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寄稿③「食の安全」を振り返る フードディフェンスに穴、一度定着した習慣の継続を

㈱香雪社 代表取締役 齋藤 訓之 氏 

いたずら動画が営業形態を動かす

 とくに外食業に関心を向けている筆者にとって、2023年は回転ずし店での客の迷惑行為で明けた印象がある。「はま寿司」店舗でのいたずら動画が拡散して騒ぎになったのに続いて、「スシロー」店舗での別な者のいたずら動画が拡散した。

 一般のメディアでは、いたずらをした者の素行や、企業の彼らに対する対応に視点を置いた報道が多かったが、これらは回転ずしはフードディフェンスに穴があるという、この業態フォーマットが抱えていた瑕疵を明らかにしたという意味で重要な事件であった。“いたずら”は、「わさびを乗せる」「食器に唾液を付ける」などであったが、それはより危険な毒物等を混入することが可能な状態であることを示していた。事件後、回転ずし各社がレーンに商品を流しっぱなしにするのを廃止するなど、営業形態を根底から変えてしまうような改善に動いたことは、事の重大さの現れと言えるだろう。

 フードディフェンスについては、22年に開催が予定されていた東京オリンピックに向けて、食関連各社が神経を尖らせ、管理強化に動いていたが、コロナ禍の中で全くないがしろにされた部分もある。急激に成長した食事の宅配、とくに「Uber」のようにギグワーカーによって宅配を請け負うタイプでは、配達者に対するトレーニングや衛生・安全教育が行われていないものが一般的だ。これまでにも国内外でつまみ食いなどの迷惑行為が報告されているが、より重大な事件が起こり得る状態にあることは否めない。

 一方、コロナ禍に対応する中では、従業者に加えてお客も手洗いなり手指の消毒を励行するようになった点は食の安全面で大きな進歩だった。その動機はもちろんコロナウイルスの除去だったが、結果的に一般的な風邪やインフルエンサ対策にもなっただけでなく、食中毒予防にもつながったと考えられる。

 厚労省の統計によれば、食中毒の患者数は、コロナ禍前の19年に1万3,018人だったのに対して、20年は1万4,613人といったん増えたが、21年には1万1,080人に減少し、さらに22年には6,856人まで減少した。23年は最新事例が11月17日となっている速報のまとめによれば6,714人で、12月に大きな事件がなければ前年と同水準になりそうだ。

基本的な管理の再度徹底を

 近年の食中毒事件で患者数が最も多い傾向が見られるのはノロウイルスだ。これは従業者など店内からの感染もあるが、客が持ち込む場合も無視できない。そのノロウイルスによる患者数が19年に6,889人だったのに対し、22年には2,175人に減少した。23年の先の速報では3,914人と前年より増えたが、19年以前には年間4,000は下らず1万を超えることも珍しくなかった中では、低い水準に抑えてきていると見ることができそうだ。一概には言えないが、手洗い、手指消毒の好影響はあるだろう。加えて、飲食店や惣菜店でのバイキング形式の提供はやはり感染症対策のなかで縮小傾向にあり、これによる事件減少もあったと考えられる。

 さて、新型コロナウイルス感染症の猛威が収まる方向に見え、これからさらに食市場を再び活性化させようというこの段階で重要なことは、一度定着した習慣なり獲得した知識と行動を忘れずに続けるための活動を始めることだ。
昨年後半に話題になった食中毒事件には、青森県の駅弁、石川県の流しそうめんなどでの事例があった。前者では温度管理不徹底な米飯でセレウス菌増殖があったことが、後者では塩素処理装置が故障したかもしれないのに水質検査をしなかったことが、事件につながったとされる。これらはいずれも食提供の現場では基本的な管理であるのにも関わらず、行われなかったということだ。

 11月には最終的な加熱調理を客に行わせるタイプの外食チェーン「ペッパーランチ」の大分県と鹿児島県の店舗で食中毒が発生し、O157が検出されている。しかし、外食業に携わる者にとって、1993年米国で発生した「ジャック・イン・ザ・ボックス大腸菌集団感染」は腸管出血性大腸菌というものを世に知らしめた衝撃的な事件であり、挽肉を使用した食事が過熱不十分で提供された場合にどれだけ恐ろしいことが起こり得るかを示す重要な記憶であった。ところが、あれから30年経って忘れられ、そもそも知らないという人も増えている。

 重要な基本も過去の重大な出来事も、手を打たなければ忘れられる。

<プロフィール>
1964年、北海道生まれ。中央大学文学部卒業。市場調査会社勤務、『月刊食堂』(柴田書店)編集者、『日経レストラン』(日経BP社)記者、日経BPコンサルティング「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、『農業経営者』(農業技術通信社)取締役副編集長兼出版部長を経て独立。2010年株式会社香雪社を設立し、食ビジネスの情報サイト「FoodWatchJapan」を運営。農業、食品、外食の分野を中心にビジネス誌に記事を執筆し、書籍のプロデュース、編集も行っている。

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