ドラッグ店サプリ市場、前年比2割減 小林製薬紅麹問題、健康食品業界全体への打撃懸念
消費者庁が24日にオンライン開催した「機能性表示食品を巡る検討会」の第2回会合。この中で示された1枚のスライドが、健康食品業界関係者に驚きと緊張感を与えている。
前年同期比マイナス18%──小林製薬㈱(大阪市中央区)が販売していたサプリメントによる健康被害が明らかになった後、ドラッグストアでの健康食品の売り上げが、前年の同じ時期と比べて2割近く落ち込んでいたことが明らかになったためだ。問題となった同社のサプリメントは、ドラッグストアなど店頭販売チャネルを主要販路としていた。
19日から始まった検討会の2回目の会合では、健康食品業界団体や消費者団体、計6団体のヒアリングを実施。この中で、(公社)日本通信販売協会(JADMA)が、小林製薬の紅麹問題で生じた風評被害の実例として、ドラッグストア健康食品市場の落ち込みを示すスライドを示した。
小林製薬が問題を公表した3月22日の翌週、ドラッグストアにおける健康食品購買金額は前年同期比で10%のマイナスになった。以降も減少が止まらず、4月8日の週は同18%減と2割に迫る落ち込みを見せたという。購買データ分析の㈱True Data(東京都港区)が全国ドラッグストアのPOS売上高を調べた。
通販市場でも、定期購入の解約が相次いだとされる。ある事業者は、「数100件の問い合わせのうち半分が定期の解約の申し入れだった」と明かす。
サプリメントなど健康食品の市場規模は1兆円超とみられている。2015年4月の機能性表示食品制度施行以降、健康食品市場全体に占める機能性表示食品の割合が拡大していった。
ヒアリングでJADMAの万場徹専務理事は、「仮に、年間で1割減とすると、サプリ市場規模は1,000億円マイナスの状況になる」と説明。それだけでなく、原料、加工、広告、販売、物流などといった健康食品をめぐるバリューチェーン全体に負の影響が生じる。その結果、政府が進める賃上げや雇用維持にも影響しかねないため、「マイナスの影響は全体で数千億円の規模になりかねない」と指摘した。「サプリメントを販売したり、製造したりする企業は地方にも多い。地域経済にも悪影響の出ることが非常に懸念される」
信頼回復のために、消費者の不安に寄り添う
24日、25日に都内で開催された健康食品関連の展示会。「業績に影響が出ないとは考えていない」。原材料事業者や最終製品の受託製造企業など業界の川上企業も先行きを覚悟する。現時点で業績への直接の影響は生じていないものの、進行中だった新規製品の企画・開発案件が止まったり、予定していた受注が立ち消えになったりといったマイナス影響が生じている。
今必要なことは、「原因を明らかにすること、再発防止策を講じること」。JADMAは検討会のヒアリングで提示したスライド資料にそう記述し、「消費者の不安に寄り添い、正確な情報をお伝えし、具体的な改善策を提示して、安心と信頼を取り戻す」とした。ある業界関係者は「業界が一丸となって取り組まない限り、信頼回復は難しい」と指摘する。
26日付の朝日新聞朝刊。「『菌のチカラ』を信じている」とうたう全面広告が掲載された。「菌は人類が誕生した時から、ずっと一緒に生きてきた。腸の中で、たくさんの菌が健康のために働いてきた。これからも、ずっと共に生きていく」と続く。
アサヒグループ食品㈱(東京都墨田区)が運営する「カルピス健康通販」の広告だ。同社も消費者の不安に寄り添う姿勢を見せる。この広告を出稿した理由について、親会社のアサヒグループホールディングス㈱(同)を通じた取材にこう答えた。
「当社が今まで培ってきた『菌・乳酸菌』の研究への想いと、製品の安心・安全に対する取り組みをお客様に新聞広告という形でお伝えすることで、現在、当社商品をご利用いただいているお客様、今後ご使用を検討していらっしゃるお客様、過去にご利用いただいていたお客様に、今後も健康維持の一助として安心して商品をお選びいただきたいという想い。コールセンター番号も(広告の)下部に大きく記載し、ご不安なお客様がいらっしゃれば丁寧にご対応をしていきたいと思っている」
【石川 太郎】
関連記事:「巡る検討会」第2回 安全性に照準、「法令化が必要」と座長
:風評被害はどこまで広がるのか(1) 小林問題発覚後、相次ぐキャンセル
:風評被害はどこまで広がるのか(2) 発売延期も~OEM受託メーカーのケース
:風評被害はどこまで広がるのか(3) 黒酢のえがお、全国紙に全5段広告を出稿
:風評被害はどこまで広がるのか(4) 巻き込まれた無関係の機能性食品素材