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これでいいのか?日本の健康食品制度(5) 【座談会】業界に将来はあるか? 消費者が期待するものは?

唐木 日本の職人文化とか、あるいは老舗文化というのが消えてしまったおかげで、マニュアル文化にならざるを得なかったという、そういうことですよね。

食品とサプリは明確に違う 同基準だと弊害も

武田 基本的には日本は性善説だと思うのですけれど、欧米が性悪説に基づいてルールを作っていると思うんですね。
 ただ一点だけ、サプリメントと一般食品をきちんと分けないと、新規原料の扱いとかで矛盾が出てきます。例えばEUのノベルフードですと、フードサプリメントでしか使ってない原料を一般食品に使うときはノベルフードということで新たに安全性の評価をしなければなりませんし、アメリカであれば新規ダイエタリーサプリメント成分(NDI)から、一般食品へ拡大させるにはGRAS確認が必要ということが基本的なルールになりますので、食品とサプリメントでは求める安全性のレベルなどの要求度が違ってくる。
 食品とサプリメントを同じ基準でその安全性を評価するということは、ゆくゆくは弊害が出てくる可能性があるのではないでしょうか。

唐木 サプリと食品は明確に違うという法的な裏付けがあればいいんですけれども、食品でありながら健康食品だけを厳しくするという根拠を示すことは難しいですね。

安全管理のマニュアル化は大事なポイント

大曲 おっしゃるとおりで、結局のところは、私も前職ではGMPを運用していた側の人間でしたので、上司から叩き込まれたのは、結局マニュアルは何のために作るのかという時に、全く分からない人間でも、とりあえずこれを読めば求められる品質のものが担保でき、そうした商品が作れるのだというところがまず大前提としてあります。
 もちろんその中には習熟度管理とかいろんな細かなところはあるのですが、大前提としてやるのはそこだと教え込まれていて、マニュアル化というのは非常に大事なポイントじゃないかと思います。特に外国人労働者などは地方の工場に普通に働いているので、なおさら必要だと感じています。

唐木 しかもマニュアルをきちんと作って、きちんと訓練すれば、羽田で日航機が衝突しても全員が助かるという大きな効果があるということですよね。GMPもHACCPも必要な世の中になってきた。世の中の要求ということですかね。

原 唐木先生が言われるとおり、職人技といいますか、そういった食品製造に造詣が深い方々が少なくなってしまったというのを感じながらも、まだまだモノ作り日本の、食品加工技術ですとか、伝統というのは失われてない部分もあると感じます。もう1つの要因としては、消費者が玉石入り混じった大量な情報にさらされている現状があるかと思います。昔に比べて簡単に風評被害を生み出してしまったり、簡単に誤った情報、もしくはその中に正しい情報が埋もれてしまったりすることが多くあると思います。

基準作りやGMPの運用が消費者を守る

原 今回、健康被害情報の収集における課題の中でも、実際に行政との意見交換の中でお話をさせていただいたのは「件数」じゃなくて「中身」が大事ですよということ、20件しか上がっていないからもっとあるだろうというところが議論の入口だと間違えてしまう。
 本当に検証すべき健康被害というのが、いわゆる軽微な健康被害の中に埋もれてしまう可能性が十分にあるので、フォーマットをはじめとするその運用というのは非常に大事で、本当に検証すべき、厚労省として把握すべき情報を正しく吸い上げられる仕組み作りというのをしっかりと考えましょうという話をさせていただきました。
 事業者団体が自主基準として、どんどん襟を正して、製造・品質のハードルを高くしていく理由の1つとして、事業者がそういうモノ作りに対して責務を果たしているということをマニュアルとして外部に表現をしていくという側面もあるのかなと思います。実際に何かしら疑義が出た際に、そういった疑義が起きないようなシステムを運用して我々はモノ作りをしていますと言えることが、最後に我々の事業を守る、また我々の市場や消費者を守ることにつながるのではないか。

 サプリメントの法制化が必要かどうかという議論にもつながると思いますが、法令があると我々は自分たちの行動を縛ることになるのですが、そういった中でしっかりと外枠を作ることで事業者がそのラインを守ることができ、法令を遵守することができるということが非常に大事なことだと思います。法令を作り上げていくための基準作り、そしてGMPの運用を考えるということは事業者を守る、消費者を守るための大きな柱にはなると考えます。

唐木 原さんがおっしゃる消費者というのは大変大事で、GMPが広がるのかどうか、多くの事業者がこれやらなくちゃいけないと思うのかどうかは、消費者がどう思うのかが非常に大きいですね。しかし消費者は、この健康食品はGMP準拠の工場で作っているかどうか、誰も気にしていない。そこのところをどうするのか、これも大きな問題ですが、どうお考えですか。

原 そうですね。実際に厚労省や消費者庁も、ホームページにパンフレットを掲載したり、HFNetで情報提供を頑張っていますという話はされるのですが、実際に見てみると、厚労省のホームページに掲載されているパンフレット「健康食品の正しい利用法」では、古い健康食品の定義に基づく分類のパンフレットが掲載されている。
 地方自治体のホームページでも新旧のパンフレットが混在しています。未だにこういう状況で消費者が正しい理解ができるのかという点については、少なからず疑問を抱くところです。正しい消費者教育という点では、行政だけではどうしても行き届かないところもありますから、アカデミアのご意見を聞きながら、行政と業界団体がしっかりと二人三脚で取り組んでいく姿勢が望ましいと思います。

唐木 そのとおりですね。この事故はGMPをやっていたら防げたのだというような、羽田の航空機事故のように明らかな例があれば消費者の皆さんも納得できるのでしょうが、なかなかそれがない。

大曲 転ばぬ先の杖というのは難しいですね(笑)

唐木 リスク管理というのは常にそういうところがあって、何かあった後にはやっといてよかったということになるけれども、何もないときには無駄金使ってどうするということになりかねない。大きな問題ですが、これは消費者教育の問題なんですかね。

原 そうですね。実際に製造コストという点では、管理レベルをどんどん上げていけばコストにも反映されてしまいます。ただ、消費者のニーズ、懐事情としてはやはり安価なものがいいとの意見も多いと思います。成分がたくさん入っていた方がいいみたいな考え方を、製品全体のバランスの中で有効性はもちろんですが、安全性も同じぐらい商品の価値として大事なんだいうことを事業者も行政も消費者に伝えていかなければならないと思います。

唐木 そうですね。それでは最後の話題に移ろうと思います。最後は将来展望という問題です。機能性表示食品をはじめとする保健機能食品制度の将来性についてどう考えるか、消費者は何を期待しているのか、業界の役割はどうなのか、それから皆さんの具体策があればお聞かせください。

近いうち必ず、保健機能食品内の整理が必要になる

武田 保健機能食品制度の将来を考えるに当たっては、近いうちに必ず、保健機能食品内の整理が必要になってくると思います。トクホと機能性表示食品、栄養機能食品の位置付けというのは必ず議論しなければならなくなります。その時に、国の健康栄養政策は「日本人の食事摂取基準」の策定などにおいて厚労省が所管していますが、他方、機能性表示食品制度では食事摂取基準が策定されている成分は対象外とするという部分で、国の健康栄養政策と乖離している部分があると考えます。
ですから、あくまでその食事という枠組みであれば食事摂取基準を重視することが重要だと思うのですが、ダイエタリーサプリメントというのは、食事を補うものであるので、そこから外れてもいいはずなのです。その外れたところで、エビデンスがあればヘルスクレームをしても良いというのが海外の考え方です。保健機能食品制度を考え直す上でも、サプリメントという枠組みは避けて通れない。それがグローバル展開にもつながっていくと思います。

社会的な役割や意義を具体的に数字で証明せよ

武田 サプリメントの社会的な役割や意義というものをアメリカは大変うまく証明しています。例えば、サプリメントのある成分を摂取することで疾病リスクがこれぐらい低減するので医療費をこれぐらい削減しますというシミュレーションをやったり、プロバイオティクスサプリメントを摂取することでIBSのリスクがこれぐらい下がり、欠勤する人の人数がこれぐらい減ることでこれぐらい経済損失を防ぎます――のような経済的側面からの効果を算出したりしています。
 昨年はダイエタリーサプリメント産業でこれだけの雇用を生み出し、これだけの賃金を払い、これだけの税金を納めて地方政府および連邦政府に貢献していますと、社会的な貢献というところまで数値化しているのですね。そういう部分ももちろん、健康食品業界が発展するための大前提なのですけれども、それが世のため人のためにこれだけ役立っていますと具体的な数字を示していくということが必要だと思いますし、そのためにも、つまらない措置命令を受けないとか、業界自身も底上げしていくということは当然必要になると思っています。
 当社としては、ビジネスサポートが仕事ですので、正しい方法で正しく利益を出していただくというところを応援していきたいと思っていますし、海外展開は得意としていますので、海外展開のサポートを行うことで業界の発展にお役に立てればと考えています。

保健機能食品、ルールを変えないといずれ頭打ちに

大曲 全くそのとおりだと思いながら武田さんのお話をお聞きしました。こんなレベルのことというふうになってしまうかもしれないのですが、保健機能食品というものを考えた時に、栄養機能食品は結局、表示できる範囲が限られているために全然差別化できません。特定保健用食品の制度が活性化しないのは、ズバリ言ってお金がかかるために取り組むことのできる事業者が限られてくる。それに加えて費用対効果が悪い。その一点に尽きるかなと思っています。
 一方、機能性表示食品制度の利点というのは、一応誰であろうと届出はできるという点です。ただ、あくまでも私見なのですが、その機能性表示食品に限らずに、トクホとか栄養機能食品も、今のままのルールから変えていかないと、市場規模という観点から考えても、遅かれ早かれ頭打ちになる時期が来ると思います。例えば、領域の拡大とかさまざまな課題があると思うのですが、それを1個1個クリアしていかないと、発展というところには限りが出てきちゃうと感じています。

 業界団体の役割というのは、行政に対しては現場から出てきた声を、意見、要望というかたちで提示するということですし、事業者に対しては現場の声を聞いてあげるとか、必要に応じては啓発活動をするとか、手助けとなるような情報提供をするというようなところに尽きるのではないかと思います。これは今回のテーマの品質管理に限らず、大枠としては多分そういったことになるのではないでしょうか。
 当社の具体策というふうなところなのですが、こういった業界動向というものがめまぐるしく変わっている中で、業界の動き、さまざまな動きを直接私が聞くことができる立場にいますので、せっかくいただいたこの立場を活かして業界の動きを注視しながら会社としてどう取り組んでいくのか、業界の動きを会社全体に落として運用していこうということが社の方針として決定しています。

30年先まで活動し続ける業界の健全化に努めたい

原 将来展望というところで皆さんがお話になった点は非常に大事だと思います。私は今、ユニアルという会社で父から事業を継承する立場ではあるのですが、おそらく私はあと30年ぐらいはこの業界にいます。
 業界活動に力を入れているのも、自分がこれから30年先まで活動し続ける業界というのが健全であるために微力ながらもどういったことが自分にできるのか、事業を次の世代に継いでいかなければいけない。当社は私が3代目になりますけれども、4代目5代目に、業界を健全なかたちでバトンを渡した中で、子どもたちに「お父さんはサプリメントのお仕事をしているんだよ」と胸を張ることのできる、誇れる産業にしたい。日本が世界に誇り、自分が息子に誇ることができるような、そういう身近なところから大きいところまで、私たちが尽力している産業というのが世界に誇ることのできる産業なんだということを胸を張って言えるような業界にしていきたい。それが自分の将来展望といいますか、実際に日々活動している中でも心がけていることです。

 そのためにやるべきことというのは大きくは2つあると思っています。まず1つが、消費者のリテラシー向上のための活動。業界で団体活動をやっていて感じるのは、本当に皆さん真剣に頑張っているのです。自分たちの身を律しながら、モノ作りに真摯に向き合っている方が本当にたくさんいらっしゃいます。惜しむらくは、それが行政や消費者になかなか伝わり切れていない。これを何とかしなきゃならないと非常に強く感じます。
 伝わらない要因の1つとして、業界団体の数とスタンスの違いがあるかと思います。業界団体といっても、背景が違う団体が複数あり、団体ごとに若干意見や方向性が違うところがある。私が日健栄協とCRN、産業協議会という3団体の理事を兼任しようと思ったのも、そういった業界団体それぞれの意見を吸い上げ、連携を図り、自分の手の届く範囲だけでも事業者団体が同じ方向を向いて意見を発信して行政とやり取りをする、消費者に伝えていくというところで少しでもお役に立てればという思いがありました。そういう部分で消費者の教育というのは大事だと思います。

 もう1つは、国の政策を正しく理解した上で、政策に則った業界活動の方向性を定めるというところです。健康日本21の第3次が今年から開始されましたが、第2次の評価において課題として挙げられているのは、これまでと変わらずメタボリックシンドロームの該当者・予備軍が増えているというところ、また低体重の子どもが減少して体重増加の子どもが増えている、あとは睡眠による休養が取れていない人が増えていたり、生活習慣病のリスクを高める飲酒の割合が増えていたりですとか、第2次としてもやはり著しく健康寿命を延伸するというところにはなかなか徹し切れていない。
 実際に、第3次の全体像の概念図の中でも、生活習慣の改善のためのリスクファクターの提言の中の1つとして、生活習慣病の発症予防、いわゆるセルフメディケーションというところが変わらず国の政策の中心になっている。
 その中で、OTCはもちろんですけれども、サプリメントが果たす意義、意味合いというのは非常に大事かなというふうに思います。そういった国の健康作り、国民に対して誰1人取り残さない健康作りの中に、どうやって我々の産業が役に立ち、消費者の寿命延伸それから健康格差の縮小に資することができるのかということを明確に業界として示していく。そして、それをリードしていくことが非常に大事だと考えます。その中でも、先ほどのお話にありました制度のあり方、保健機能食品制度の将来というところで、制度間のメリットデメリットを整理することも大事です。その中で業界団体が意見を一本化して、シンクタンクとしての役割を果たす。国の政策に寄り添いつつ、連合体としての指針を国民に対してどう発信できるのかを活発に議論していく必要があるのではないかと考えています。

 そういった業界団体の役割とは別に、当社の具体策というところでは、ユニアルは国産の素材に特化した機能性研究・原料開発を行っていますので、会社のテーマとして挙げているのが、「目に見えるSDGs」です。例えば、当社で取り扱っているクマ笹粉末におけるビジネスにおいては、北海道の過疎化した遠隔地で平均年齢80歳ぐらいの方々を雇用して原料となるクマ笹を刈り取っていただいています。それを当社設備を活用し、地元の企業に一次処理をしていただき、我々がサプリメントの原料に最終加工する。そのような工程を経た後にサプリメントとして、例えば青汁として販売されれば、その雇用や利益が地域経済に還元される。
 SDGsの見える化は非常に難しいのですが、国産の原料であれば、消費者がこの商品を購入することで、実際に北海道の何町に住んでいるこの人の雇用につながりました、というのが具体的に目に見えるかたちで消費者に伝えることができます。この出口は国内のみならず海外でもいいと思うのです。当社はユニアル・ライフサイエンスを通じて、メイドイン・ジャパンハーブとしてすでに東南アジアや北米などで商品のテスト販売も開始しているのですが、社会貢献という名の下にサプリメントを通じて企業が消費者との仲介役を果たすということが大事だと思います。もちろんコストの点では、直接当社が産地に自社工場を建てて、地域の素材を加工して、首都圏や海外に出すのが効率的ではありますが、そうではなく、地元の企業の人たちに技術や設備を提供して、彼らが自分たちで経済活動を営んだ上で、対等な立場で我々と協業活動していくということを念頭に、この事業を社長の理念とともに実証しています。そういったものを1つずつ積み重ねていくことが大事だと思っています。

唐木 今原さんがおっしゃったように、健康食品という仕事を子供や孫に誇れるような、「いい仕事をしてるね」と言われるような、社会に評価されるような業界にならなくてはいけないし、私はなりつつあると思っているのですが、厚労省はそうは思っていない。健康食品なんていらないものだと考えている。そもそもは、これ明治政府の方針だったのですが、西洋式の医薬品・医師制度こそが素晴らしいとして従来の民間医療を徹底的に弾圧した。戦時中には新しい薬事法で民間薬をほとんど禁止した。それで近代化が起こったのですが、他方、健康食品が地下に潜ることになった。それでも生き延びることができたのは国民の支持があったからなのですね。国民は健康食品で体調が良くなったと思うから飲んでいるけれど、医師会と厚労省はこれを認めようとしない。ここの壁をどうやって破っていくのか、そのためには国民の支持をどうやって取り付けるのかが非常に大事なところだろうと思うのですね。そのためにはいろんな方策を考えなくてはいけないのですが、1つはアメリカのような法律を作って、健康食品としての社会的地位を確立しなくてはいけない。これは皆さんお考えになっているところだろうと思います。その時にそこで取り入れる健康食品は何かを考えなくてはならない。

 消費者庁では、いわゆる健康食品を機能性表示食品にステップアップして、それをまたトクホにステップアップするという方式を考えるけど、それが本当にできるのか。先ほどお話があったように、トクホは金がかかる。ならば機能性表示食品で終わっていいのではないか。今あるトクホや栄養機能食品をどうするのか。そんな問題は残りますが、何とか健康食品の法律を作って、社会的に認められるものにしたい。では誰がやるのか。厚労省と医師会が反対していたら国は動いてくれない。そうすると議員立法しかないのですね。議員1人1人をリクルートする。そのためにこれは国民のためになるんだという理由が必要になりますが、それは皆さんがおっしゃったセルフメディケーションですよね。
 ではセルフメディケーションには何を利用するのか。国はOTCを推奨しているけれど、OTCは治療薬でしょう。健康食品は健康を維持するため、病気を予防するためにあるので全然違う。だから健康食品のほうが良いというのは、誰もが認める論理だろうと思うのですね。その辺のところで、一致できるとしたらゴールをそこに設定してプロセスをどうするのか、それからストラテジーをどうするのかというところをこれから考えていかなくてはなりません。今はそういう時なのかなと、皆さんのお話を伺いながら考えていました。

(了)
【文・構成:田代 宏】

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