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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(2)

(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木 英明

<狩猟時代の病気とケガ>
 約20万年前に地球上に誕生した私たちの祖先は、約1万年前まで狩猟採集生活を続けていた。インドネシアやアマゾン地域で現在も当時と同じような生活をしている人たちを見ると、20~30人の集団を作り、女は食用になる植物を採集し、男は狩猟と戦いを担当し、2、3か月ごとに新たな食料を求めて移動している。

 それだけの人間を養う食料を得るには、広大な土地が必要だ。だから、隣接する土地で暮らす集団は縄張り争いを繰り返していた。狩猟採集時代の我々の祖先の骨を調べると、武器による傷が付いた骨が多く見つかる。それほど争いが激しかったのだ。

 また、妊産婦の死亡率も高く、出産は命がけだった。こうして誕生した乳幼児の半分以上が肺炎や感染症で死亡し、ゼロ歳児の平均余命は20歳台だった。医療がなく、医師もいない時代に、私たちの祖先は病気やケガにどのように対処していたのだろうか。この問題を考えるために、病気やけがを回復の程度で分類してみよう。

<治る病気と治らない病気>
 最初は「治る病気」だ。身の回りを見ると、風邪、頭痛、腹痛、骨折、打ち身、切り傷など、私たちが経験する病気やけがは多い。しかし、それらのほとんどはしばらく休養する間に、比較的簡単に治る。それは、私たちが持つ免疫の働きで病原体を殺し、自然治癒力により不調を正常に戻す「ホメオスタシス(恒常性)」という働きのためである。だから、これらの病気に薬は必要がない。国民皆保険制度がある日本では、医療費の自己負担が少なく、これらの簡単な病気でも病院に行く。それが病院の混雑、医師不足、病床不足、医療費高騰という医療崩壊を招くのだが、そのことは別の場所で議論する。

 2番目は「治らない病気」である。天然痘・コレラ・マラリアなどの感染症、事故や争いによる大ケガや大量出血、乳幼児の肺炎や妊産婦の分娩ショックなどは、免疫と自然治癒の範囲を超えることが多く、その場合には死に至る。医療や医薬品がない時代には、これらの病気にかかった時には、運を天に任せるしかなかったのだ。

<治らない病気は難病指定に>
 狩猟採集時代には、病気はこの2つしかなかったのだが、ごく最近になって、「治らない病気」の一部が「治療すれば治る病気」に変わった。抗生物質やワクチンなどの医薬品が開発されたためである。しかし、現在でも再生不良性貧血、全身性エリテマトーデスなど多くの病気が「治らない病気」として難病に指定されている。

 このように、狩猟採集時代の病気は「治る病気」と「命を失うかもしれない病気」の2つだったのだが、私たちの祖先は病気をどのように治療したのだろうか。

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

(つづく)

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