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変貌する九州通販の課題と展望 【対談】新日本製薬VSエバーライフ

厚生労働省の食品衛生基準行政の消費者庁への移管。平成14年・17年通知改正に伴う健康食品行政の厳格化。そして3月22日に起きた「紅麹サプリ」事件を契機に大きく変わろうとしている機能性表示食品制度。業界を取り巻く環境は今、激変の渦中にある。通信販売王国として長らく業界を牽引してきた九州通販の雄である2社に、変化に合わせた取組、役割と課題について話を聞いた。(敬称略、5月16日取材)

名門百貨店から九州通販へ、業界の一層の活性化目指す

――(編集部)中込社長はもともと伊勢丹のご出身で、2014年に福岡・岩田屋三越の社長に就任されています。財界では伊勢丹時代から数々の改革に着手されたとお聞きしていますが、エバーライフとのご縁は?

中込 エバーライフの前社長の中嶋章義氏が大学の先輩でした。彼が2019年にお亡くなりになり、福岡に縁のある者としてお世話になり5年ほどになります。

――九州というと、昔から「原料基盤基地」、「通販王国」などと呼ばれて健康食品が盛んなエリアですが。

中込 九州地域はすごくまとまっている地域です。九州の通販業界の皆さんもとても仲が良い。私もこの業界ではまだ新参者なのですが、それをうまく取り入れていただきながら、この業界を盛り立てようという気運が高まっています。そういう意味では、将来的にこの通販業界というのは大いに可能性が出てくるのではないかと考えています。
 ただ、九州だけで進むと難しい面もあります。例えば、中国や韓国から見ると福岡が日本の玄関口ですから、もっとそういう視点で地域を活性化すれば良くなるのではないか。また、東京に目を移した場合、東京で流行しているものについて、福岡でどれを選択すればよいのか、全部選ぶのではなく、何を選ぶべきなのか、そういうことを考えながら組み立てていくと、もっと魅力のある地になるでしょう。
そういう中で、創造性・独自性のある九州の健康食品メーカー、通販業界が強く根付いてる所というのは1つの特徴だと思うのです。その意味で、この業界をさらに活性化することで、この九州の発展に寄与できるのではないかと思っています。

後藤 中込社長は百貨店業界の雄というお立場で岩田屋三越にいらっしゃいましたので、経営者としては、もう雲の上のような存在でした。そういう面では洗練された、ある意味、一方では成熟した世界ですので、それが成熟していない我われの業界から見ると、どうすれば安定的な業界として企業経営ができるかというのが、とても勉強になります。
 中島社長の葬儀では、私が弔辞を読ませていただきました。そういう意味でも業界を超えた人と人、そして、業界を代表して本当に良い関係を築くことができています。

「商売の基本は同じ、お客様が第一」(中込)

――中込社長にお聞きします。百貨店業務と通販業務の違いに戸惑いは?

中込 商売の基本は一緒だと思います。後藤社長も私もそうなのですが、大切なことはお客様が一番だということです。お客様が第1で、そしてそのお客様に商品を提供するコールセンターの社員を大切にすることが商売の基本であると分かれば、後はどういう商品を造り、どういう宣伝をするのかということに尽きます。
 お客様を大事にしない、コールセンターの人たちを大事にしないとなると、商売の基本が崩れてしまいます。これは通販業界でも、小売でも、百貨店でも一緒だと思います。

「経営の基本、業界の中に根付いた」(後藤)

後藤 そうですね。どの業界でも、お客様を大切にしていることというのは同じなのだなとつくづく思います。中込社長は経営の大先輩ですが、九州以外の地、さまざまな業界、そして個人的なご縁も、多くの方とつながっておられる。本当にいい意味で自然な情報交換ができて、業界企業としての連携という部分が九州にも根付いてきているのではないかと感じます。
 少しずつですが、業界自体がある程度前に進み、業界そのものに携わる人々の意識や考え方や見識、そういったものが異業種からいろんな人たちが入って来られることによって、大きく視野が広がったというか、視点が変わった、上がった、そういう印象を受けます。まさか、通販業界において百貨店のトップが社長に就任なさるなど、15年前には全く考えられなかったですからね。そういう意味では、業界が健全化していく上でも、健全とは何か、先ほどお客様や社員への想いに関するお話がありましたけれども、経営の基本が業界の中に根付くようになってきたということは本当に価値あることだと思います。

中込 特に福岡は財界も含め、皆さんすごくまとまりがいいのです。私も外から来た人間ですが、皆様が仲良く接してくださり、歓迎してくれます。その雰囲気の中で仕事をすることで、外から来た仲間の間でも、やっぱり九州を良くしようというような気持がどんどん湧いてくるんです。特に福岡を良くしようという思いがあると、取引先やネットワークも自然と広がっていきます。ですから、我われみたいな者でも、ここを良くしなくちゃいけないという気持ちが非常に強くなる。そういう地域ですね。

――九州財界のまとまりの良さ、後藤社長はどうお考えですか?

後藤 とても関係性が良いと思います。私は商工会議所で小売ゾーンの部会長をしているのですが、地元の小売店や販売店といった物を売る業界の皆さん方との交流も自然にあります。通信販売と関係の浅い業種の人たちにとっては「何だろう?」というモデルなのですね。

(続きは会員専用ページへ)

 問題を起こした会社も少なからずありますし、通信販売というジャンルそのものをある程度理解されるまでに昔は時間がかかったのですが、時代の流れとともに店舗販売、訪問販売、通信販売の垣根が外れ、それぞれの業種の参入企業が増えてきました。そのような中で、自然な関係性を築く段階に入ってきたと言えます。

――業態そのものが進化しているということですね。

後藤 そうですね。特に通販王国と言われた時代というのはオフラインの時代ですから、テレビと新聞、そしてコールセンターという、この形が最大の強みだったと思うのです。今はそれに少しデジタルが加わってきていますが、その良さ、その独自の文化、それらを私どもも、エバーライフさんに見学に行かせていただくことで、コールセンターを含めていろいろなことを学ばせていただきました。
この地に根付いているやずやさん、キューサイさんもそうですが、業界の中で優先的に取り組んでいる従業員教育やシステムの課題など、切磋琢磨し、お互いに学び合いながら共有する。お互いの強みをお互いの価値観の中で生かしていくという交流がとても学びの機会になったと思います。おそらく、そういう意味では全ての業界がそういう時を経てきた。いま成熟している業界というのは、きっとそういう過去があって今があるのだろうと思うのですね。

人材不足解消のカギは? 働きやすい職場作りが課題

――20年前と今、具体的に何が変わりましたか?

後藤 なかなか一言では表現しづらいところですが、通販業界そのものの売上が3倍近く伸びているわけです。そう考えると、やはり利用者が非常に増えてきた。お客様が安心感を持って通販を利用できるようになりました。

――通販ビジネスについてお聞かせください。

中込 通販のビジネスは今後人材不足が問題になると思われます。通販はデジタル化が進んでいますが、やはり人的産業です。特にコールセンターの人材を集めなければなりません。福岡は九州の各地から集っている人達が多いので、東京など他の都市から比べて、人材も集めやすいです。福岡は東京に比べ、賃金も2割ぐらい安いのです。弊社は九州において同一労働・同一賃金を取っていますが、宮崎にあるコールセンターより福岡の方が人材が集まりやすい。
 また、通販は他業種に比べて、離職率が高く、特にコールセンターの離職率は高いです。これを解消するためには、働きやすい職場環境作り、また、働きがいのある職場作りが必要です。働きやすい職場を作るためには、コミュニケーションを良くすることが大切です。ただコミュニケーションを取るだけでなく、お互いがリスペクトしたコミュニケーションを取るようにしていくことが大切です。上司でも部下でも、相手を思いやりながらコミュニケーションを取ることにより、お互いの本音がでて良く理解することができます。働きがいのある職場を作るには、会社の方針、各担当のVISIONを明確にして、同じ方向に向かって上司が一緒になって方針を達成することが大切だと思います。このように、働いている人たちとリスペクトしたコミュニケーションを取り、働いている人達が方針を理解していくことにより、ブラックでもホワイトでもなく、プラチナ企業になる事が通販会社としての価値を上げることだと思います。

「会社の価値を上げるためにはプラチナ企業になること」(中込)

――具体的には?

中込 売上も大事です。ただ、売上を上げるためには、どのような顧客に、どのような商品を、どのような宣伝・販促をして、どのぐらいリスポンスがあるのか、そのためには、何人のコールセンター要員が必要か、という仮説のもとで仕事をすることが大切です。達成できてもできなくても、何が課題かと、常に分析をして、その結果、次に何をするのかということを、働いている人たちが、皆で認識することが必要です。また、大事なことは、働いている人たちを大切にすることです。私が朝一番にする仕事は社員が誰が出社して、誰が休んでいるか、また、3日間くらい休むと、“大丈夫か?”と社員に聞くようにしています。
また、インフルエンザや病気で休んでいる社員がいると、飲み物等を差し入れすることにしています。そして社員の名前と顔をしっかり覚える。そうすることによって、社員も“見てくれているんだ”という気持ちになり、少しはやる気が出てくれればと思います。“この会社に入って良かった”と思ってもらえば、社員の離職も少なくなり、通販会社としての価値も上がってくるのではないかと思います。

「会社の強みが人、大切なのは社員、人的資本経営が大事」(後藤)

後藤 同感です。私も社内では社員の顔を一番覚えていると思います。入社間もない社員や、結婚して名前が変わった時などは結構悩みますけどね(笑)。ただ、まさに中込社長が言われたように、社員を知ることはすごく重要なことだと思います。仕事がきつくても、会社や上司に大切にされていると思うと頑張れるじゃないですか。だからこそお客様を大切にできる。
売ってお金儲けという発想が強くて、稼ぐという思いが強いほど、どうしてもお客様に無理に販売をしてしまうし、無理をしていることを自分も感じながら日常を過ごすわけですね。そうすると、商品を購入するお客様自身が、それ以上の価値を感じられずに、逆にマイナスの印象を持ってしまうことになります。それは決してよくないことです。

 最近の言葉で言えば、人的資本経営ということになるでしょうか。会社の強みが人、大切なのは社員、このように思う経営者が増えていくことはすごく大切なことだと思います。ただ、お客様に商品をお勧めするとか、商品を試すとか、逆にそういうリアルなことを経験せずに、コールセンターや物流センターに足を運ぶこともなく、見もせず、分からない状態でお客様に満足していただくことはできないのですから。どうしてもそうなりがちなのですが、その辺がだいぶ変わってきたのではないでしょうか。

中込 そうですね。私も倉庫には年に何度も行きますし、パートさんたちに差し入れを持って行ったりもしますね。

業界に大きな傷跡残した「紅麹サプリメント」事件

――小林製薬の「紅麹サプリメント」による健康被害が社会問題になっています。

後藤 健康被害は無くさなくてはならないのですが、今回の事案では、製造の段階で、原因物質が混入した恐れが高いと言われています。原材料と製造の工程に問題があったということですから、機能性表示食品だけに問題があったわけではないと認識しています。少し偏った報道が行われていることが業界の信用に関わる問題になります。そういう傾向を非常に懸念します。このような誤解に基づく報道は業界にとって大きな課題です。
 テレビショッピングや通販を新しく利用されるお客様の中には、「機能性表示食品って大丈夫なのだろうか?」と疑問を持たれる方もいらっしゃったと思います。そのために新たなご縁にならなかったお客様もいるのではないでしょうか。
 当社としては、原料の提供先や製造の委託工場に対してすぐに確認を行い、「製品はどうなのか」、「品質についてどう考えているのか」、「なぜ安全と言えるのか」というお客様からの質問に対し、誤解のないようにお答えすることに努めました。

中込 何よりお客様の信用を失ったということが、一番大きな痛手です。消費者庁には、機能性表示食品は安全・安心なのだというコメントを出していただくことが一番ではないでしょうか。
実際、いろんなお問い合わせがありますが、特にお客様からの解約などのお問い合わせに対してはとにかく丁寧に接することを徹底しています。時間はかかるかもしれませんけれども、原因究明が進めば、いずれお客様はまた戻ってくれると思います。その時に、対応の良い会社で、やはりあの会社でもう一度買ってみよう、そうお客様に思い直していただくことが大切だと思います。解約する時もあの会社は感じの良い会社だったという思いが、再びお買い求めいただくことにつながると思います。我われの会社だけではなく、業界全体でも信用を取り戻すようにしていく事が大切です。

後藤 そうですね。まずは足元を固めるということだと思います。中長期で見ると、トクホであるとか、機能性表示食品であるとか、健康食品であるとか、そういうものを体系化して、サプリメント法なのか健康食品法なのか、名称は別として法制化し、その中で安心して消費者がセルフメディケーションできる枠組みを作るのが非常に重要ですね。ただし、何か基準を作ったところで問題は起きる。医薬品業界の中でも問題は起きています。ですから、そういうものを個々の各企業が真摯に対応していくことが大切なことだと思います。

中込 今回の問題が、通販業界や健康食品業界全体の問題になってしまうことが懸念されます。だから健康食品が悪いという意識をお客様が持たないようにしなくてはなりません。そこは時間をかけても証明していかないと、せっかく良くなっているこの業界が足踏み状態になるというのは非常にもったいないことです。

後藤 もともとはグローバルな基準を満たした機能性表示食品を輸出産業の目玉の1つにするはずだったのですよね。そうであるのにこういうことが続いていくのはよくない話だと思います。事故が起きたから良くないとかではなく、日本の価値のある商品を世界に広げていくためのとても重要なチャンスをこういうことで失っていくようなことになってほしくない。
ビジネス的な要素と健康に対する考え方も、20年30年前と今とでは格段に違う。これだけデータが可視化されて、状況が即座に分かる環境下で、物事を考え判断する基準が昔とは違ってきていると思うのですね。それが昔のままであるというのは、何か前提が違っていて、前提が違うものに対して今、何か今のことを古い前提で判断しようとすると、前提が違うのですから間違った判断になるはずなんです。
ですから、前提は、先ほどから話に出ているように、やはりお客様や、世の中の人にとって価値あるもの、そういう物作りをする、提供するというような、そんな姿勢がずれていなければ、価値は必ずもたらされるものになるわけです。ですから昔とは前提が変わっているのだということを我われはもう一度、再認識する必要があるのではないでしょうか。

中込 後藤さんが言うように、通販というのはこれからも新しいものがどんどん進化していく中で、お客様の満足度を上げていかないといけません。例えば、以前は野菜が入っていて健康に良いだけだった青汁が、今は機能性まで表示できるようにどんどんアップデートしています。化粧品の「クッションコンパクト」も、シミを隠すだけでなく、今度はUV、保湿までできるということで、進化を繰り返しています。
お客様の満足度を上げていく努力を、業界の皆さんが切磋琢磨しながらやっているので、商品価値を上げてきました。そういう上昇スパイラルの中で、今回のような問題が出てくると止まっちゃうんじゃないかと懸念されます。大変もったいないと思います。今回のことで、原点回帰して、もう一度、安心安全な商品作りをしていかなければならないと思います。

――将来展望は?

後藤 通販という括りで、最近ではサプリメントも医薬品も食品もそうですが、さまざまなかたちで身近に利用できる環境になっていますから、やはり健康長寿社会にこの業界として寄与する。その寄与するかたちというのは、1つが販売の形態が通販ということであるとするならば、この1つの販売のチャネルとして貢献していく時期にきているということだと思います。通販は国境を越え、若者利用が多いと言われますが、まさにその時代を経験されている方が、この先の将来もずっと通販を利用していくわけですから、彼らが安心し、より便利に利用できる環境を今ある企業の我われが、今のうちに形作ることをやり、若者の健康長寿に寄与していくことができる道筋を作っていくのが重要になってきます。

中込 今の時代、50歳以上の人が5割近くになってきています。高齢化社会の中で、従来顧客60~80歳をどう満足させていくのかという課題があります。しかし、このままでは、お客様と会社が一緒に年をとっていき、将来性がないのではないかと思います。その点から、新しい顧客創造ができるのかという点が重要になってきます。後藤社長が人気アイドルをCMに起用して、新しい顧客層を狙おうとしているように、新しい顧客をどのようにして獲得できるのかが、今後のポイントとなります。媒体もTV・新聞から、SNSに移っていくように、商品開発も新しい顧客に向けて開発をしなければなりません。
そういう意味で、従来顧客の満足度を上げることとともに、新しい顧客創造をして、通販の未来を作り出すことが重要だと思います。このようなことをしながら、通販のお客様を増やし、安心安全な商品開発をして、通販で買って良かった、いい商品がたくさんある、とお客様に思っていただくことが大切だと思います。また、通販で働きたいと思う人をどれだけ作ることができるかが重要だと思います。社員を大切にして、従来顧客の満足度を上げるとともに、新しい顧客創造が出来る企業を目指していきたいと思います。

――ありがとうございました。

<プロフィール>
新日本製薬㈱ 代表取締役社長 後藤 孝洋(ごとう たかひろ)氏
1971年1月福岡生まれ。1995年新日本リビング(現同社)入社。2005年新日本製薬代表取締役社長に就任。

㈱エバーライフ 取締役社長 中込 俊彦(なかごめ としひこ) 氏
1954年3月東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒。76年4月伊勢丹入社。2014年岩田屋三越代表取締役社長に就任。2019年エバーライフ取締役社長に就任。

【聞き手・文・構成:田代 宏】

(冒頭の写真:左から後藤社長、筆者、中込社長)

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