消費者を惑わす無添加表示(前)~巧妙なトリックはなくなるか!?
食生活ジャーナリストの会 代表幹事 小島 正美
今なお横行する「無添加」や「化学調味料不使用」といった紛らわしい表示をどう改善するかに向けて、消費者庁が動き出した。3月上旬、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン検討会」(池戸重信座長)が開かれ、ガイドラインの策定が始まった。今後、1年かけて検討されるが、果たして消費者を惑わす表示問題は解消されるのだろうか。
<「無添加」「不使用」51%が支持>
消費者庁の基本的な考えは2020年3月末にまとめられた報告書に示されている。そのなかでもメディアや消費者から大きく注目されているのは、「無添加」や「不使用」という表示にどこまで制限を加えるかという論点だ。昨年の報告書では結論が出ず、ガイドラインで対応することになっていた。
どういう表示が問題かといえば、例えば、おにぎりなどに「人工保存料無添加」や「合成着色料不使用」、食パンの包装紙に「乳化剤無添加」といった表示が見られる例だ。ではなぜ、こうした表示が問題なのか。
消費者庁が2017年に行った消費者意向調査によると、商品の購入選択時に51%の人は「同じ類の食品であれば、無添加や不使用の表示のある食品を買う」と答えた。その理由を聞くと73%の人が「安全で健康によさそうなため」と答えた。さらに37%の人は無添加や不使用表示に対して、「他の同様の商品と比較して、使用されている添加物が少ない印象を受ける」と答えた。もちろん無添加が安全で健康というわけではない。
<PH調整剤は「人工保存料無添加」>
このアンケート調査から言えることは、「○○無添加」や「○○不使用」は消費者の購入意欲を誘い出すことができるということだ。でも現実には、全く添加物を使わないと食品の保存性は低くなり、品質の安定も保てない。そこで、どうするかだ。
世の中には頭の良い人がいるものだ。「人工保存料を使っていません」と言いながら、別の保存剤を目につかないように隠して使えばよいわけだ。そんなトリックができるのか。それができるのだ。
たとえば、おにぎりなどの原材料欄を見ると「グリシン」や「PH調整剤」の表示がある。グリシンはアミノ酸の一種で、人工保存料ではない。だが、食品の保存性を高める作用がある。PH調整剤(クエン酸、クエン酸カルシウムなどの総称)も保存料ではない。だが、食品の品質を保ち、変色防止や保存性を高める作用がある。これらの保存目的の添加物を使えば、堂々と「人工保存料無添加」と表示して売ることができるのだ。こうして、まんまと消費者をだます手口がずっと使われてきた。
<PH調整剤は消費者ニーズか?>
「なぜ、こんな手口を使うのか」と複数の事業者に聞いたことがある。消費者が「無添加」を求めるので、そのニーズに応えているというのだ。消費者の無知が悪いのか、事業者の功名な手口が悪いのか、鶏か卵かの議論に似ているが、こういう悪循環を絶つことができるかどうかが今度のガイドラインで示されることになる。先の報告書をまとめた消費者庁の「食品添加物表示に関する検討会」(2019~20年)では、消費者を代表する委員のほとんどが「保存目的の添加物を使いながら、保存料不使用という表示は消費者を惑わすものだ」と言っていた。
ならば、「保存料無添加」という表示は禁止になってもよさそうだが、そこが微妙なのである。今回のガイドライン検討会の顔ぶれを見ると委員11人のうち、流通・事業者代表が4人もいる。私の見るところ、「無添加表示はなくすべきだ」と明確に主張している委員は2、3人しかいない。私の見方が外れることを期待したいが、無添加表示の禁止実現は難しいと予想している。
(つづく)
<筆者プロフィール>
1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局を経て1987年から東京本社生活報道部で食の安全や健康・医療問題などを担当。2018年6月に退社。
現在は東京理科大学非常勤講師。食生活ジャーナリストの会代表。著書に「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)など多数。
(冒頭の写真:小島正美氏、文中の写真:CVSで売られているおにぎりの表示)