言をした。しかし、HACCPを用いて具体的に何を行うかについては発言がない。「この事故は、形式的な制度の導入では再発を防ぐことはできない」という北海道大学名誉教授の浅野行蔵氏(=写真)。同教授は、消費者委で開かれた会議について、「キレイ好きなら事故を起こさない」レベルに下がっている議論に警鐘を鳴らす。

「HA」が安全の分かれ道

 HACCPで今回の健康被害が防止できるのか?
 質問を受けるとその答えは、YesでもありNoでもある。なぜなら、HACCPの基本を思い出してみよう。HACCPの原則1は、Hazard Analysis(HA;危害要因分析)部分の問題。HAを具体的に十分深められておれば、Yesとなる。他方、HAが形式だけで具体的な深掘りできなければNoとなる。HAが不十分だと、健康被害を防ぐのに必要な対策が漏れてしまい、Hazardの制御が不十分となる。
 HAができていない人は、「想定外の予期せぬ事故」と言う。HAができている人は、「想定内」で、事前の制御対策が取られている。HAが具体的にできているか、できていないかで、明暗が分かれる。HAには、ここまでで良いというゴールはないので、ひたすら具体的なHazardを見つけてゆくことになる。

紅麹はカレーライスとは違う

 HACCPは、「HA(危害分析)をしましょう」とか、「CCP(Critical Control Point;重要管理点)を決めましょう」とか、実施すべきことの項目は書かれているが、何をやれとは具体的なことは決められていない。その理由は、食品には色々あり、実に多様で、食材も多彩だし、調理方法も多彩だから、画一的に決められるものではないからである。
 事故を起こした紅麹サプリメントの場合も、他の食品と比べられないくらい異なっている。カレーライスを作る際のHACCPと全く異なるとは、簡単な想像で理解できる。
 どんな材料をどのように処理、加工して、どのような商品にするのか、それぞれの何段階もの工程を具体的に吟味していかない限り、安全を担保することは困難なのだ。
 この商品のHACCPは、カレーライスより相当難しい。そもそも、「紅麹を培養する」を想像できる人はごくわずかだろう。未知の食材といってもいい。このことは、保健所が査察に入っても、正しく加工工程を理解できない可能性もある、ということである。では、この食品のHAを始めてみよう。

立ちはだかる8つの危害要因

 紅麹(Monascus属糸状菌)を培養する。そもそも元になっている種麹(たねこうじ)は、どこから手に入れて、どのように保存しているのか? 本株は、他の微生物が混ざっていない純粋な株なのか? 保存はどのようにしているのか? 保存や植え継ぎの間に雑菌汚染はないのか? ファージに汚染されないか? 遺伝的変異は起こっていないのか? それらが正常かを確かめる装置や技術はあるのか? このように、培養する前からHAと「?」が8つも危害要因として上げられる。

 これらの危害要因を危害へと発展させない技術はとても高度なものとなっている。小林製薬の発表では、【Monascus pilosus NITE BP-412株を接種し、温度30℃、初期水分率42%で固体培養を開始した。培養温度は初期4日間を30℃、4日目以降を22℃として計43日間培養】と記載されている。
 この情報から判明したことは・・・(⇒つづきは会員専用記事閲覧ページへ。会報誌『ウェルネスマンスリーレポート74号』(8月10日刊)にも掲載予定)残り約3,800文字

<プロフィール>
京都大学農学研究科修了
1976年 協和発酵工業株式会社
1992年 北海道立食品加工研究センター
1999年 北海道大学農学部、農学博士、技術士(生物工学/総合技術管理部門)
2016年 (有)ミクロバイオテック 代表
<研究・受賞歴など>
新属微生物(放線菌、腸内細菌)の発見(土壌から、腸内から、万年氷から)
高香生成酵母育種、酒造用乾燥酵母開発など微生物の産業利用
1998年日本醸友会技術賞
2002年日本醸造学会伊藤保平賞
2012年日本技術士会会長表彰
2017年日本放線菌学会功績賞

関連記事:HACCPを正しく理解しよう!(前)
    :HACCPを正しく理解しよう!(後)

(文中の写真:紅麹を培養していた小林製薬の大阪工場)

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