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東大医学部不祥事の深層 刑事と民事が照らす研究資金制度の盲点

 東京大学医学部を舞台に、教授の収賄容疑による逮捕と、社会連携講座を巡る民事訴訟が同時進行している。刑事事件としては連日テレビや新聞で報じられる一方、民事訴訟は粛々と審理が続いており、これらを単なる「個人の逸脱」や「不祥事」として処理することは、問題の本質を見誤る。
 背景には、奨学寄付金や社会連携講座といった外部資金制度が内包する構造的な脆弱性がある。研究の自由を支えるはずの制度が、なぜ不正を誘発しやすい仕組みとなっているのか。刑事と民事という2つの局面から、国立大学と研究資金制度の盲点が浮かび上がっている。

刑事事件の陰で進む民事訴訟

 東京大学大学院医学系研究科の佐藤伸一教授が収賄容疑で逮捕され、28日には同大学総長が公式にテレビを通じて謝罪する事態となった。国立大学の研究倫理を揺るがす事案として、報道は刑事事件の側面に集中している。しかし、ウェルネスデイリーニュース編集部では、(一社)日本化粧品協会および(一社)日本中小企業団体連盟が、東京大学ならびに佐藤伸一教授、吉崎歩元准教授を被告として提起した民事訴訟について、これまで裁判記録を基に継続的に報じてきた。同事案は、刑事責任の有無にとどまらず、研究資金制度と大学ガバナンスの在り方そのものを問うものだ。

奨学寄付金が内包する構造的リスク

 国立大学を舞台にした研究費不正や接待問題は、もはや個々の教員の資質や倫理観だけでは説明しきれない段階に入っている。東京大学医学部を巡る一連の事案は、研究資金の流れと統制のあり方が制度的に脆弱であることを、刑事事件と民事訴訟の両面から示した。
 こうした構造的問題を考える上で、先行事例として注目されたのが、昨年11月に発覚した医療機器メーカーを巡る事件である。東京大学医学部附属病院の医師が、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」の製品を優先的に使用する見返りとして、「寄付金」名目で約70万円を受け取ったとして収賄容疑で逮捕され、同社の元営業責任者も贈賄容疑で逮捕された。
 この事件では、企業側が「奨学寄付金」として大学に資金を拠出し、その一部が特定の医師の裁量で使用されていた点が問題とされた。奨学寄付金は形式上、大学に入金され、大学本部や学部が一定割合を差し引いた後、寄付先として指定された教授や准教授が研究目的などに使用できる「表の資金」である。しかし、特定の医療機器や薬剤の採用を条件とするバーターの関係が認定され、賄賂に当たると判断された。

 医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌弘氏は、YouTube番組「郷原信郎の日本の権力を斬る!」に出演し、「問題は一部の教員のモラルではなく、制度自体が不正を誘発しやすい設計になっている点にある」と指摘した。奨学寄付金は本来、特定の研究テーマに限定されず、研究者の研究活動全体を支援する趣旨の資金だが、医療分野では実質的に個々の医師の裁量で使うことのできる余地が大きく、企業との距離を不必要に近づけてきたという。

 医療機器メーカーや製薬企業では、治験や共同研究費は研究開発部門の予算である一方、奨学寄付金は営業部門の予算から拠出される。医師が処方権を持ち、保険制度の下で医療行為が事実上制限なく行えるという医療業界の特殊性が、この仕組みを成り立たせてきた。奨学寄付金は個人の財布に近い性格を持つ一方、大学を経由し、支出も大学が管理・把握できるという点で、直接的な賄賂とは異なる側面もある。
 それでも今回の事件では、医局のパーティー費用や秘書の人件費といった一定の範囲を超え、家族用のパソコンや子どもの教材購入など、私的性格の強い支出が明らかになったことで、捜査当局の介入につながったとされる。上氏は、製薬業界では過去の摘発を契機に奨学寄付金の見直しが進んだ一方、医療機器業界では対応が遅れ、その歪みが露呈したと指摘する。
 さらに、国立大学の運営費交付金が減少し、外部資金への依存度が高まっている現状にも言及し、「大学側が資金を求め、企業側が影響力を求める構造そのものを是正しなければ、同様の問題は繰り返される」と警鐘を鳴らす。

問われる大学ガバナンスと外部資金管理

 社会連携講座を巡る民事訴訟では、研究費の支出実態や契約解除の是非、相殺の可否などが詳細に争われている。ここで問われているのは、大学と外部団体との契約が、研究の公共性と私的利益の境界をどこまで明確に区別できていたのかという点である。研究、資金、人事が特定の教員に集中する仕組みは、トラブル発生時に大学全体としての統制を著しく困難にすると言われている。
 東京大学は総長名で謝罪と再発防止策を公表し、制度改革に取り組む姿勢を示している。しかし、事件発生後の対症療法だけでは不十分であり、資金の流れを透明化し、第三者が実効的に監視できる仕組みを制度として組み込むことが不可欠だろう。

 今回の一連の事案は、特定の大学や教員にとどまる問題ではない。研究の自由を支えるはずの制度が、結果として不正や不信を招いていないか。国立大学と医療界が抱える構造的課題が、いま厳しく問われている。

【田代 宏】

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