新日本製薬、ヘルスケアを再育成 【九州のヘルスケア産業】中計に掲げた100億円規模、どう実現するか
東証プライム市場に上場している九州通販業界の雄、新日本製薬㈱(福岡市中央区)が健康食品をはじめとするヘルスケアの再育成に乗り出している。連結売上高(380億円=2023年9月期計画)の9割を占める化粧品に次ぐ柱に育てたい考え。22年を初年度、25年を最終年度とする中期経営計画において100億円規模まで引き上げる目標を掲げた。実現に向けてどう取り組むのか。後藤孝洋社長CEO(=写真)に聞いた。
──今期(23年9月期)のヘルスケア売上高は38億円を計画しています。残り2年で100億円規模にまでどう引き上げますか。
後藤 計画を上回る数字で推移しています。我々の言うヘルスケアとは、健康食品、健康オイルなどの食品(一般食品)、そして医薬品。健康食品に関して言えば、機能性表示食品を強化していくのが基本路線です。と言っても、いたずらにラインアップを増やすことはしません。フルラインアップを目指しているわけではないし、数に意味はないと思う。お客様にとって価値あるもの、魅力あるものをローンチしていきます。
第1に製品開発、第2にクリエイティブ開発。その2つが我々のヘルスケアの未来を決めていくと考えています。我々の強みの1つに、約600万人の顧客データベースに基づく消費者インサイトの把握と可視化があります。その強みを製品とクリエイティブの開発につなげ、お客様の日常に継続的に寄り添えるプロダクトを生み出していきたい。新しい発想やイノベーションも求められます。ヘルスケアに資する価値ある素材や製品をお持ちの企業には、ぜひ当社に売り込んでいただきたいとお願いしたい。
──もともと健康食品から事業をスタートしました。
後藤 そうです。ピーク時には、当時の売上高全体の9割に相当する70~80億円の売り上げがありました。2006年に発売したオールインワン化粧品が高く評価されたことで成長投資の優先順位が変わり、売上高に占める割合も逆転していきました。ですから今はヘルスケア(健康食品)の再構築を進めている最中。ビューティとヘルスをトータルにサポートしていけるようになることが、今後の我々にとっての最重要戦略です。
──足元では機能性表示食品の『Wの健康青汁』が好調です。要因は。
後藤 青汁は健康食品市場で王様のような素材。そのため各社がラインアップに加えていて、さまざまな差別化を図っている。その中で我々は、手軽に栄養補給ができるという青汁の特徴を残しつつ、機能性を付加する差別化を選択しました。パウダー形状の一般的な青汁である一方で、体脂肪などの減少サポート機能と、血圧を下げる機能の2つを同時に得ることができる。そうした特徴を直球でお伝えするクリエイティブ開発を行った事が上手くいったのだと思います。
──比較的若い世代にも買われていると聞きます。
後藤 デジタルマーケティングを展開しながらミドル層や30代以下への提案を進めた結果です。新規のお客様をEC(Eコマース)から多く獲得しています。新聞やテレビを媒体にしたオフラインの通販会社、主な顧客はシニア層、というのが当社のイメージだと思いますが、最近はデジタルマーケティングに特化するかたちでシニア層以外へのアプローチも強めています。成功事例が一昨年に発売した化粧品の『パーフェクトワンフォーカス』ブランド。20~30代をターゲットにした商品ですが、今期は前期比3倍の30億円を目指しています。いくつかの勝ちパターンを見いだすことができ、それをヘルスケア(Wの健康青汁)にも応用しました。
──機能性表示食品制度に対する評価を聞かせてください。
後藤 我々に限らないでしょうが、機能性表示食品は今、選択肢から外せない。絶えず選択肢にある。一方で、我々にとって最重要なのは、消費者にとって分かりやすい製品を生み出すことです。そこにおいて必要なのであれば機能性表示食品として届け出る、というのが我々のスタンス。その意味では、機能性表示食品ではないほうが良い、ということもあります。今年3月、『カラダささえるタンパク』というプロテインを新発売しました。機能性表示食品ではありませんが、おかげさまで非常に良い立ち上がりを見せています。主なターゲットであるミドル・シニア世代に対して、この商品の価値、つまり、たんぱく質を手軽に補給できるという価値をダイレクトに伝えることができたからです。
いずれにせよ、制度の発展を期待しています。届出が可能な機能性表示の幅が広がっていくと良いですね。まだまだ制約も多いですから、社会に浸透していくのもこれからでしょう。制度に対する本当の評価は、10年、20年経った時に初めて問われると思います。
──健康食品に対する足元の消費者需要をどう見ていますか。
後藤 コロナ禍の3年間で健康に対する意識が高まったのは明らかです。それはお客様の声を聞いての実感。逆に、コロナ禍が終われば健康への意識が低下してしまうのかといえば、そんなことはない。実際、我々のヘルスケアの売り上げも伸びています。コロナ禍での健康志向はどちらかと言うとネガティブなものだった。感染という不安に怯えながらの健康志向、とでも言いましょうか。しかし、それもここにきてポジティブなものに変化しつつある。不安の霧がさらに晴れ、健康で自由でありたいといったポジティブな志向を前提にした健康志向に移行していくと見ています。
──海外進出を考えていますか。化粧品は以前から海外でも販売しています。
後藤 それも選択肢の1つに入ったところです。越境ECと一般貿易の両方を視野に入れています。コロナ禍で動きづらかった面もありましたが、準備を進めてきました。国内で一定の需要を開拓できたもの、ブランド認知を確立できたものを順次、東アジアや東南アジアへ本格的に展開し、グローバルプレゼンスを高めていきます。
──ヘルスケアの事業を拡大するためにM&A(企業合併・買収)を行う考えは。
後藤 フラット・クラフト(主に健康オイルを展開するグループ会社)を21年に子会社化したのはそれが目的でした。健康食品や医薬品だけでなく、ウェルネスフード事業として「食」の領域からもヘルスケアを拡大していこうと。19年に株式上場したことでM&Aの選択肢を持てるようになりました。今後も、ヘルスケアの領域で魅力ある製品を扱う価値ある企業との出会いを積極的に作っていきたいと思っています。
──ヘルスケアの拡大を表示規制が阻むかもしれません。どう対応しますか。
後藤 過剰な広告表現、悪質な販売手法など、製品ではなく販売者の姿勢が問われるケースが増えている。それを規制しようと、既存のルールが全面的に見直されるような動きが強くある。その煽りを受け、正常な商いを行っている企業にまで影響が生じている。今はそのような状況だと思います。しかし、ヘルスケアは今後間違いなく成長していく市場なのです。ですからそこに展開している事業者には、ほかよりも強く、商いの姿勢が問われることになると理解しています。ですから、個々の企業が意識を高めていくしかないのでしょうね。一方で、健康食品などのヘルスケアには、業界全体の健全化と安定化を目指す自主規制団体が見当たりません。私はそこに疑問を感じます。医薬品にはOTC医薬品協会、化粧品には化粧品工業連合会があるように、ヘルスケアでも自主規制団体が必要なのではありませんか。
──ありがとうございました。
【聞き手・文=石川太郎】
『ウェルネスマンスリーレポート』2023年7月10日号(第61号)より転載
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