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寄稿「改正ガイドライン」に思うこと

東京大学名誉教授 食の信頼向上をめざす会 代表 唐木 英明

 今回の改正はPRISMA 声明(2020年)への対応であり、SRの質の向上に資するものと思う。ただし、重要なことはSRで取り上げる論文の質である。国内で実施する臨床試験についてはUMIN登録を義務付けているので、最近発表される論文の質は向上しているものと考える。しかしSRで取り上げる論文の多くは以前のものであり、その質には疑問があるものもある。ガイドラインでは「査読付き」であることやバイアスリスクについて記載しているが、そもそも厳密な査読が行われた形跡がない論文が散見されることなどについて、ガイドラインにそこまでは書き切れない。
 要するに、ガイドラインやQ&Aに書いてない「科学の基本」に関する重要事項がたくさんある。「書いてないからいい」などと言って、科学の常識に反することをすると、措置命令を受けかねない。届出者が明確なTotality of evidenceの考え方を持つことが、ますます重要になると考える。

変化率を群間差とする問題の解消
上記について意見を述べたが改善されていない。

別紙様式 (V)―12a
非暴露群と暴露群について、それぞれの前後の値から平均差を求め、両群の平均差を比較してp値と信頼区間を計算するようになっている。

 本来は非暴露群と暴露群の試験前値に差がないことを確認したうえで、試験後値に差があるのかを検定すべきである。最も優先されるべき測定値を前後差に変換する場合には科学的根拠が必要だが、そのような概念が抜け落ちている。

製品用量と試験用量の関係の明確化
上記について意見を述べたが改善されていない。

 製品用量と試験用量の関係については、ガイドラインp35に「サプリメント形状の加工食品を販売しようとする場合は、摂取量を踏まえた臨床試験(ヒト試験)で肯定的な結果が得られていること、また、その他加工食品及び生鮮食品を販売しようとする場合は、摂取量を踏まえた臨床試験(ヒト試験)又は観察研究で肯定的な結果が得られている必要がある」との記載があるが、「摂取量を踏まえた」とは全く同一の摂取量なのか、ある程度の範囲があるのかについては記載がない。6月30日に行われたさくらフォレスト㈱に対する措置命令の悦明では、製品用量より低い試験用量で有効性が示されていることを条件としたが、両者の数値的な乖離の許容度については説明していない。

 他方、p10には「機能性関与成分の一日当たりの摂取目安量を同等量以上含む食品について一定期間の喫食実績があること」との記載があり、p11には「なお、機能性関与成分については、届出をしようとする最終製品の一日当たりの摂取目安量に含まれる当該成分の量以上(サプリメント形状の加工食品については摂取量の5倍量、その他加工食品及び生鮮食品については摂取量の3倍量まで)の場合における健康被害情報を確認する」との記載があり、摂取量と健康被害量の関係を明確にしている。
 このままであれば、製品用量と同一の試験用量を採用した論文しか利用できないことになるが、現実には製品用量と差がある試験用量の論文が届け出られている。このような問題を解決するために、製品用量と試験用量の関係の明確化が求められる。

プラセボ対照試験の義務化についてのガイドライン本体とQ&Aの齟齬の解消
上記について意見を述べたが改善されていない。

ガイドラインp31の記述
(3)臨床試験(ヒト試験)に係る提出資料
1 臨床試験(ヒト試験)に関する査読付き論文
臨床試験(ヒト試験)の結果について、その内容を誰もが適切に評価できるよう、国際的にコンセンサスの得られた指針(本ガイドラインの施行時において、ランダム化並行群間比較試験については CONSORT 2010 声明が該当する(別紙3参照)。原則として、最新版の国際指針に基づく必要がある。)に準拠した形式で査読付き論文として公表された論文(査読を経て採択された後、公表準備段階(印刷中(in press)等)にある論文も含む。なお、公表後は速やかに公表論文を提出すること。)を提出する。(略)このほか、科学的合理性が担保された、特定保健用食品とは異なる試験方法を選択した場合については、その合理的理由を別紙様式(V)-2に記載する。

問45 ガイドラインにおいて、「本ガイドラインにおける「臨床試験(ヒト試験)」は、「特定保健用食品の表示許可等について」(平成26年10月30日付け消食表第259号消費者庁次長通知)の別添2「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」で規定する「ヒトを対象とした試験」を指す。」とあるが、機能性については、試験食摂取群とプラセボ食摂取群との群間比較の差(有意差検定)で評価する必要はあるか。

答 最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)を科学的根拠とする場合は、特定保健用食品と同様に試験食摂取群とプラセボ食摂取群との群間比較により肯定的な結果が得られる必要がある。

 この問題が解決しない理由の第1は、プラセボ対照試験以外の試験に関する具体的な情報がないためであり、今後、無処置対照試験の科学的合理性についての検討を行うことが必要と考える。
2番目は、現在の届出はすべて過去のプラセボ対照試験を根拠にしている。新たな試験法を採用しても、その論文が世に出て根拠資料に使われるまで時間がかかるだけでなく、消費者庁がその論文を認めるのかについての疑念がある。この問題を解決するためにも、第1の課題を解決する必要がある。

<プロフィール>
農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長などを歴任。現在は食の信頼向上をめざす会代表。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。

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