小林製薬問題、「制度の問題ではない」 唐木東大名誉教授、科学技術ジャーナリスト会議で提言
日本科学技術ジャーナリスト会議(室山哲也会長)は19日夕、東京大学名誉教授の唐木英明氏(=写真)を講師に招き、小林製薬㈱(大阪市中央区)の紅麹サプリメント問題をテーマにした勉強会をオンラインで開催した。唐木名誉教授が代表を務める「食の信頼向上をめざす会」との共催。この問題は科学技術ジャーナリストらの間でも関心が高く、約130人が参加した。
問題の背景、「制度設計の甘さではなく製造・品質管理」
唐木名誉教授は講義で、これまでに分かっている事実と、事実から理論的に導き出される仮説を踏まえて問題を詳しく解説。同社が販売していた機能性表示食品のサプリメントと腎機能障害との因果関係は強く疑われるものの、「今のところ原因はほとんど分かっていない」と伝えた。
ただ、問題となった製品に配合されていた、小林製薬が製造していたサプリメント用紅麹原材料の生産工程のどこかで、異物が入り込んだこと自体は「疑いようがない」とし、同社の「安全文化」を疑問視した。
また、今回の問題を受け、機能性表示食品制度に疑いの眼差しが向けられていることに反論した。今回の問題の背景にあるのは制度設計の甘さではなく、「製造工程管理にあることが理解されていない」としつつ、製品との関係が疑われる健康被害の報告件数は、むしろ機能性表示食品以外のいわゆる健康食品のほうが「明らかに多い」と指摘。機能性表示食品の安全性に関する緊急点検を行う一方で、いわゆる健康食品に対してそれを行おうとしない行政の対応に疑問と不満を示した。
消費者庁が緊急で事業者に求めた、機能性表示食品の安全性に関する自主点検では、2週間程度の短い期間で、点検対象となった届出全体(約7,000件)の9割を超える回答が集まった。唐木名誉教授は、「(製品に関する情報を消費者庁へ)届け出ているからこそ出来ること。(届出せずとも販売できる)いわゆる健康食品では不可能だろう」と述べ、届出制が採用された機能性表示食品制度の意義を伝えた。その上で、今回の問題をきっかけに巻き起こった風評で、売上が減少していると伝えられている機能性表示食品の行く末を案じた。
再発防止、法律による規制が必要
「そもそもの問題は、錠剤やカプセルの形状を持つ健康食品(サプリメント)を規制する法律がないことだ」。唐木名誉教授は今回の問題の背景についてそう解説した。
その上で、問題の再発を防止し、消費者からの信頼を取り戻すためには、法律に基づき、医薬品と食品の中間に、健康食品の存在と役割を定義付けた上で、米国のダイエタリーサプリメント制度のように、健康食品にはリスクとベネフィットの両方があることを消費者に伝えていく必要があると強調した。
また、一般加工食品の領域ではサプリメント形状の食品の製造・販売を禁じ、それを認めるのは、新規成分の安全性確認、GMPに基づく製造・品質管理、健康被害情報の報告などを制度化した機能性表示食品などの保健機能食品に限定する、などといった思い切った手立てを講じる必要があると訴えた。
唐木名誉教授は今回の講義の中で、濃縮した抽出物や食経験が少ない成分などといった通常の食品とは異なる成分を配合し、錠剤やカプセルなどといった形状を持つ健康食品(サプリメント)を規制する法律の必要性を繰り返し訴えた。「健康食品はセルフメディケーションのツールとして重要」と考えているためだ。
講義を聞いた日本科学技術ジャーナリスト会議の室山会長は、「(健康食品に関わる制度や分類などを)もっと分かりやすくして欲しい。市民が口にするものが、市民が意識できない向こう側にあるのが非常に良くない。行政側の問題もある。ダイナミックに広がってきた食品をもう一度、市民側につなげていくシステムが必要だということがよく分かった」と感想を述べた。
【石川 太郎】
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