国産サプリを海外へ ライブコマースの可能性、 いきなり売らないという戦略
ライブコマース(Live Commerce)。動画のライブ配信とEC(電子商取引)を組み合わせた販売手法である。中国や東南アジアなどでは、商品の購買手段として利用が広がっているという。ライブコマースを活用し、日本国産のサプリメントや健康食品を海外に展開していく可能性を探る。
買い物は「ライブ」の時代?
ライブコマースは2016年に中国で始まったとされる。EC大手のアリババ社が同年5月、ECモールに動画ライブ配信機能を組み込んだ「タオバオライブ(淘宝直播)」を開始。以降、中国では動画のライブ配信を視聴しながら商品をECで購入するスタイルが急速に広がり、2020年までに定着。そして新型コロナ禍を経て、東南アジアにも広がったとされる。
ライブコマースの配信動画では、「ライバー」と呼ばれる販売者、あるいはいわゆる「インフルエンサー」が商品の使用方法を実演したり、特徴を説明したりする。視聴者である消費者はチャット機能を通じて質問やコメントを投稿し、それに販売者が即時に応答。商品に興味・関心を持った消費者は、その場で購入手続きに進むこともできる。
「テレビショッピングと決定的に異なるのは、視聴者がリアルタイムで質問し、それにライバーが即座に答えるという双方向性を備えている点です。気になる点がその場で解消されるからこそ、購買のハードルが一気に下がり、『欲しい』と思った瞬間に購入できる。それがライブコマースの最大の特徴です。
中国では年代を問わず、買い物=ライブコマースが一般化しています。東南アジアもここ数年で利用が拡大しています。日本は大きく出遅れましたが、2025年からTikTokによるライブコマースがようやく始まりました。日本でも今後、若年層や主婦層を中心に普及が進んでいくと見ています」
こう話すのは、中国人を中心に80万以上のフォロワーを抱えるというインフルエンサーで、およそ8年前からライバーとしてサプリメントや化粧品などのライブコマースを行っている小柳みゆ氏。ライブコマース支援事業などを手掛ける㈱フューチャー(東京都江東区)の代表取締役でもある。
サプリは本当に売れるのか
面識を得たのは2025年の『食品開発展』。「OEM×ライブ×インフルエンサー:成功する東南アジア越境ECモデルとは」と題した小柳氏のセミナーを聴講したのをきっかけに、後日改めて取材した。
尋ねたのは、果たしてライブコマースはサプリメントの販売に適しているのかどうかだ。テレビショッピングも同様だが、継続的に摂取する必要のあるサプリメントの良さ(摂取するメリット)を即時に可視化することは不可能だ。それを伝えるためには、その商品の開発背景から配合成分や摂取方法などまで丁寧に説明する必要がある。それがライバーに可能なのだろうか。
「確かに、サプリメントのライブコマースは難易度が高く、ライバーの力量がものすごく問われます。その商品について一定の知識を持ち、リアルタイムで視聴者からの質問に臨機応変に答えられるようにしないといけません。サプリメントを売ることができれば、本物のライバーです。私たちは東南アジア、特にマレーシアで、そうしたライバーとのネットワークを複数持っていますし、養成も行っています」
もっとも、説明するのはライバーだけではない。そのサプリメントの製造工場の関係者や商品開発担当者などが出演して説明することもある。
「ライバーが来日し、工場や実際にその商品が販売されている店頭などから、例えばマレーシアの消費者に向けてライブコマースを行うこともあります」と小柳氏。「私たちも現場に張り付いてライバーをサポートします。台本があるわけではないライブコマースは、間違ったことを言うと、すぐに事故につながってしまいますから」
「間違ったこと」というのは、法令も同様だ。小柳氏によると、ライブ配信を日本から行う場合は、日本の法規制に従った説明が前提になる。また、TikTokやFacebookなどライブコマースのプラットフォーム側も監視体制を常時敷いており、過度な効能表現に対しては警告を発したり、配信停止措置を講じたりすることがあるという。「最悪の場合、アカウントの永久凍結です。ライバーの多くがライブコマースで生計を立てていますから、そうならないように十分気を付けています」
販売ではなく試行の場
小柳氏らフューチャー社は、主に東南アジア向けのライブコマースを支援している。「市場規模が最も大きいのは中国です。ただ、成熟し過ぎているため、これから参入するには相当の体力が必要です。一方、東南アジアはまだまだ成長の余地があります。美容や健康に対するニーズが高まっていて、日本製品に対する信頼感もありますから、サプリメントは一定の需要が見込めます」と同氏。そうした中でライブコマースは、「最良のテストマーケティング手段になる」と言う。どういうことか。
「いきなり一般貿易で現地展開しようとするのはリスクが高いです。そうではなく、まずは越境ECであるライブコマースを小規模の投資で試してみる。ライブ配信で見えてくるのは、現地消費者のリアルな反応です。どのような成分に関心が集まるのか、価格に対してどう感じるのか、パッケージは魅力的に映っているのか。そうしたことはライブ中の視聴者数、クリック数、滞在時間、コメントや質問の内容といったデータからリアルタイムで把握できます。こうした各種のデータを踏まえて商品を改良し、再びライブ配信する。または、別の商品を試してみる。それを繰り返しながら現地で十分売れる可能性が見えてきた段階で一般貿易に切り替える。そういった使い方をお勧めしています」
つまりライブコマースは、単なる販売手法にとどまらない。現地の市場調査と、現地の消費者に「刺さる」商品の開発を同時に行うための「装置」であるということだ。小柳氏が続ける。
「進出したい国の消費者に対する、商品やブランドのPR手段としても考えてもらえれば。1回の配信で何千人もの消費者が視聴することもあるライブコマースは、収益をともなうPR手段になり得ます。売れればラッキーですが、より大規模に販売できる一般貿易も視野に入れるのであれば、まずは商品やブランドの認知を広げていくことが大事だと思います」
国内人口が先細っていく中で、事業者の視線はおのずと海外市場に向かう。だが、海外進出は一筋縄ではいかない。現地の規制や制度の確認と対応、販売チャネルの構築、認知の獲得──など段階を踏んだ準備が求められる。そういった過程を小さく試し、消費者の反応を実際に確かめながら前に進んでいく手段として、ライブコマースは1つの選択肢になり得るのではないか。それを活用した海外展開の手法は一様ではないだろうが、小柳氏の話は、そうしたことを強くうかがわせる。
【石川太郎】

