科学的根拠の質、高める好機に(前) 日本健康・栄養食品協会、菊地・機能性食品部長に聞く
広告表示のみならず届出表示(ヘルスクレーム)の科学的根拠の合理性まで問われた先の機能性表示食品をめぐる措置命令を健康食品業界団体はどう受け止めているのか。問題の再発を防ぐために今後、業界へどう働きかけていくのか。(公財)日本健康・栄養食品協会(JHNFA、矢島鉄也理事長)の菊地範昭・機能性食品部長(=写真)が取材に答えた。前後編の2回に分けて掲載する。
──科学的根拠も含め、消費者庁が届出の中身を確認した上で公開しているにもかかわらず措置命令が行われたことに対する疑問の声が事業者から上がっています。「実質的に審査しているのに措置命令はおかしい」という意見ですが、どう思いますか。
菊地 事業者責任で表示を行う制度なのですから審査はしていません。届出資料の確認を行う食品表示企画課のマンパワーを考えても実質的な審査は不可能だと思います。確認はあくまでも外形的、形式的なチェックにとどまり、科学的根拠についても、届出資料に書かれている内容が論理的におかしくないかどうかだけを確認しているのではないでしょうか。ただし、新しい機能性表示に関してはかなり慎重にチェックしているはずです。社会に与えるインパクトが小さくないですから。しかし、これも確認であって審査ではないと理解しています。
──ヘルスクレームの科学的根拠が合理性を欠いているなどとして景品表示法違反(優良誤認)を認定した消費者庁の判断は正しいかったでしょうか。
菊地 正しいかどうかというよりも、これはサイエンスの問題だと思います。消費者庁は、合理性を欠くと判断した理由を部分的にしか明らかにしていません。よって、サイエンスとしてどこに問題があったのか、詳細を把握することが出来ません。そのため、会員企業などから多くの問い合わせをいただきましたが、明快な見解を示すことが出来ないのです。ウェルネスニュースグループさんが公開している措置命令に関する記者レクの動画がありますよね。現時点では、それが消費者庁の判断の理由を最も詳しく知ることの出来る情報源だと思います。だからまずはその動画を確認するよう薦めているのですが、それを見ても理由を十分に知ることは出来ません。我々としても、把握できていることは記者レクの範ちゅうにとどまります。
──問題視された研究レビュー(SR)に採用された論文を取り寄せて調べたそうですね。
菊地 一体どこに問題があったのかを自分なりに解析してみました。そのようにして初めて「なるほど、そういうことか」と理解できたところもあります。逆に言えば、そこまでしないと分からなかった。それでも結局は推測の域を出ません。
──措置命令を行った表示対策課に、公の場で理由を説明してもらう機会を業界団体として設ける必要がありませんか。予見可能性がないと多くの事業者が困惑しています。
菊地 記者レク以上の情報は出せないそうです。ただ、はき違えてならないのは、今回の措置命令のきっかけは広告であったということ。「血圧をグーンと下げる」という広告表示の根拠を調べるためには、当然、その表示について届け出された機能性関与成分のエビデンスを調べる必要がありますよね。それが他の2成分にも広がり、結果的に、措置命令に至ったということです。あくまでも広告が先で、その後にエビデンスという順番。ですから求められているのは、エビデンスを含めてしっかりとした製品を届け出て、発売後はちゃんとした広告を行うこと。それに尽きるのだと思います。
(後編につづく)
(聞き手:石川太郎)
『ウェルネスマンスリーレポート』2023年9月号(第63号)より転載
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