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セルナーゼ事件(7) 健康食品広告・表示の「判例」解説

赤坂野村総合法律事務所 共同代表 弁護士 堤 世浩 氏

<通常人の理解を判断基準とする考え方>

本件でも第一審・控訴審共に、連載の第6回で述べた最高裁判決の考え方を踏襲した判断を行った。前述した「つかれず」事件では、法2条1項2号(人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物)に該当するかどうかが問題となったのに対し、本件では法2条1項3号(人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物)が問題となったため、最高裁判決を本件にそのまま当てはめてよいかどうかも問題となった。だが、控訴審判決は「医薬品該当性の判断を通常人の理解という観点から検討するという解約基準は、本件についても参考になるべきものである」と述べ、これを肯定した。

もっとも「つかれず」事件では、健康食品の「販売段階」における医薬品該当性が問題となったのに対し、本件では「製造段階」における医薬品該当性が問題となり、対象となる段階が異なっている。

製造段階では、販売段階と異なり、通常人(一般人)の関与は想定されない。そこで、製造段階においても販売段階と同様に、「通常人の理解」を判断基準にできるのかという疑問も生じ得る。しかし、控訴審判決は「製造時に存在する事情を基礎としつつ、その製品がどのようなものとして一般消費者に販売されることになるかなど、製造時に想定される販売方法や販売の際の演述・宣伝など、一般消費者が入手する段階の事情も考慮して判断すべき」との解釈基準を示した。製造時において想定される「一般人がその商品を入手する段階における事情」も考慮の要素に含めることにより、通常人の理解を判断基準とする考え方を一貫した。

その上で、控訴審判決は『セルナーゼ』について、痩身効果をもたらすこと(人の身体の構造または機能に影響を及ぼすこと)を目的とするものとして製造されたことは明らかであるから、製造時において「痩身効果が期待できる旨の宣伝、広告がなされること」(人の身体の構造または機能に影響を及ぼすものとして宣伝、広告がなされること)は当然予定されていたと認定し、医薬品該当性を認めたわけである。

<「頼まれたものを製造するだけ」では済まされない製造者のリスク>

ある健康食品が医学的効能効果を宣伝・広告して販売されることが製造時に「想定」される場合、そのことも考慮して医薬品該当性を判断することは妥当な判断と言えるが、いかなる場合に「想定」できるとされるかは、ケースバイケースの判断にならざるを得ない。

本件では、企画発注段階のX1(製造業者の代表取締役)とY(ダイエット食品などの企画・卸売業者)の間のやり取り、X1が作成し交付した本件企画書(『セルナーゼ』の説明資料)の内容から、『セルナーゼ』が人の身体の構造または機能に影響を及ぼすことを目的として製造されたことを容易に認定できたため、販売時にも当該効果が宣伝・広告されることを比較的容易に「想定」できる事案と言えた。

もっとも、仮に本件企画書が存在しない場合でも、企画発注段階のX1・Y間のやり取りのみによっても、製造時に「想定」できたと認められた可能性は十分にあったのではないかと思われる(もちろん、本件企画書の存在がX1の立件を後押しした側面は大いにあるだろう)。

健康食品の製造を委託する側(販売業者)が、販売時の宣伝・広告に注意しなければならないことは当然であるが、製造を受託する側も、(客観的な薬効の有無にかかわらず)医学的効能効果を目的とした(と疑われる)商品の製造を依頼された場合には、「自分たちは頼まれたものを製造するだけ。後のことは知らない」という考えでは重大なリスクを抱え込むことを再認識し、交渉段階・取引段階を通じて、販売時の宣伝・広告を視野に入れた自己防衛策を講じておくべきだろう。

(了)

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