エビデンス入門(68) 評価方法の妥当性検証
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授 竹田 竜嗣
ヒト臨床試験を実施するにあたっては、さまざまなデザインを検討する。機能性表示食品制度が始まってからは、新しいヘルスクレーム取得を目指す販売者や原料メーカーも多い。 「健康増進」という大きな縛りはあるが、表示できる機能性は工夫次第で大きく広がっている。機能性表示食品制度では、最終的にはプラセボなどの対照を設定したヒト臨床試験によって、試験食品との群間差をもってエビデンスの有効性を担保する。
新しい領域のヘルスクレームを目指す場合、既存の評価方法だけでは表現できないことも多い。これまでに出版された論文を探し評価方法を模索することになるが、論文として公表する以上、評価方法の妥当性については十分な検討が必要になる。たとえば、主観的な評価指標を取り入れる場合は、それぞれ既存の質問票が確立されていればその質問票を用いることになる。また、VAS法は主観的評価方法として妥当性が示されていることからオリジナルの質問の作成も可能な手法になる。主観評価については、妥当性が評価されている手法も多いため、あまり悩む必要はない。
注意点としては、海外の質問紙を用いる場合である。ただ、翻訳すればいいだけではなく、言語の違いによる微妙なニュアンスの違いが評価に大きく影響することがある。日本語版が作成されすでに検証されているようであれば問題はないが、日本語版が存在しない新しい質問紙を用いる場合は、十分に注意する必要がある。また、質問紙は、著者に許諾が必要なケースもある。海外文献から質問紙を用いる場合は、著者に使用の許諾の必要性や制限を確認してから日本語版を作る必要がある。日本語版が作成できた場合、一度パイロット試験などで使用してみて、使い勝手や得られたデータについては、既発表の文献との一致度などの妥当性を検証してから用いることが望ましい。
通常、これらの作業は年単位で時間が必要なケースがあり、留意する必要がある。主観的評価以外の方法でも、妥当性の担保は必要だ。試験デザインを検討する際は、評価のポイント(時間、期間)や回数、何らかの負荷を取り入れて評価すべきかなど検討が必要である。特に臨床検査などによって生体マーカーを評価する場合は、医学的な位置づけや健常者や病態者の値の範囲を確認するなど、評価手法として妥当なのかについて十分説明できるよう確認してから試験デザインを組む必要がある。
(つづく)
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<プロフィール>
2000年、近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年、近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年、博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科。
専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学と物質の研究から、細胞、動物試験、ヒト臨床試験まで多岐に渡る研究歴がある。特に食品・医薬品の臨床研究は、大学院在籍時より携わった。機能性表示食品制度発足時から、研究レビューの作成およびヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる。
2023年1月、WNGが発信する会員向けメルマガ『ウェルネス・ウィークリー・レポート』やニュースサイト『ウェルネスデイリーニュース』で連載した「エビデンスの基礎知識」が100号に達したのを記念し、内容を改めて編集し直し、「開発担当者のための『機能性表示食品』届出ガイド」を執筆・刊行。